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「飛行魔術ができるのは魔術器官が優秀な奴だけだ」
翌日の午後、観戦武官の視察という名目で現れたグウズルン情報管理官は話の概要を聞いてそう答えた。
「ひとが飛び上がるのを補助する程度のものなら一般庶民でも訓練すればできないでもないが、こうして持続的に飛び続けられるのは一握りの精鋭だけだ。
しかもこのレベルになると騎士ではなく魔術官を目指すから飛んで戦える人間は大陸全体で30人いないだろう。まあ、ここに深手を負わせれば帰ってくれるだろ」
グウズルン情報管理官の話をざっと英訳して伝えると「それぐらい希少な騎士を投入したとなると焦りの大きさを感じますね」とポアロ大佐はつぶやいた。
映像を見ながらの分析に集中し始めた大佐を無視してグウズルン情報管理官は俺に問う。
「で、地球側は停戦交渉の仲介に立ってくれるのか?」
「その件でしたか、場所を変えましょう」
俺の仕事部屋に招いて客人を席に座らせると、日本側からの返答書簡を手渡す。
パラパラッと目を通してから俺の目を見て問う。
「仲介、してくれるんだな」
「政府の方針ですからね」
正確に言うと日米両国で仲介に立つかたちになる。
日本政府は金羊国と関わりが深すぎて西の国に警戒される恐れがあり、アメリカも異世界には以前から興味を示していたので引きずり込んだ形である。
少々俺には荷が重い役割ではあるが、金羊国の権益を狙う日本からすればせっかくの投資先が横からかっ攫われるぐらいなら多少面倒でも自分の利益を勝ち取りたい。
「問題は日本側の問いかけに応えてくれるかですが」
「応えさせる。人材はともかくあちらの物資はもうカツカツだし、だいぶ向こうも空気が悪くなってきたようだから獣人の言うことでなければ多少の聞く耳は持ってくれるだろうよ」
グウズルン情報管理官はそう皮肉った。
もしかすると以前から交渉していたのだろうが不調に終わったのだろう、と察するに余りがありすぎる。
「それにしても金羊国にも人間はいるでしょうに」
「脛に傷持ちしかいないんで不適格なんだよ」
何故か脳裏にクライフ上級魔術官の顔が思い浮かぶ。うん、確かに向いてなさそうだ……。
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それからほどなくして停戦交渉の担当者が決まった。
停戦交渉の担当者に任命されたのは俺と木栖とトムリンソン准将、そして日米の役人が数人という構成だった。
むろん役人は当然来てくれるはずがない、彼らは俺たちの情報を基に調停のためのアイディアを練る係である。
金羊国の停戦条件をまとめた書面を鞄にしまい、鉄帽を深くかぶり防弾チョッキの上にスーツのジャケットを着こむ。
ここにいる間にすっかり大森林に詳しくなったカストロ中尉とともに案内で森を抜けて、目指すは西の砦だ。




