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異世界大使館はじめます  作者: あかべこ
13:真柴春彦の冬休み

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13-11

その日はずっと幸輔さん・なな恵さん親子と話をした。


奈良の親族のことはもちろん、幸輔さん自身の身の上話もずいぶんと聞かせてもらった。


さらにお昼ごはんとしてなな恵さんの母方の祖父母(市内でパン屋さんをしてるらしい)が作ったパンとコーヒーもご馳走になり、夕方には不在だった幸輔さんの妻と息子さんにも軽く挨拶できた。


その帰り際のことだった。


「なあ、春彦さんって言ったか」


声をかけたのは幸輔さんの老父であった。


俺たちが話している間、ずっと様子をうかがうように静かだった老父はこう切り出した。


「お前絶対高取のうちには来るなよ」


「何故です?」


「自分が先祖伝来の山を売り飛ばしたあげく部落の女と出てった男の孫だってことを忘れるなよ」


「……そうですか」


その言葉の冷たさが耳にひどくこびり付く。


近くの駅まで送って貰っても、電車で宿のある有馬温泉口に降りても、予約した宿の部屋に入っても、ずっとその言葉の冷たさが離れないのだ。


荷物を置いてから一番に調べたのは部落差別のことである。


Wikipediaや法務省のページなどいくつかのウェブページに目を通して思い知るのは、自分がこの問題について無知であるという事である。


世の中にはきっと視野の範囲外に数え切れぬほどの問題があり、その問題が突然自分の目前に現れた時に人は自分の無知さを思い知るのだろう。


「俺も祖父母がいれば聞けたんだろうがな」


今回聞いた話から想像した限り、祖母は父を産んだ後に亡くなっていると考えるのが妥当だろう。


祖父が生きている可能性はゼロではないが、どう考えても嫌われている親族にあのような手紙を出すくらい子への情があるのなら祖父が生きていたら父をひとりで育てていたのではないだろうか?と思う。


従って祖父ももういないものと推測している。


父も早逝の人であったし、祖父もそうであるのなら親子と言うものの因果さにため息が出る。


宿の窓から外を見れば日はとっぷりと沈んで宵の口。


1人がこんなにも寂しく思える夜は、もうきっとないだろう。




****




結局有馬にいる間は死別した父や祖父母の事ばかり考えて過ごした。


温泉もそれなりに楽しんだし、ロープウェイに乗って六甲山にも上ってみたが、ふいうちのように『もし今回両親が同行してくれていたら』と思わずにはいられなかった。


早逝した父がもしいてくれたら祖父母の事を話しあえたのだろうか。


施設にいる母が一緒に来ていたら六甲山の夜景を見たいと言っていたかもしれない。


そんな事ばかりぼんやりと考えてしまうのだ。


有馬の宿を出た日、従兄弟からメールが来る。


『きょう神戸出るんならお土産忘れないでね』


そういえば忘れていた事をしれっと送り付けてくる従兄弟のちゃっかりした行動に、俺はもう苦笑いしか出なかった。

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