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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
15: Daydream Believer

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15-9

母の死からきっかり四十九日、俺は休みをとって母の法要のため日本に戻ることになった。


今回は自宅ではなく納骨する合同墓地のある熊谷の施設で四十九日法要から納骨まで済ませてしまうので今回は自宅ではなく、熊谷の駅まで叔父が迎えに行く段取りとなっている。


「春彦くんおつかれさま」


「迎えありがとうございます」


駅を一歩出ると日本一の酷暑の街・熊谷は一足早い夏の日差しに包まれ、喪服を着た叔父の額には汗が滲んでいた。


「これ頼まれてた喪服だけど、どこで着替えるの?」


「トイレで着替えて来るので2~3分待ってもらって良いですか」


近くのトイレの個室で私服から葬式の時にクリーニングに出した喪服に着替えると、叔父の運転で四十九日の会場へ向かう。


幾らかの雑談の後不意に叔父が「気持ちの方はどう?」と心配げに問うてくる。


「そんなに不安定に見えましたか?」


「春彦くんはもう良い大人とはいえたった一人のお母さんだった訳だからね。覚悟してても辛いだろうとは思ってたし、僕たちにとってももう1人の息子みたいなものだったから」


叔父が穏やかな声色でそう答えるのでつくづく俺は周りの人に恵まれたのだと思う。


こうして俺を大事に見守ってくれる人の多さをこの49日間でよくよく感じており、その出会いには感謝することしかできなかった。


「正直に言っていいですか」


「いいよ、これでも口は堅い方だから」


「俺は母が死ぬ事よりも最後まで母が俺じゃなくて父の名前を呼びながら死んでいく方が嫌でした」


叔父は母の臨終に立ち会っていないが、叔母から母の臨終の様子は聞いていたようで運転席で静かに相槌を打つ。


「母親が俺のことを思い出さなくなってもう6~7年は経ちますけど、最後の瞬間まで俺のことを忘れて父のことばかりだったことをどうしようもなく恨んでいる自分がいるんです」


これが理不尽な恨みであることも恨みを晴らす事が出来ないことも分かっていて、その上で俺は20代の最も仕事に邁進すべき時代を捧げてもなお息子のことを忘れたまま死んでいった母を恨むしか出来なかった。


「俺はずっとこの事を言っても分かってもらえないと思ってずっと口をつぐんでいました。俺が墓前で母への恨み言なんて言ったら、病人だったのだから仕方ないし今更死人に鞭打つ真似をするなと言われそうだったので。


でもこのところ色々思うところがありまして、これからは正々堂々と母に忘れられた事への恨み言を吐いてやろうと思ったんです」


「じゃあ僕は春彦くんの恨み言を聞く1人目になった訳だ」


「ですね。俺はもう母思いの孝行息子を辞めるんです」


「そう思えるようになったのは、大使館の仲間たちのお陰かな?」


いつか買った揃いの指輪をなぞりながら俺の夫ということになっている男の顔を思い出す。


3年近くつけてる指輪は少し汚れて来たので一度しっかり磨いた方がいい気がするので、帰りにクリーナーでも探してみた方がいいだろうか。


「……アイツが母を恨む悪い男でも良いと言ってくれるので」




*****




四十九日法要と納骨を終えると時刻は昼過ぎになっていた。


叔母の運転する車の後部座席に腰を下ろすとようやく一息ついたような心地になれた。


「春彦くんにちょっと聞きたいんだけど、お盆の時期は帰れそう?」


「お盆……たぶんそれどころじゃない気がします」


無理くり休もうと思えば休めるかもしれないが、打診を受けている北の国の国王来日を巡る話し合いもあるしどうせ留学の話も出てくる。


それにもう俺は母思いの孝行息子を辞めるのだ、母のために無理くり休もうと言う元気は無い。


「新盆だからどうにか出来ない?」


「予定が決まったら連絡しますんで、新盆はお願いしていいですか」


「どうしても開けられないってなったらやっておくわね」


叔母さんはちょっと困ったような苦笑いをこぼしながらそう答えた。

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