10-11
国会での証人喚問と防衛省による会議は5日間行われた。
さらに今度は外務省がいきなり俺の身辺調査をやり直すと言い出したのだ。
例のハニートラップ疑惑で俺が本当に潔白なのか不安になってきたようで、地元の友人親せきをくまなく洗い直し、金羊国大使館からの報告書を一言一句さらい直し、俺の金羊国での友人関係まで確認しなおした。
国会や外務省はともかく古巣からも疑われる身の上になると随分気持ちを消耗した。
ホテルの部屋に戻ると耳に痛いほどの沈黙に包まれ、なんとなくそれが嫌でスマホのラジオアプリを立ち上げると帰る国を喪った者の哀しみが切ないメロディで歌われる。
(戻るべきだった場所に怪しまれ疑われるというのはこうも気持ちを消耗するのだな……)
歌の主人公に妙な同情をしていると曲が終わって、トークの時間になる。
ぼうっとラジオを聞き流しているとメールの着信音がした。
メールの送り主は叔母で、施設にいる母と今日会ってきたという話と俺の身の上を案じるメッセージだった。
叔母には『いつも母のことをありがとうございます。ご迷惑をおかけしておりますが自分は大丈夫です』と返信を送ると消耗したものがすこしばかり復活したような気分になった。
これだけ疑われる身の上になってもまだ俺にはここ日本に自分を案じてくれる人がいるのだ。
「……寝るか」
スマホのラジオを止めて充電器につなぐと、俺はベットに横たわって目を閉じる。
俺には日本を裏切る理由も、金羊国を見捨てる理由もない。きっといつか分かってくれる。
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日本に戻って一週間が過ぎると、世論は俺への判断は間違っていなかったという雰囲気になってきた。
むしろ俺と木栖にハニートラップ疑惑をかけた議員へのバッシングが大きくなりすぎて、自然と俺が善玉にされた……という見方もあるがどうであれこれは俺にとって好都合とも言えた。
大事なのは俺の決断が間違いではかったと判断され、この状態から解放されること。
本題から話がズレようがなんだろうが間違っていないと支持されればこの状態から解放される。
「真柴、外務省と防衛省がお前の判断を支持する声明文を出した!」
ホテルの俺の部屋に飛び込んできた飯島が2枚の紙を差し出してくる。
それは俺たちが金羊国が誤って持って行った武器の返却を迫らなかった判断を、緊急事態であることと照らし合わせて問題なしとすることを発表した声明文であった。
同時に来年3月まで俺の給与が半額にされることが決まったが、元々俺は母の介護以外で金を使っていないので充分だ。むしろ軽すぎと言われかねない。
力が抜けてへなへなと崩れ落ちた俺に「よかったな」と飯島が笑った。




