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血の呪いの正体が分かるとすぐに本格的な治療が始まった。
国境なき医師団の人々により血液製剤の投与が開始され、俺たちはその治療の様子の撮影を依頼された……が、見慣れぬ道具を警戒して撮影させてくれる人はほぼ居なかった。
が、ひとりだけ許可を出してくれた人物がいた。
「わいがアナマキ言います」
活発そうな大きな瞳の青年がぺこりと俺に頭を下げた。
今目の前にいるアナマキ氏はフィフィタ氏の弟であり、今回唯一手術を受けることを希望した患者でもある。
「日本の外交騎士の真柴と申します、こちらは俺の連れ合いの木栖です。今回は撮影許可を出して頂きありがとうございます」
「いえ、兄さんから大陸の話や異世界のことを聞いとったもんで一度会うて見たかったんです」
アナマキ氏の喋りは独特の訛りが入っているものの、ゆっくりとしていて比較的聞き取りやすい大陸標準語だ。
(イシレリ少年みたいな半分何言ってるのか分からんような喋り方でなくて良かった……)
蚊帳をかけて蚊取り線香の焚いた病室に奥には兄であるフィフィタ氏が同席しており、俺の後ろにも例の監視の青年がいる。
「・}$!#4760」
ふいに病室の扉が開く音がして、反射的に後ろを振り向くと女性が立っている。
確か彼女はイシレリ少年のとりまとめる氏族の医者で名前は確かハラエバル氏と言っただろうか。
フィフィタ・アナマキ兄弟と少しばかり会話すると、状況を理解したらしく彼女は大陸標準語で話し始めた。
「邪魔してすんまへんなぁ、アナマキくんの様子見に来ただけなんやけど」
「お気になさらず。せっかくなのでお話を聞いて記録させて貰っても?」
「記録してどないしはるん?」
「今回お金を出した日本の人々にちゃんとあなた方のお金を不正に使わずに皆さんのために使ったとお知らせするためですね」
「なるほど。ほんならかましまへん」
2人の許可が取れたところで話を続行しよう。今回は日本側への最初の中間報告となるので、まずは彼ら自身について聞いてみよう。
「今回は初めてなので、お三方の身の回りのことなどお伺いしても?」
「話せる範囲で、な」
フィフィタ氏が釘を刺すようにそう告げた。まあ他民族に対する警戒心の強い人々であるのでこれくらいはどうという事でもない。
「アナマキさんの病気はいつから?」
「わいのは物心ついた時分からですねえ、ハラねえちゃんがずっと面倒見てくれて」
「ウチはこれが生業やからな。でも秘術である繭籠りを使ってもどう頑張っても治せへんくて、繭護りとしては残念やったな」
「繭籠り?」
「ウチらの特別な若返り・肉体再生術や。詳しく事は言えんけどな」
肉体再生術というワードには惹かれるものがあるが彼らに問うたところで信頼を損ねるだけだろう。
それに彼らは長命と聞いていたが若返りの術があるという事は、実際は何度も若返る事で長生きしているだけなのかもしれない。
(まあこの辺はもっと友好関係が出来てから聞くことにしよう)
「あらゆる方法を用いても治せない、だからあなた方に取っては呪いだったんですね」
「ですねぇ。わい、こんまい頃から外走ったり運動するのが好きやったのに膝が動かんくなってもうて、それで兄さんが外に治す方法を探しに行ってくれて、それで連れて来てくれたお医者さんが皆さんやったんです」
「そうだったんですね」
「ウチからしたら己の力不足を呪う他ない事やけどな」
ハラエバル氏がボソッと俺たちに聞こえるようにそう告げて来たのは、俺たちへの当てつけか愚痴か。
その辺りは置いておくとして、次にどのような検査を受けたかについてやどんな治療方針の説明を受けたかを中心に聞き取る。
通訳していた柊木医師や事前に準備していたコミュニケーションカードもあり、意思疎通には大きな問題はなく安心出来たという。
それでも見知らぬ人々に自分の身体を託すことには少々の不安も除かせた。
事前に手術について説明は受けているが、念のため実兄であるフィフィタ氏や信頼出来る医者であるハラエバルさんが近くにいるようにして欲しいとも頼んだそうだ。
「そういえば手術っていつですか?」
「来週末です、弟の準備もありますので」
フィフィタ氏がそう告げる。
「……この手術が失敗すれば、あなた方への信頼は地に落ちるでしょうね」
さらりと脅迫じみた言葉を告げられて、俺ではなく執刀医に言ってくれと言う気持ちを隠せなかった。




