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必要最低限の荷ほどきを済ませ、日本から持ち込んだ運営資金代わりの金銀(こちらでも金銀銅は価値があって貨幣との交換ができるのは確認済だ)をいくらか財布に入れて門前へと戻る。
「飯山さんが一番乗りか」
「早く市場に行ってみたいんですよー、お金は金銀で代用していいんですかー?」
「正式なレートが未定なんで、日本だと金1グラムが約7000円だからこっちで1グラムの金がどれぐらいになるかも把握したり物価の把握もしたいんで買ったものと量の記録もしっかり頼みます」
「はーい」
「オーロフさん、金の買い取りはどこで出来ます?」
「市場の中に宰相閣下直営の買取所と南の商人が運営する買取所がいくつかあります。ですが普通の金塊でも買い物はある程度行えますよ」
「じゃあ見るだけ見て買い物はそのまま金で行ってしまってもいいかな」
全員集合後、オーロフさんを道案内に柊木医師を記録係・荷物持ちとして木栖を指名するとさっそく市場へ向かう事にした。
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市場は木製の囲いに囲まれた商店街のような作りで、アメ横や築地の場外市場のような賑やかで雑多な雰囲気はどことなく覚えがある。
しかし木造・石造り・日干しレンガ造りと統一感のない街並みや、獣人が行き交う景色は確かにここが異世界だと感じさせてくる。
今回主に買うものは食料と消耗品だ。
どちらも結構な量を定期的に運ぶ必要があって手間なので多少質が悪くてもこちらでまとめて調達することにした。
ハイテンションで未知の調味料や食材に引き寄せられる飯山さんと値段の記録を取る柊木医師に同行するオーロフさん、ICレコーダーを手に露天商のおばあさんと話し込む納村、市場にちりばめられた未知の文字を観察する嘉神……。
「好き勝手やりすぎだろう」
ボソッとつぶやく俺に「あれもある意味仕事だろう」と木栖が言う。
そういわれればそのような、やはりいささか暴走しすぎているような、何とも言えない気分だが面倒なので何も言うまい。
「あったぞ、文房具店か」
ここで一番必要なのはやはり紙である。
電気の存在しない異世界において有効な記録方法というと紙しかない。
店に並ぶ代物を見ると、ここは紙と筆記用具を中心とした文房具店のようだ。
紙はいくつかありすべて木や草を原料としているのが見て取れる。
パピルスのような植物を叩いて固めたようなもの、羊皮紙に近い動物の皮を使った紙、和紙やわら半紙に近いもの、木簡のような木を平らに削っただけのものもある。
今回は和紙に近く白くて柔らかい紙とわら半紙に近い紙を一束づつ、さらにそれらに適していると店主が勧めてくれた筆記用具もひとつ購入した。
日本の感覚で2000円ぐらいの買い物だが、金で0.6グラム程度で購入。単純計算で4200円か。
手間暇がかかっているので一番高い紙だと店主(ここの店主はうさぎの獣人だった)が言っていたのを踏まえるとこちらでは相当な高級品なのだろう。
「あ、お疲れ様です真柴大使」
本を抱えた嘉神が人ごみを抜けて現れてきた。
「大使館内の資料用に辞書や百科事典をいくつか購入してきました、日本で買うより高級でしたが交渉していくらか割引して貰えました」
あまり言葉の通じない国で本の値段交渉か。元気すぎる。
「ちなみに他の面々は?」
「飯山さんは柊木医師と食料品を探しに向こうへ行くと、納村通訳官はまだ書店にいるはずです。いちおう終わったら市場の出入り口で集合という風には言ってありますのでどうにかなるかと」
「……そうか。嘉神は出来たら納村と一緒にいてくれ。1人にすると大使館の金をあるだけ使って本を買いあさってそうで怖い」
「信頼感ゼロですね、大使の指示ならそうさせていただきます」
嘉神はそう告げると購入した本を木栖に預けて書店へ戻っていった。




