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大使館に新メンバーが増えて10日ほど過ぎたが、3人のキャラがだいぶ分かってきた。
夏沢は距離感が近くてやんちゃな妹分キャラ、石薙さんは大使館最年長だけあって博識で頼れるベテラン。
で、問題は深大寺である。
「……またインク瓶ひっくり返したのか」
「申し訳ありません」
深大寺若菜を一言で言うならドジである。
正直このドジぶりは大使館赴任1日目の時点でうすうす感じていた。
階段を踏み外して落ちそうになったところを夏沢に助けられ、自分の足に引っかかって水差しを割ったあと新しい水差しも落としそうになっていた。
「このインク瓶ひっくり返し事故はこの10日間で何度目だ?」
「3度目です」
「注意力がゼロどころかマイナスだな……」
反省する気は見せているのだがあまり直っているように見えない。
もはやなんかしらの障害が疑われるレベルだが特に診断が下りているという話は聞いていないので、もうこちらでどうにかするしかない。
「とりあえずインク瓶はもう嘉神に返却して、今度からボールペン使え」
以前貰ったボールペンを数本をその手に置くと「本当にすいませんでした」と頭を下げた。
あとは石薙さんと相談の上再発防止策を講じるように伝えると「分かりました」と言って部屋を出て行った。
(……深大寺を派遣した奴は俺への嫌がらせ入ってないか?)
毎日のようになんかしらのドジを起こすので再発防止策を考えるのも面倒になってきた、嘉神も同意見らしいので今度から深大寺のドジ再発防止は石薙さんに丸投げしよう。現場歴の長いベテランの知恵に頼るのだ。
コンコン、とノックの音がする。
「どうぞ」
「お疲れ様です、大使」
やってきたのは石薙さんだった。今朝貸した資料の返却に来たのだろう。
ちょうどいいから今頼んでしまおう。
「ああそうだ、ひとつ頼みが」
「なんでしょうか」
「深大寺のドジ対策を任せたい」
「彼の対策ですか」
「俺と嘉神だけだと対策が思いつかなくてな、現場歴の長いベテランに任せようと思って」
「お言葉ですが、私も正直深大寺君の面倒を見るとこまで少々手が回りませんで」
石薙さんは遠回しに断ろうとしてきた。
しかし俺としてもここは譲れないポイントなのだ。というか3人で分担しないとやっていけない。
「嘉神と俺とで再発防止策を伝えてきたがうまく行かなくてな、俺と嘉神には役職上の職務もある以上もう1人いないとやってられん。嘉神と再発防止策を共有したうえで実行の様子の監督を頼みたい」
少し悩むそぶりを見せた後「……かしこまりました」と伝えてきた。
すると遠くから「痛ぁ!」という深大寺の悲鳴が響いた。
「また指を切りましたかね」
「いや、ファイルを顔面直撃させたのかもしれん」
この10日間で起こした深大寺のドジを思い返してため息をつくと「私は戻ります」と言って部屋を出ていく。
深大寺若菜と言う人間のドジが減るのはいつのことになるのやら。




