12-10
古畑任三郎のBGMに包まれた部屋で木栖が最初に切り出したのは「まず夏沢の履歴書を見せてくれるか?」ということだった。
履歴書レベルの事であれば大使館メンバーで情報が共有されているので、見せても問題はないだろうと判断して手渡すと「やっぱり」とつぶやいた。
「何がだ?」
「履歴書では夏沢はずっと三沢の301飛行隊所属になってるよな?」
「ああ、そうだな」
「次にこれだ。2020年の青森県の地方紙の記事のコピーだ」
見せてきたのはコピーされた地方紙の記事だ。
三沢基地に新しい戦闘機が導入され、それに伴い百里基地から第301飛行隊・通称ケロヨンが移ってきたという記述であった。
日付は2020年12月。
「……うん?」
「わかるだろ」
「ああ。履歴書によれば夏沢がウィングマークを取得して三沢に転属になったのは2018年、もしずっと301飛行隊所属なら履歴書には2018年から2020年まで百里基地所属と記載してあるはずだが、その記述がない」
「その通り。俺のような防大卒の幹部候補は転属・転勤が多いからいつどこにいたのかを忘れたり記憶が混乱するのというもありうるが、夏沢の戦闘機パイロットという前職の特殊性を鑑みるとそんな頻繁に転勤して忘れるというのは考えにくい。ならば何らかの理由で嘘の経歴を書いてるのでは?という推測が成り立つ」
この矛盾に対する答えとしては十二分にありうるが、そうなると俺達に嘘をつく理由が何なのか?という問いが沸き上がる。
夏沢麦子が過去を秘匿したうえで俺たちのところに来る理由。
「俺たちが探りを入れられるような事なんかひとつしかないだろう」
「あの件か」
武器の無断貸与の件を調べに来た、と言いたいのだろうか。
前に業務日報を貸してほしい言っていたのもあの無断貸与事件について知るためだとすれば、まあ理解はできる。
「そうなると夏沢麦子は俺たちが辞任に追い込んだあの政治家の身内ってことか?」
無断貸与事件の際、俺たちにトンデモ発言をぶちかまして炎上し辞任まで追い込まれた政治家がいる。
俺たちから見ればあれは完全に自業自得だが、もしそれを理由に恨みを買われていたとすれば調べに来る理由にはなる。
「いや。あいつは高知出身だから夏沢に俺が高知赴任時代に聞きかじったあるある話をいくつか振ってみたが、特に反応はなかったから高知に行ったことすらないと思う」
「じゃあ何故?」
「ここからは推測だ。おそらくこの矛盾は夏沢は情報戦要員として派遣した、という上層部からの合図なんだと思う。非自衛官でもちょっと調べればわかるような矛盾を書いて寄越してきたこと自体に意味があるとすればという仮定の話だが」
「情報戦要員のプロが俺たちの事を漁ってるっていうのか」
「可能性は。だが無断貸与事件はもう終わった問題だ。わざわざ掘り起こす必要があるとは思えない」
「メインは金羊国及び異世界での情報戦、ついでに俺達の武器無断貸与について確認させてるってことか?」
木栖は「恐らく」と答えた。
「つまり狙ってたのは木栖自身じゃない」
「そういうことだ」
「なんてこった」
ただ俺が一方的に勘違いしてもやもやして空回っていただけじゃないか!




