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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
14:大使館は春を待つ

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14-10

木栖との夜の散歩の後もなんとなく夜の散歩を続けていたせいか、なんとなく調子が悪いなとは思っていた。


「発熱とのどの腫れが確認されましたので本日は出勤不可です」


朝の健康観察のおりにそう告げたのは柊木医師であった。


なんとなく体調が悪いぐらいではあったが、職員に身体的異常があった場合大使館は原則出勤禁止になる。これは日本で認知されていない菌やウィルス由来の感染症を防ぐ目的なので仕方がない。


「検査用の検体取ったら寮に戻ってもらって、発熱が治るまで出勤停止になります。大使館の他の人とも極力顔を合わせないようにしてください。どうしても必要な時はマスク着用でお願いします。


あと家庭用の風邪薬とのど飴をいったんお渡ししておきますね、ちゃんとした処方薬は今夜にでもお出しします」


その指示に従ってマスクをつけて手指消毒をしてから部屋に戻って布団に潜ると、なんとなく罪悪感が湧いてくる。


みんなが必死で仕事してる時に何してるのかと言われたら反論できない気がするが、そもそもここは異世界で日本人の知らない感染症があってもおかしくないのだからうつさないためにも休むべき時ではあるのだ。


それに嘉神や木栖に心配をかけてしまってるがこれも回り回ってみんなのためではある。


(でも、風邪で休みなんて子供の時以来だな)


大人になってから滅多に風邪なんかひかなくなったし、ひいたとしても休めた試しがない。


抱えている仕事と責任感が風邪ごときで休むなと騒ぎ出すのだから仕方ない。


飯山さんが拵えた茶碗蒸しを食べて風邪薬を飲みこむ。


(子どものときは、どうしていたっけ)


出勤前の母と一緒に近所の病院に行って風邪薬を貰い、叔母が仕事をしながら俺の面倒を見てくれていた。


針仕事特有の糸をしごく音を聞きながらうつらうつらと眠りに就く。


それで夜になると母が煮ぼうとう(※埼玉北部の郷土料理、太めの麺を根菜と出汁で煮込んだ醤油味の麺類)を作ってくれて……。


『真柴』


その瞬間が、脳裏に再生されたのは煮ぼうとうを持っていたのが母でなく木栖にすり替わる。


熱で脳がおかしくなってるせいで色んなものがごちゃごちゃになっている。


「……寝よう」


無理やり布団にもぐりこんで目を閉じた。




****




遠くからノックの音がする。


「真柴大使、柊木です」


「どうぞ」


失礼しますと言いながらマスクをした柊木医師がやってくる。


「検査結果出ました、アデノウィルスの風邪で確定です。地球でもよくある風邪のウィルスなので普通の風邪薬で治るタイプと考えてます。一応完治2~3日後もマスク着用と1週間の日本への渡航禁止をお願いする形になりますがよろしいですか?」


未知のウィルスでないことにほんの少しの安堵を抱きながら頷くと柊木医師がお盆を俺の前に置く。


「お昼ごはんとお薬です」


用意された角切り野菜の入ったパン粥は思ったよりも色味が鮮やかでちょっと美味しそうに見える。


口をつけてみると小麦と野菜の甘味が優しく広がって思っていたよりもうまい。


「大使、余計なお世話を承知で聞きますけど……最近何かありました?」


柊木医師の言葉にどきりと手が止まった。

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