9-13
停戦協定の話が持ち込まれた次の日、西の森の戦況に新しい変化が現れた。
「……なにか飛んでる?」
ポアロ大佐の指摘したものは人影のように見える。
「何かって金羊国の鳥系獣人兵ではないんですか?」
金羊国がこれまで西の国を抑え込むことができたのは、西の国に飛行戦力がほぼ皆無であったことが大きい。
空を飛ぶ魔術が使える人間は希少で死ねば大きな損害を被ることから、安くて替えの利く鳥系獣人はこの世界における貴重な航空戦力として活用されていた。
しかし西の国が連れてきた鳥系獣人は金羊国が夜襲の際優先的に自国に連れて行っているので現在西の国にはほとんど鳥系獣人がおらず、航空戦力が不在となっている。
「違います、これは……!」
空を飛ぶように走ってきたのは鎧を纏った人間だった。
茶色の鎧(素材はおそらくジョンと同種の生き物の甲羅だろう)にロングソードを腰に佩き、胸には教会に仕える騎士を示すロゴが刻み込まれている。
「異教徒め、覚悟!」
大型ドローンを叩き切ろうとするのを視認したポアロ大佐はすぐさま3台の大型ドローンを撤退させる。
幸い教会の騎士は3分飛ぶのが限界なようで途中で倒れるように落ちていくのが見えたが、自動操縦にしていたドローンが1台通信不能になっている。
『本部、先ほど上空からドローンの墜落を確認。回収しますか?』
『回収可能でしたらお願いします、しかし生命に関わると判断すれば放置しても構いません』
『了解』
壊されたらしいドローンの回収は現場にいるラドフォード中尉にお願いし、残った2台は大使館で点検が行われた。
「戦況打破のための新戦力の投入でしょうか」
「恐らくそうでしょうね。短期決戦のつもりが長引いたので使うつもりのなかった予備兵を投入といったところでしょう」
ドローンで大森林西部の様子が確認できないことに不安がよぎる。
しばらくしてドローンの点検を終えると「少し慎重に飛ばしましょう」と飛ばすドローンを一台だけに絞ることにし、再びドローンは大森林西部へと飛び立った。
****
大森林西部の上空は教会の騎士と金羊国の鳥系獣人兵による剣技格闘が繰り広げられていた。
流れ矢に気を使いつつドローンで偵察を続けていると、地上のほうがいささか金羊国側に不利な流れが生まれてきた。
「金羊国は空から兵を指揮していたのが教会騎士の投入で難しくなってきたようですね」
ポアロ大佐の分析に耳を傾けていると銃声が増えてきたことに気づく。
「これは9ミリ拳銃ではなくM24、アサルトライフルですね。これも彼らが間違えて持って行ったんですか?」
「……そのようです」
「木栖大佐(※自衛隊では1等陸佐と呼ぶが世界的には大佐になるのでそう呼んでいる)が持ち込んだ武器について真柴大使はどの程度把握していますか?」
「配備されている小火器類は大体使えるので持ち込んだと聞いてます」
微妙な表情でごまかすがやはりポアロ大佐にはバレている気がする。
『こちら本部、金羊国側は大使館にあった拳銃・自動小銃・散弾銃を誤認借用して用いている模様。誤射に気を付けて行動するように』
『了解しました』
呆れ気味にポアロ大佐がこちらを見るので「この不始末は自分で片づけますので」というほかなかった。
「まあいいサンプルが出来たと思うことにしましょう」
そう呟きながら地上や上空での戦闘の様子に目を向けると、ファンナル隊長が複数の騎士と殴り合っているのが目に見えた。
襲ってきた騎士のロングソードを蹴ってへし折るとナイフでで動脈を切り、拳銃でアキレス腱を打ち抜くと同時に地面にたたき落とし、切っ先を避けると同時に拳銃でわき腹をぶち抜く。
一瞬で騎士たちを地面に落とすと仲間たちの支援に駆け込んでいく。
それはアクション映画のような激しくも美しい動きであった。
「……まるでガン=カタですね」
いったいファンナル隊長はこの1年で木栖から何を教わってきたのか、大いに聞きたいところである。




