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オリーブと月  作者: HARUHANA


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6.オリーブの樹は訳あり

 早いもので、オープンから一ヶ月。

 

 最初こそ静かだったお店も、徐々に客足が増えて来た! 別に宣伝したわけじゃないけど、ユニヴァみたく不思議な香りに釣られてきたお客様もいたし、口コミで知ったお客様も徐々に増えてきて嬉しい限り。

 それに、お店の周りに咲くお花が綺麗で、ここら辺じゃ見ない珍しい品種もあるんだとか。お店を中心に左右対称に作られた花壇はすごく綺麗だし、朝の水やりもすごくやり甲斐があって、ガーデニングが新たな趣味となりつつある。


 そうそう。

 庭師さんもコーヒーを気に入ってくれたみたいで、週に一回お手入れのついでに飲んで行ってくれる。お手入れの代わりにサービスさせてもらってて、今日も朝から来てくれてるのでコーヒーを持って行くところなのだ。

 

「いつもありがとうございます。コーヒーはこちらに用意しておきますね」

「オリーブさんのコーヒーってやつ、元気出るからいくらでも頑張れるよ。どの花も根付きが良いし、一つも枯れないなんてすごいな」

「丁寧に作業してくださってるおかげです。だから花が長持ちするんですねっ」

「あ、いや……普通は――」



「オリーブさ〜ん」


 森を抜けてくるネイブルさんとケントさんが、大きく手を振りながら歩いてくるのが見えた。あれからすっかり常連さんで、お仕事の合間を縫ってお店に来てくれるんだけど……なんのお仕事をしてるか具体的には教えてもらえないから逆にすごく気になる今日この頃。


「いらっしゃいませっ」

「アイスコーヒーとサンドイッチを二つずつお願い出来ますか? ちなみに今日もでん……じゃなくてユニヴァ様は仕事が終わらなくて置いて来ました」

「それなら後で持ち帰り用に何か用意するのでユニヴァに渡して貰えますか?」

「それは喜びますよっ。でも良いことなんです。ここ数年は各地を巡って大変なこともありましたが、最近はあまり地方に行かずとも執務が出来ますし」


 ネイブルさん曰く、神殿が今まで感じたことのないエネルギーを感じるとかで、幸運の女神が王都近郊のどこかにいるのではと話題になってるんだとか。


「それにしても綺麗な庭園になりましたね! それにあのオリーブの樹は……まるで太陽の光に輝いているようですね」

「えっ、えぇ……」



 実は、このオリーブの樹が訳ありでして……。

 お店がオープンして数日後、ずっと気になってたQ&Aを開いたら、次のボタンが押せるようになってた。そのタイトルが『オリーブの樹について』と書いてあるからビックリ。


 

 ――オリーブの樹について

 どこかのタイミングで手に入れたオリーブの樹は、お世話だけでは成長しません。貴方がこの国に馴染む度合いによって成長し、人によって成長速度が変わります。

 オリーブの実を採取することが出来た暁には、国の繁栄が確固たるものになり、貴方の願いも叶うでしょう。

 実を食べれば祝福、葉の冠は勝利の証。

 課題:貴方の背丈ほどの成長



 ……というわけで、ユニヴァから貰ったオリーブの樹は今、私の腰くらいの高さだから……当分課題はクリア出来そうにない。

 サンドイッチを頬張るケントさんが、思い出したと言わんばかりにコーヒーを慌てて飲んで、私を手招きした。


「忘れてましたっ! ユニヴァ様から言伝です。『どうしても今日ここに来たいから、死ぬ気で仕事を終わらせたら向かうので待っててほしい』とのことでした」

「ふふっ、そんなにカフェラテが気に入ったんですかね。それなら持ち帰りは用意しなくても大丈夫そうですね」

「確かにっ。まぁ……カフェラテが目的なのかどうかはさておき、オリーブさんも戸締りとか気をつけて下さいね。最近、近隣の街で何やら物騒な騒ぎが相次いでいるんです。女性一人で生活しているし、用心するに越したことはありませんから」

「今まで以上に気を付けます」


 街から離れたこんな場所じゃ狙われることもないと思うけど、戸締りは気をつけなくちゃね。でも、どうやら私のお店には珍しいモノが多く、カメラやコーヒーメーカー、それに棚に飾った小物もスイヴェル王国で見かけることはほとんどないと……シャープさんから教えてもらった。

 この世界の常識じゃないものを持ち込むのも考えものだなぁ……って思うけど、お気に入りばかりだから悩み中。

 今後は出来るだけお店の稼ぎで街に買い物に行けば良いし、他国の行商が来るのを狙ってお買い物に行こうかな。


「それじゃ僕らは仕事がありますので、また来ますね〜」

「ありがとうございました。お気を付けてっ」



 ***



「ふぅ〜……今日はもうお客様も来ないし、閉めようかな。なんだか……いつもより森の声が静かな気が――」


 カランカラン〜♪


「よぉ、まだやってるかい? 嬢ちゃん」


 いかにもガラの悪そうな男性が三人。

 初めて見る顔のお客様は、コーヒーを飲みに来た雰囲気でないことだけは分かるし、昼間の会話を思い出すと嫌な汗が……。


「いらっしゃいませ。お飲み物はどうされますか?」

「飲み物? いらないいらない、ちょ〜っと拝借しにきただけだから」

「拝借って、お金ならありませんよ?」

「お金になりそうなモノならあるだろ? アレとか、コレとか」


 棚に飾る絵や、コーヒーミルを手にしながら「珍しいもんだらけって言われた通りだな」と仲間同士の会話が聞こえてくる。誰かが、このお店のことを教えたってことなのか、口コミで広まるときに耳にしたのか、いずれにしろ自業自得なのは確かだ。


「欲しいものがあるならどうぞお持ちください。でも、私にとってかけがえのないモノたちなんです。だから……」



 バァ――ンッ!!


 扉が思い切り開いて、ここにいる全員が一斉に振り向いた。

 外から入り込む空気のせいなのか、状況に戸惑う私とは反対に、さっきまでの威勢がどこ吹く風の如く、口をハクハクさせた三人組。


「君たち、最近妙に暴れてるらしいね。隣町での強盗、市場荒らし……さぞ楽しかっただろう? まぁ当分出来ないと思うけどね」

「お、俺らまだ何も取っちゃいねぇよ。ほら、なぁ嬢ちゃん」


 私を見つめるその瞳は、怯えとも取れる情けの目。確かに怖かったけど何も取られていないのは事実で、むしろ怯える三人が可愛く思えてきた。


「はいっ、()()何も取られていません。コーヒーを飲みに来て下さったんですよね? ちゃんとお代は貰いますし、今まで何か悪さをしたのなら素直に話したほうが絶対良いですよ? ねっ、コーヒーの準備が出来るまで反省してて下さい」


 一旦キッチンに入った私は、しゃがみ込んで大きく深呼吸した。はぁ……怖かった……。

 それにしてもユニヴァって本当に何者? 一目見ただけで犯罪者すら怯えるって、まさか裏社会のボス的な!? だから護衛がつくとか? 人は見かけによらず……なんて言ったりもするけど、私もユニヴァなんて呼び捨てにしてる場合じゃないかもしれない……!


 

 とにかく助けてもらったお礼は後でするとして、コーヒーを準備しよう。

 あの三人がこれ以上悪さしませんように……!

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