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金羊国へ戻ると、最後の問題が現れた。
「この人数だと船ひとつ借りないと無理だよなあ」
「無理でしょうねえ」
さまざまな団体との交渉の末、移動人数と持ち込み機材が確定した。
国境なき医師団からは医師・看護師・薬剤師・理学療法士・事務スタッフ合わせて14人、成田の研究所からはムコンザ医師とその助手を合わせて5人、そして俺たち大使館からは俺と柊木医師と木栖の3人で、合計22人。さらに大小様々な医療機材や薬品類が3000ちょっと。
俺たちはこれだけの人と物をいかにして安全に運ぶかの目処すら全く立っていなかった。
「真柴大使、お話が」
「石薙さんどうかしました?」
「今月分の深大寺くんやらかし報告書です」
深大寺は毎月懲りることなく何かしらのやらかしを出しており、せっかくなので再発防止策を取るための参考として定期的にまとめて報告書にして再発防止策を組み立てるのに使っていた。
が、いま深大寺と言う名前と共に頭をよぎったのはある人物の顔だった。
「やらかし報告書は後で読む、いま深大寺はいるか?」
「いますよ、呼んできますね」
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深大寺は戦々恐々という顔をして俺の前に腰を下ろし、「ご、ご用件は……」と聞いてきた。
よく考えると深大寺からすると何の心当たりもないのにいきなり上司から呼び出されてるわけなので、戦々恐々とする気持ちはなんとなく理解出来た。しかも元々やらかしの多いタイプなので尚更そうなるのだろう。
しかし今回の話はそう言うことではないのである。
「別にお前のやらかし問題の話じゃない。お前、双海公国のカウサル女公爵と連絡取れるか?」
「昨日手紙を貰ったばかりですけど……あ、カウサル女公爵へのお手紙の内容報告すべきでしたか?!」
「私的な内容なら別にしなくていい。わざわざ検閲しないといけないようなこと書いてないだろ?」
基本的に大使館内では私的文書の検閲は行わない。通信の自由や思想信条の自由を侵さない、というのは現代日本の価値観として当然のことである。
俺のその問いに深大寺は「書いてないです!」ときっぱり答えた。いい返事である。
「今回はお前のツテでカウサル女公爵に船を仕立てて貰いたい」
あまりピンと来ていない深大寺が不思議そうに「船ですか?」と聞いてきた。
それにしても、石薙さんはいつもすぐに察してくれるが、深大寺は少し察しの悪いところがある。これは石薙さんの察しが良過ぎるのか、深大寺の察しが悪いのかはかなり微妙なところだ。
大使館最年長のベテランと比較されるのは俺でも荷が重いしな……。
「ああ。いまうちの大使館で抱えてる少数民族の医療支援の話は把握してるだろ?それ用の船が欲しい。そのためにお前のツテを使いたい」
「わかりました。前に貰ったシーリングスタンプと僕の名前で書けばすぐ送れるみたいなので早急に準備します」
カウサル女公爵は爵位を持ちながらも商人でもあるし、彼女の国である双海公国は大きな港町でもある。人目を誤魔化しつつある程度大きな船を仕立てるくらいなら彼女のツテが使える。
出費がかさむだろうか今回は国際支援という名目で予算を多めにもぎ取っている。どうしても足りなかったら……当事者に頭下げてもらうしかないな。美形の少数民族と言う同情の余地の多さを使わせて貰うように頼むしかない。
「手紙の内容どうします?」
「私的な方は深大寺の好きに書けばいい。船の依頼は俺の方で依頼文を書くからそれを同封しておいてくれ、あと使ってない便箋1枚貰えるか?ちょうど切らしててな」
「分かりました!」
即座に立ち上がった深大寺が小走りで部屋を出ようとすると、閉まったままのドアに思い切り正面衝突した。
「大丈夫か?」
「すいません、ドア閉まったままなの忘れてました」
……本当に大丈夫なのかこいつは。




