8.アフォガード
「オリーブさんっ、今日も可愛いね。でさ、いつなら都合良いの? 今日? 明日? 俺ずっと待ってるんだよ?」
何度もデートに誘ってもらえるのは、とても光栄なことなんだけど……男性と二人ってやっぱり怖くて。この世界に馴染んでない私にとって、家から一歩出た外の世界はあまりにも知らない事だらけで……唯一、隣を歩いて安心できるのはユニヴァだけなんだと痛感する。
でも、そのユニヴァが実はこの国の第二王子、とんでもない立場の人だったなんて思いもしなくて。だからこんなお願いも本当は別の人にお願いしなきゃいけないのに、まさかユニヴァが引き受けて……くれて良かったのかな?
「泊まってもいい?」
ただ、そう聞かれただけなのに顔に熱が集まるのは、別に私が変なわけじゃないよ!? 明日の朝、オープンした時にすぐそばにいてくれるためって意味で、だから、意識してるわけじゃ……ないんだけど……どんな顔をしたら正解なの!?
「オリーブ、ごめんごめんっ。別に無理にお願いするわけじゃないからそんな顔しないで」
「違うの! ど、どうぞって言うのが正しいのか、狭いから宿の方がって言うのが正しいのか迷っ……ちゃって……あの、ユニヴァが良いなら……」
最初に色々揃えたから客室はある。あるけど、居心地が良いかって聞かれると自信がないし、王宮の部屋なんかとは絶対比べものにならないのに。
「じゃお言葉に甘えて泊まろうかな」って顔を近づけるなんて、ズ、ズルいっ!
これだからイケメンは心臓に悪いんです、お願いだからそんな嬉しそうな顔を近付けないで……!
カランカラン〜♪
「ユニヴァ様、お迎えに上がりましたよ……ってオリーブ様、お顔が真っ赤ですが大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですっ!」
こっちを見てククッと笑うユニヴァから思わず顔を背けた。
「シャープ、悪いが事情が変わったんだ。僕は、今日ここに世話になるから馬車からトランクを持って来てくれ」
「かしこまり――……え? と、泊まる!? どこに? ここにですか!? オリーブさんしかいないのに、泊まれるわけないではありませんか。仮にも一国の王子という自覚はないんですか! あっ……王子って言っちゃった……」
「そこは、オリーブに正直に話したから大丈夫。自覚のどうこうではなく、オリーブの困り事を解決するためなんだ」
「だからと言って! どうせユニヴァ様が無理にお願いしたんでしょう、そうに決まってます! さぁ帰りますよ?」
「あぁ〜……そうやって自室に帰って、また書類の山と睨めっこして、明日の朝ここに来るのが間に合わなかったらどうするんだ! オリーブが悲しむのは、全部シャープのせいだ」
「……うぅ……その言い方ズルくありませんか!? 本当に宜しいのですね? 私は……馬車で待機してますから、それは許して下さいよ」
「予想済みだよ」
シャープさんが馬車へ荷物を取りに行かれた時、そっと手招きされたのに気付いて慌てて外に出てきました。
「何かあれば馬車にいますからお声掛け下さいね、まぁ大丈夫とは思いますが」
「王子様ですもんねっ! ユニヴァの身は私が護りますから」
「いえ、護らなきゃいけないのは、どちらかと言えばオリーブさんかと。まぁ、とにかく事情は明日聞かせて下さい。窓からこっちを見てるユニヴァ様から、何だか恐ろしいオーラを感じますので、こちらの荷物をお願いしても宜しいですか? 何だか申し訳ありません」
「いえいえっ、あの……よろしくお願いします」
それにしても、馬車に宿泊用の荷物を入れてるのは各地を巡って幸運の女神を探す旅支度を常にしてる証拠かな。
「ユニヴァ、二階の客室をどうぞ。浴室と洗面はここで……あ、あとは自由に使ってね」
「オリーブは何時まで起きてるの?」
「明日の仕込みもあるから、もう少しここにいるよ」
「オリーブが終わるまで、カフェにいてもいい? ここの空間、とても好きなんだ。寛げるし癒されるし、邪魔なら離れるから」
「全然大丈夫っ! 終わったら声を掛けるね」
ここ数日ずっと暑い日が続いているし、ネイブルさん達が仕事仲間を連れて来てくれたりするから何か涼めるものを出したいなと思って考えたのが、アイス!
この世界、氷はあるけどアイスはないんだよねっ。それにカフェラテで使う牛乳も長くは保たないし、それなら牛乳と砂糖と卵でアイスを作っちゃえば保存も効くってわけで、なかなかなアイディアだと思うんだよね。
実はすでに仕込み済みで、最後の混ぜ込みだけだから、そんなに長くユニヴァを待たせなくて済みそう。昼間のうちに作ったアイスの素を一旦冷凍庫から出して優しく揉んで……揉んで……冷凍庫に戻してから、お店の片付けをすること一時間!
「うんっ、アイスだぁ。美味しい……」
ジーンと来るのは、懐かしい味を再現出来たからかな。濃厚で口溶け滑らかなアイスは、嫌いな人なんて絶対いないはず。ユニヴァに味見してもらうついでに、一個実験してみようかな。
「ユ〜ニヴァ」
「わぁ! ……ビックリした」
「何をそんな真剣に……」
目線の先にあったのは棚に飾ったカメラ。
あの日……ユニヴァと初めて会った日、私の手に握られてたカメラは、現像する術が残念ながらこの世界にはなくて。だから、撮り溜めるだけでカメラは装飾品として棚に置いてある。
「オリーブは仕事終わった? 何を持ってるの?」
「あっ、そうそう! 早くしなくちゃ溶けちゃうから、とにかく座って?」
目の前のテーブルにアイスを置き、これがアイスという食べ物で牛乳から出来てることを説明すると目を丸くして覗き込む。小さな器に盛られた白くて丸いアイスをスプーンに掬って一口。
「冷たい! これはすごいね! 甘くて美味しい……こんな食べ物初めて食べたよ」
「気に入りました?」
「うん……ちょっと興奮してる……うわぁ兄上にも食べさせてあげたいな」
「作ったアイスが溶けない工夫さえ出来れば、お城にも持って行けると思うんだけど、その時は是非お兄様にも食べさせてあげて」
「ありがとう、オリーブ。君といると世界がちっぽけに見えてくるよ。こんなに新しい発見ができるんだから……」
「じゃぁ新しい発見ついでに一つ挑戦してみない?」
そう言った私は、残ったアイスの上から湯気の経つコーヒーをそっと注ぎ「どうぞっ」とウィンクした。
苦いのが苦手なユニヴァは、アイスが勿体無いといでも言いたそうな顔で私を覗き込むけど、アイスが完全に溶けたらいけないから少し急かしてスプーンを口に運ぶユニヴァを見守った。
「わっ……」
甘いアイスにコーヒーを注ぐアフォガードなら、ユニヴァも食べれるんじゃないかなって思ったの。案の定というべきか、食わず嫌いの子どもが実は美味しい食べ物だと知った時の目を輝かせる感じ! 器を持って流し込むユニヴァが見れたんだから、これは成功でしょう!
「ご馳走様。今日ここに泊まれて良かったよ。こんな贅沢な時間、他の誰にも取られたくないな……取られたくない」
「ユニヴァ?」
「オリーブ……さえ良ければ城に遊びに来ない? アイスを兄上に食べさせてやりたいし、両親にもオリーブを紹介したいんだけどダメ?」
……お城って遊びに行くところでしたっけ? それに両親って、えっと……つまり王族の両親ってことは――
「む、無理無理無理! 私、礼儀も知らないし、お、お城は遊びに行くところじゃないよっ」
「そんな気負わなくて大丈夫だから、ねっ? それなら兄上にアイス、それだけで構わない」
「アイスだけ?」
「アイスだけ!」
「……ぜ、絶対?」
「絶対」
仕方なく頷いた私を嬉しそうに見るユニヴァを見て、私の心臓が跳ねたのは……別に好きとかそんなんじゃ……ないんだからね。ユニヴァがいるこの空間は好きで……イケメンだからドキドキするだけ……だよ?
新規メッセージ
――幸運の女神で在られる貴方様へ
刻印の場所を選択し送信して下さい




