14-11
「大使、余計なお世話を承知で聞きますけど……最近何かありました?」
柊木医師の言葉にどきりと手が止まった。
何かありました?と聞かれれば色々ある。
夏沢に指摘された俺の木栖への愛情の搾取、俺に自分を好きになることを選んでほしいという木栖の願い。
その辺のことに悩みすぎたせいで要らん風邪など貰ってきてしまったのだろうという気はしている。
「精神医療は門外漢ですが、話を聞くぐらいならできますから」
何より柊木医師は医師として大使館員の健康を支えるのが仕事であり、医師には守秘義務もあるのでそう気軽に口にはしないだろう。
なのでまあ吐き出してしまう方が楽なのだろう。だろうが、この件は少々個人的すぎる。
何かオブラートにでも包んでおきたい。何かいい聞き方はあるだろうか?と逡巡してから話を切り出す。
「柊木先生は何故離婚したんですか」
「唐突に痛いところついてきますね」
立膝をついていた先生がため息をついて胡坐をかいてどしりと腰を下ろす。
「まあ、うちの場合は生活のすれ違いですね。それでお互いへの愛情を保てなくなったといいますか……もちろん結婚して娘が生まれた辺りまでは間違いなく好きでいましたよ。ただお互いが自分の生活に追われるうちに相手への関心を持ちづづける余裕を失ったと言いますかー……」
言い訳めいた言葉を積み重ねながら答えてくる。
「相手が自分への愛情を維持していないとどこで感じるんですか?」
「態度や言葉でしょうかね」
「もしその態度や言葉から自分への愛情を感じられていたら、たとえ自分が相手を愛していなくても結婚生活は続けられましたか」
柊木医師はその問いかけに悩ましい顔をしてから「そうですねぇ」とつぶやく。
「……結婚生活の延命は出来たでしょうね、でも一方的に愛情を向けられるだけでは結婚生活は続けられない。何より一方的な愛情って怖いですからね。双方にないとどこかで破綻しますよ。ほら、阿部サダヲもなんかの曲で『恋ってやっぱりギブ&テイク』って言ってたじゃないですか。長期に渡る健全な関係を保とうと思うならある程度ギブ&テイクが出来ないと意味がないと思います」
「逆に言えば自分に相手と長期に渡る健全な関係を保つ気がないならギブ&テイクは不要ということですか」
「そういうことになりますかね?」
俺はあいつを長期で自分のそばに置こうなんて発想はない、少なくともここに居る間だけうまく行けばいいと思っている。
けれど与えられた情愛を返したい、そう思う時点で俺はあいつを愛せてるのだろうか。
「最後に一つだけ、自分から相手を愛したいと思った時にはもうきっとその人を愛してると思いますよ。あとはただ全部自分の腑に落ちて言葉に出来る時を待つだけです」
柊木医師は全て分かったような顔でそう笑って答えながら、昼食の皿をさげて俺の部屋を出て行った。
(絶対あれ全部バレてたよな)
はあっとため息を漏らしてから布団に潜り込んで、目を閉じる。
木栖。俺はお前に愛情を向けられるだけの俺でいないように頑張るよ。




