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予算の問題解決のため奔走する飯島とは別に、俺は深大寺にある話をしなければならなかった。
「船を借りるためには僕が保証人にならないといけないんですか?」
「ああ。こっちの商人に確認してみたんだが、高額な貸し借りにおいては保証人を預けて支払えなくなったら借金奴隷になって無給の使用人として働いたり娼館送りになるのはよくあることらしい」
こっちの世界の保証人制度は実質人質だ。
借主が貸したものを壊したり金を踏み倒したりしたら、保証人は貸主のもので返済のため貸した金額と利子分の労働する。保証人は最低限の衣食住は保証されるものの返済終了(今回の場合は30年程度と見込まれる)まで生活や個人の自由に大幅な制限が掛けられる。
貸主有利の仕組みだがそれがこの世界の決まりならば従うしかない。
「今回はカウサル女公爵自身が深大寺を指定したから他の人に代わってもらうのも多分無理だろう、とも言われた」
「僕しかできない感じですね」
可能な限り無事に帰り着けるように努力はするが、万が一の可能性を考えると受け入れがたい部分は大きい。
しかし現実問題として深大寺が保証人を受け入れてくれるのならば圧倒的に話が早く進むのは火を見るよりも明らかであり、深大寺がすっぱり断るか受け入れるかでこの後の展開が大きく変わるのも事実だった。
「でも大使が無事に帰って来れればいいんですよね?」
「ああ。ただ最悪の場合を考えると俺としてはやりたくない」
「最悪の場合娼館ですもんね……確かに抵抗感はあるかなあ……。でも僕が受け入れなければ倍額なんですよね?」
「嫌なら断ってもいいんだぞ?かき集めればいいだけだ」
深大寺はしばらく考えてから「うん、」と呟いて俺の目を見て告げた。
「保証人になります」
「本気か?」
「ええ。カウサル女公爵との手紙のやり取りで求められてることは分かっています、たぶん手元に置いて日本や異世界の知識を提供して商売のタネにすることを求められてると思うんです。だから手荒にされることはきっとありません」
「確かにそういう側面はあるだろうが、ちゃんと最悪の場合を考えて言ってるのか?」
「大丈夫ですよ。純粋にこの世界の貴族の暮らしに興味がありますし、大使や皆さんが無事に帰り着けば問題ない訳ですからね。少なくともハルウララ単勝よりは分のある賭けと思いません?」
かつてブームを起こした負け続きの馬の名前を挙げてそう例えたが、むしろ深大寺は本当にそれでいいのか?という心配のほうが大きかった。
「……本当にいいんだな?」
俺がそう問えば深大寺は「はい」と答えた。
「ちゃんと家族にも伝えておけよ」
*****
深大寺が保証人になる事で話は大きく進んだ。
1億円という膨大な船のチャーター予算は国境なき医師団が慈善家や企業に働きかけて得た寄付と、成田の研究所を運営する国連の支援により準備することが出来た。
さらに今回の医療支援の予算も増額されることで持ち込める機材が新しいものになった。
深大寺の姉から最悪の場合30年もの間帰国できないなんて嫌なので止めてほしいと泣きつかれるという一幕もあったが、一括で2億円前払いできるような余裕の無さもあって心を痛めながら詫びるほかなかった。
そうしてすべての準備が整い、出発できる状態になったのは7月上旬のことであった。




