15.5-前
俺の誕生日も過ぎた4月の終わり、気温が初夏の陽気へと差し掛かり始めた。
「そういえば今年の収穫祭、トンネル工事現場で映画の上映会やるらしいな」
「ああ、主催は大森組だけど大使館も協力するから俺不在の時間が長くなりそうだからよろしくな」
「それはいいんだが、なんでそんな話になったんだ?」
「それはだな……」
話は3週間ほど前、俺が忌引き休暇を終えて戻ってきた少し後にさかのぼる。
嘉神がある提案書を持ってきた事がきっかけだった。
「深大寺が収穫祭合わせでミニ映画祭?」
「発案は大森組の相模さんらしいんですけど、深大寺くんがミニ映画祭を大使館協力にしてそっちを手伝いたいと……」
収穫祭は例年結構な人が大使館の展示を見に来るのでドジっ子という概念が服を着て歩いてるような深大寺であってもこっちを手伝って欲しいというのが本音だが、元々深大寺の専門は文化交流である。
ある意味一番専門領域であるし、何より超弩級のドジっ子である深大寺なので下手するといない方がスムーズに進む可能性すらある。
「映画上映はあくまで大森組主催なんだろ?」
「はい。映画を通じて今行われている工事について理解を深めてもらうことが開催趣旨なんですが、プラスアルファで地球の文化を知る映画を上映することを深大寺くんが提案たら紅忠の人も乗っかってきたらしくて」
深大寺が作成した提案書はかなり分かりやすく、趣旨としては理解出来るし本人の熱意も感じられた。
「まあ良いんじゃないか?大使館で新しくやる余力はないが、地球への理解を深めるイベントは多いに越したことはないし」
「そうなんですけど、いかんせん深大寺くんですからね」
「やらかさないように俺の方でちょっと観察しとく、大使館の仕切りを任せる事になるかもしれないがイケるか?」
「内容は同じですからね、問題ないかと」
そんな訳で、大森組主催大使館協力のもと金羊国で初めての映画上映会が決まった。
で、この新たな試みには一つ問題もあった。
「上映する映画が決まってない?」
「地球の良さを伝える映画ってことで今必死に頭捻ってるんですけど、何が良いかで悩んでるところです」
深大寺が映画を絞りきれていなかったのである。
「候補はいくらでも出てくるんですけど台詞が分からなくても楽しめることが条件になるので中々絞りきれなくて……無声映画がいいかなとは思うんですけど、ミュージカル映画も捨てきれなくてぇ……ここから10本までに絞り込むのキツすぎて……」
候補映画の一覧を見ると50本くらいはあがっており、無声映画やミュージカルのみならず特撮やパニック映画まで古今東西の名作が揃っている。
「イトに丸投げしたら決まりそうなもんだけどな」
「誰ですか?」
「うちのいとこ。映画が好き過ぎて映画批評ブログやりながら地元で映画館経営してる」
深大寺がその言葉で何かに気づいたように戦々恐々した顔で聞いてきた。
「……もしかしてそのブログ10年以上続いてて『キネマノテンチ』って名前だったりします?」
「たしかそんな名前だったな」
最初に本が出た時に自慢されたから覚えがある。
本自体はもう俺は手放してるが、たぶん沢村の家にはまだ残ってるはずだ。
「地元のテレビ出演とか映画雑誌の寄稿とかしたことあります?」
「あるな。何度か見たことがある」
「最近サメ映画研究家の人とアサイラムのトリセツって本出しました?」
「なんか出したって聞いたな」
母の葬式の後、なんとなく近況の話になって新刊が出たと報告してくれたが謎のサメ映画本でなんだそれと感じたことだけは覚えていた。
「やっぱキネテンのゲンさんだ……何気に有名人じゃないですか……」
「なんかその界隈だと有名らしいな」
「キネテンのゲンさんなら任せられますね、候補案だけお渡しするので選んでもらってきていいですか?」
こうして映画のチョイスはイトへ丸投げされ『なんで私を呼んでくれないのか!』という苦情の手紙と10本の映画上映用データやフィルム、機材とその取扱説明書、さらに上映会ノウハウをまとめたノートまで送ってくれた。
一応フィルムや機材は大使館で借りた事になってるため、深大寺がやらかさないように時々様子見しつつ上映会の準備に勤しんでいる……
「って訳だな」
ひとしきり説明を受けた木栖は「お前の従兄弟まで巻き込んでの上映会は中々豪華じゃないか?」と呟く。
「そうか?」
「せっかくだし、一緒に映画見に行ってみないか?」
「大使館が混まなければな」




