12.5-2
「ヤマンラール・カウサル、ヤマンラール商会の商会長と双海公国公爵を兼任しております」
にっこりと笑ってそう挨拶された瞬間に俺の中ですべてがつながった。
(そうだ、ヤマンラール商会は双海公国の支配者も兼ねてるんだった!)
以前読んだ本の記述では、500年ほど前に教会に大きな貢献をした報酬として大陸最南端の土地と公爵位を与えられたのがこのヤマンラール商会らしい。
以降双海公国ではヤマンラール商会長が公爵の地位も兼任するという珍しい体制を取っているのだ。
「在金羊国日本大使館全権大使の真柴春彦です、全権大使はこちらでいう外交騎士と同じものとお考え頂ければ」
ヤマンラール・カウサル女公爵は女性にしては大柄で茶褐色の髪の奥に青みがかった灰色の瞳を覗かせながらこちらを見ている。
シンプルながら仕立てのいい服や肩にかかるほどの髪をまとめる細かく編み込まれた美しい組み紐からは、実用的かつ美しいものを好む性質を感じ取れる。
一言で言うならば女子校の王子様といったところだろうか。
「うちの料理人からコンタクトを貰った時は驚きましたが、今回はどのようなご用件で?」
「米の話をしに来ました」
「……こめのはなし、ですか」
「ええ。我が国についてはどの程度ご存じですか?」
「湿原の中の商売人の楽園、と聞いてます」
俺が本や人から聞いた話をまとめるとそういう印象になる。
広大な湿地帯で綿花や米を育てて大陸各地に輸出、さらにその金で港を整備して大陸中の船の寄港地として人気のハブ港化に成功。その結果人と物が集まる商人の楽園になった。
「良くも悪くも間違いではないですね。我が国の弱点はその湿原である、という点です」
「湿原で栽培できるものは少ないですからね」
「ええ、綿花と米。どちらも水を好む湿地帯で栽培可能な植物です。綿花は大陸全体で需要があるので改良が進んでいるのですが、米は現状双海公国内にしか需要がないのでいまいち開発が進んでいないのですよ。
しかし私としては米の栽培量を増やしていざという時自国民の腹をある程度満たせるようにしたいですが、麦と違って米は需要が少ない。金にならないものを大量に栽培させるわけにはいきません、それで輸出に力を入れようかと」
米の価値をあげつつ余剰米を輸出して、いざという時は輸出を止めて自国民の腹を満たすという感じだろうか。
となると米を食う日本やその中継地である金羊国を輸出先として検討しているのかもしれない。
「そんな折に在金羊国日本大使館が大量に米を買っていると伺い、米の輸出や品種改良のための情報交換先になる可能性を考えて伺ったと言うわけです」
「現状、地球ではこちらで生産された食品の輸入についてはほぼ不可能なのですが」
「ですが将来的には変わるでしょうから」
将来と言うのは地球と金羊国の間に作られるトンネル開通後のことだろう。
その際に地球産食物の輸出入規制緩和と言う話が出てくる可能性はあるし、輸出先として地球を見据えるなら今から情報を求める気持ちは分からないでもない。
それにもう一つの要望である品種改良、というのも厄介だ。
遺伝子汚染だとか遺伝子組み換えによる弊害とかそっちのことも検討しないとならない。
「お腹空きましたね」
ぽそっとヤマンラール女公爵がつぶやいた。
ああもう嫌だ、とりあえずここはいったん置いておこう。
「めしにしましょう」




