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双海公国到着後、いの一番に向かったのはこの国の最高権力者にして今回船の調達を依頼したヤマンラール女公爵の邸宅である。
イーファは俺たちとその船を最終目的地である島まで安全に警護することが仕事だからと言ってヤマンラール公爵邸までの案内も引き受けてくれた。
双海公国は海や川沿いに石造りの建物がみっしりと居並ぶ、どこかイタリアのヴェネチアを彷彿とさせるような街並みだった。違いと言えば川や海に繋がる大小色々な水路や道が直線的なので見通しが良い事と、街のあちこちに木がいくつも植えられている事、あとは家々に船着場がついている事だろうか。
ヤマンラール公爵邸はその街の中心部、海に繋がる大きな水路と川につながる大きな水路の交わる場所に面して建てられた白亜の豪邸であった。
その豪邸の門番に深大寺が声をかけて事情を伝えると、ヤマンラール公爵の執事を名乗る白髪の男性に応接室へと迎え入れられた。
執事の人から出されたのは一杯のお茶だった。
曰く長い船旅の後の疲れを取るのに良いお茶らしいが、俺にはドクターペッパーの炭酸抜きにしか思えなくて何とも言い難い不味さを感じつつ一気飲みして誤魔化した。
口直しの水を飲み干した頃になって「遅くなってしまって申し訳ない」と言いつつ現れたのはカウサル女公爵本人だった。
「……いえ。お気遣いありがとうございます」
「内容が内容だからね。極力知ってるものは少なくしたい。……で、早速来てもらって悪いけど確認だ。私は君たちに船を提供し、指定された金額と保証人・深大寺若菜の身柄を身柄を預かる。保証人の返却は君たちに貸した船が双海公国帰港後とする。いいね?」
「承知してます、今回の支払いには日本から持ち込んだ金の延棒を使わせていただきます。木栖」
今回は日本円及び地球上の通貨がいっさい使えず、手持ちの異世界通貨も足りず、異世界産の金塊はかき集める手間の割に品質がいまいちという支払い上の問題があった。
なので日本の大手金属メーカーから購入した金の延棒を支払いに用いる。
木栖がぶら下げていたジュラルミンケースをテーブルの上でおもむろに開けると、みっしりと純金の延べ棒が詰め込まれている。
この1億円相当の金の延棒には同席する関係者全員がざわついたが、念のため木栖と深大寺にしか伝えていなかったのでざわつかれるのも仕方ない。おそらく手形なり現地通貨での支払いを予想してたのだろう。
持ってきたケースに入った金の延棒を代金として支払う旨を伝えると「念のため純度を確認させてもらおうか」と言って金の延棒に触れる。
「……こいつは滅多に見ない高純度の金だ。割合は?」
「こちらの言い方で言うならば9割9分金になります」
今回用意したのは99.99パーセントの純金の延べ棒だが、この世界には百分率が普及しておらず1厘に当たる概念もないのでこういう言い回しになる。まあ俺が知らないだけかもしれないが。
「9割金!公称通りのようだね。約束通り船は貸し出そう……ただ、貸す予定の船の修理にまだ2日ほど掛かるそうでね。悪いんだがうちの離れを貸すから暫しここに居てもらいたい」
「承知しました」
契約書を差し出されて内容を俺・木栖・深大寺・柊木医師の4人で最終確認をし、サインと毛髪の交換(これはこの世界における押印のようなものだ)を済ませる。
「そうだ、船の修理が終わるまで異世界に興味のある奴を送り込むんで適当に相手しといてくれ。用心棒にイーファを、世話係案内人としてうちの執事長と執事を3人ほどつけておくから」
むしろその異世界交流の方がメインの目的のように思うが、俺の方で文句を言うわけにはいかない。
「ちなみに深大寺はこの契約発効時点で私の預かりになるからここで一旦お別れになるけど、いいね?」
「大使、木栖さん、柊木先生。どうか無事に帰ってきてくださいね」
「わかってる」「ちゃんと迎えに行くさ」「深大寺さんもも体に気を付けてくださいね」
そう告げると深大寺はカウサル女公爵に連れて行かれ、俺たちは客人として離れへと連れて行かれる事になった。
この離れには双海公国のあらゆるジャンルの学者達が勢揃いしていて、俺たちは2日に渡り彼らに吹っ掛けられる政治・経済・哲学・神学・魔術科学について議論を交わす事になるのだが死ぬほど面倒であったとだけお伝えしておく。




