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霞ヶ関の外務省並行世界局は今日も仕事を抱えて大騒ぎの中にあった。
「北の国の国王訪問の次は少数民族の島への医療支援かよ……」
飯島は呆れたような困ったようなため息を吐いて俺を見てきた。
エルダールの民についてはある程度事前に情報を出していたが、人間とエルダールの差がよくわかっていない現状では『教会から迫害される異教徒の少数民族』として理解されていた。
「北の国の王家の訪日で手一杯なのに新しい問題持ってきたな?」
「俺のせいじゃない、向こうから来てるんだ」
「はいはい。とりあえず俺らがやるのは国境なき医師団の特別チームの入国許可と血液製剤の輸出承諾でいいんだな?」
「ああ。厚労省への交渉は柊木医師に行って貰ってる、あちらへのツテがあるらしくてな。午後には一度担当者をこっちに連れてきてくれるって話だったからあとの細かいところはそっちでやってくれ」
「わかった。経由地になる金羊国に話は?」
「嘉神に割り振ってる。ただ人と物を通過させるだけだから対して細かい交渉する必要もないだろうしな」
「ならお前を信用するけど、進捗は定期的に寄越せよ」
*****
きょうの目的地は成田。研究所にいる医師のなかに血液系疾患の専門家がいるというので、その人物へ会いに行くのである。
成田の研究所は国連が近くの廃校を借り上げて作られているだけあり、学校のような見た目でありながらも厳重な門構えがここが学校でないと伝えてくる。
入り口で郵送されてきた入構許可証を確認して貰い、約束の第3面談室へ足を運ぶ。
時間きっかりに現れたのは白衣に身を包んだ縦にも横にも大柄なアフリカのおっかさんという印象の女性であった。
『私がナオミ・ムコンザよ。話は聞いているわ』
淀みのないアメリカ英語と共に差し出された手を握り返しつつ、俺と柊木医師もまた英語で挨拶を返す。
あまり英語が上手くないので時折話が詰まるかもしれない事だけ前置きしてから、今回訪れた理由について話を切り出した。
『エルダールの民の病気はムコンザ医師の専門である血液系疾患という見立てが出てます、今回の支援対象となるエルダールの民の病気についての検査と確定診断がムコンザ医師への依頼となります』
『聞いているわ。私はエルダールの民の病気がそこにいるドクターヒイラギの見立て通りのものかを確認するのが私の仕事で、直接の治療は国境なき医師団が担う形になるのよね?』
『はい』
『私は確かに血液疾患を専門としてるけどあくまで研究者で臨床経験が少ないからあまりお役に立てないと思うのだけど……血液内科医の派遣は出来なかったの?』
柊木医師のほうを見ると『国境なき医師団にお願いはしてますが難しいと言われていますし、日本国内にも専門医が少ないので……』と事情を説明する。
『そう言うことよねえ。エルダールの民と呼ばれる人たちへの直接的な調査研究も並行して行えるし、研究者として行かない理由は無いのよねー』
『お願い出来ますか?』
『少し予定を調整してみるわ、あなた方も悪い人では無さそうだしね』
ウィンクととも帰ってきたその一言で俺の肩の力が抜ける。
本当に来てもらうためにはムコンザ医師の周りへの根回しがいくらか必要だろうが、この反応ならたぶん来てくれるだろう。
(でもまだでかい問題が残ってるんだよなあ……)
帰ってもまだ残っている課題を思うと溜め息しかなかった。




