11-10
大使館増員に向け、寮の増築が始まった。
渡り廊下をつぶして部屋数を増やした上で風呂用スペースを作ってもらう、という形である。
5週間で仕上げるにはいささか突貫工事であるが増員に伴い解決必須の問題であるとゴネ倒して予算を多めに獲得、人海戦術で解決してもらうことにした。
渡り廊下を潰したあと曳屋で寮と大使館を隣にして扉で繋げ直し、余剰空間に新しい部屋を追加するという力技である。敷地も時間もギリギリでなければ絶対やらない荒技である。
ちなみに、曳屋はこちらの世界にも魔術を用いた方法で行われているがそれなりに難しいので金羊国でひとりだけそれが出来る人(黒髪の地味な青年だった)を見つけて金を積んでやってもらった。
寮の改築に伴う騒音はひたすら無視し、仕事を黙々とこなそう……とおもっていたのだが。
「暑い」
「30度超えたからな……」
金羊国は日本に比べれば気温・湿度は低いが、それでも夏の間に数日ほど30度越えの酷暑がやってくる。
いや、東京の35度超えたら夏本番という気象条件に比べればマシではあるが暑いものは暑い。
あと暑いとか言うなら木栖はなんでこの日当たり良すぎて暑い俺の部屋に来た?
「おつかれさまです」
「柊木先生、」
涼しげな半袖ショートパンツで現れたのは柊木先生である。
その手には水筒の入ったカゴがぶら下がっている。
「木栖さんもこちらでしたか、良かったらスポーツドリンクどうぞ」
「金属製水筒にスポーツドリンクはダメじゃなかったか?」
「スポーツドリンク用にフッ素加工の水筒であれば問題なく使えますよ、と言うわけでどうぞ」
水筒を受け取るとひやりと冷たく甘いスポーツドリンクが喉を通っていく。
氷も入ってるのか中からカラカラと音がする。これは魔術の使える柊木先生だから出来る代物だな……。
「……美味いけど、よくあるような奴と全然違う味だな?」
「金羊国産の蜂蜜と岩塩で作ったんです、去年より今年は暑くなりそうなので飯山さんに脱水対策で量産してもらおうと思いまして」
スポーツドリンクが自作できるとは初めて聞いたがこれはこれで美味しいし、熱中症対策にもなるので量産してくれるのはありがたい。
「助かる」
「せっかくなので外の大工さんたちにもお渡ししようかと思うんですが大丈夫ですか?」
「脱水で倒れられても困るしな、構わないぞ」
「ではそうさせて頂きますね」
木栖もスポーツドリンク一息ついたようで、ふと思い出したように口を開く。
「氷が作れるならかき氷も作れないのか?」
「いいですねかき氷、削り機があれば僕も氷作りますよ」
「俺の実家にあるから高槻くんに頼んで持ってきてもらうか」
話をしながらちびちびとスポーツドリンクを飲むと、少しは心が涼んでくる。
そうこう話していると寮のほうから歓声が聞こえてくる。
様子を見てみると大工さん達がスポーツドリンクの甘さがウケたようだし、みなこの暑さによる疲れが吹き飛んだように元気だ。
「……この調子なら間に合いそうだな」
木栖がそう呟いた。
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