5.カフェラテと花
『Cafe Oliveへようこそ』
あれから三日、寝る間も惜しんで仕上げた渾身のお店は、本日無事にオープンすることが出来た。
と言っても、行列なんて夢のまた夢で。細々ゆっくり少しずつ歩んでいくつもりで、可能な限り来てくれるお客様の顔も覚えながら悠々自適なセカンドライフを過ごせれば私はそれで良し。
カランカラン~♪
「いらっしゃいませっ」
「おはようオリーブ、そしてオープンおめでとう」
「ユニヴァ! 本当に来てくれたんですね」
「もちろん。今日は仲間を連れてきたんだ、窓際のソファ席良いかな? それとカフェラテを人数分頼もうと思うんだけど平気?」
「かしこまりました。今日は良いお天気ですから冷たいカフェラテをご用意しますね」
宣伝もしてないから静かなオープンになると思ったけど、ユニヴァのおかげで賑やかになって嬉しかったりする。
グラスを出して、多めの氷と熱々のコーヒーを注いだら溶けやすい砂糖とミルクを回し淹れる。カランッと涼しげな音を立てながらひと回し。
「お待たせしました、アイスカフェラテです。少しかき混ぜてから飲むと美味しいですよ」
コースターの上にグラスを乗せ、皆さんの前に準備すると反応は様々。
「でん……んんっ、ユニヴァ様これがカフェ、ラテという飲み物なんですか?」
「そうだよ、氷を使ったカフェラテは私も初めてだけどね」
「氷がこんなにっ。色も紅茶とは少々違いますが、とても綺麗な色合いですね。それでは……」
グラスの隣に置いたマドラーで少しかき混ぜて、それぞれが恐る恐るグラスを口に。
「美味っ……甘いだけじゃない優しい苦味? これ凄いですね、でん……じゃなくてユニヴァ様」
「冷たいのも美味しいな。初めてのカフェラテは、温かかったけどそっちも美味しかったんだよ。癖になりそうだし、皆に知って欲しかったんだ」
「ユニヴァ様、お言葉ですが……」
一人の男性が、私を見てから店内を見渡し「このような場所は初めて見ました」と立ち上がって店内散策が始まった。
「オリーブ、彼らを紹介しようか。僕の前に座る白いジャケットを着たのが、ネイブル」
「よろしく、オリーブさん」
「その隣が、ケント」
「ケントです。お会いできて光栄です」
「そして店を見ているのが……」
「初めましてオリーブ様、私はユニヴァ様の側近を務めておりますシャープと申します。こちらにあるものは、オリーブ様のコレクションですか? 実に素晴らしい! 初めて目にするものや所々に置かれた植物、それに看板一つ取っても非常に居心地の良い空間ですね。ユニヴァ様がお気に召すのも頷けます」
もの凄い前のめりな自己紹介に一歩下がってしまったけど、ユニヴァが「落ち着け」と引いてくれた。それでも目を輝かせながらこちらを見ている姿を見ていると何だか……少しクスッと笑ってしまう。
「気に入って頂けたようで何よりです。お客様の癒しになるように考えてお店を作ったので……最高の褒め言葉です」
お店を一周して、漸く席に着いたシャープさんを確認したユニヴァが「実はね」と話し始めた。
「オリーブ、実は開店の祝いに花を持ってきたんだ。外にあるんだけど受け取ってくれる? どんなのが良いか分からなかったから、少し多めに持ってきてしまったんだけど」
「お花を? 嬉しいですっ」
「おいで、一緒に選びにいこう」
お店の中は緑に囲まれているけど、お花まで手が回らなくて。花瓶はあったかな……って、え? あの……これは……!
「ユニヴァ、あの……お花ってまさか……」
「好きなのを選んでくれ、何なら全部貰ってくれると嬉しいんだけど」
お店の周りに置かれたお花の苗ポッド、ポッド、ポッド……! 色とりどり、色んな種類のお花が一面に広がる光景に、まるでお花畑に来たような錯覚。よく見れば、花を積んできたと思われるお馬さん付きの荷台から頭を下げるお年を召した男性が二人……絶対大変だった、よね!?
「気に入る花はある? 選んで場所を指定してくれたら庭師が整えるから自由に言ってくれて構わないよ」
「もしかして、あそこにいるのが庭師の方ですか? えっと……あまりの綺麗さと驚きで……ユニヴァって何者?」
これだけのお花を用意するのだって驚きなのに、お抱えの庭師って……。それに端まで見渡したらお花じゃなくて、まだ小さいけどオリーブの樹まで植木鉢に入って置いてあるんですけど!
「こんなに沢山のお花、用意するの大変でしたよね? ありがとうございます。でも、これだけあると悩みむなぁ……どうしよう」
「ははっ、用意しといて何だけど、そう言うかなって思ったんだよね。良かったら任せてくれない? 絶対気に入るように仕上げるからさ」
「……じゃ、お言葉に甘えて……。あ、お客様が通るここは空けて欲しいかな」
「さすがだね。お任せを」
庭師の二人に手を挙げて「それじゃ頼んだよ!」って声を張り上げたユニヴァはとびきりの笑顔を見せた。
***
「なぁ殿下のあんな顔って初めて見た」
「おいっネイブル、ここではその呼び方禁止だって言われただろ。まったく……まぁ確かにあんな顔されるのは、ラルク殿下と遊ばれてた時以来だからなぁ」
窓から見える二人の様子。
次々に庭師が植える花を愛でるオリーブさんと、それを嬉しそうに見つめるユニヴァ様。
……今の僕たちは無力だ。学や職があっても、幸運の女神を探すユニヴァ様の役に立つ事が出来ないから。
「シャープ様、彼女が幸運の女神だと思います?」
「どうだろうな。ユニヴァ様曰く、オリーブさんは幸運の女神を知らなかったらしいから違うと思うが」
「僕はオリーブさんが幸運の女神じゃなくて良かったって思ってしまいます……だって、もしもそうなら……ユニヴァ様とは一緒にいられなくなってしまいますから」
ユニヴァ様の兄であり、この国の第一王子は現在非常に深刻な状態だ。生まれた時から絡まる呪いの類いに苛まれ、幸運の女神によって呪いを解かなければ命を落とす。
これは国が誕生してから数百年毎に訪れる悲劇なのだ。しかし、その度に幸運の女神が現れ、王子を救い、更に国をも強固にしてきた伝記がそれを物語っている。
しかし呪いと知るのも、ごく一部の人間のみで、一般的には身体が弱いと知らされて来た。伝記やそれらに纏わる書物は厳重に保管され閲覧すら禁止している。ユニヴァ様は幼い頃に知ったと聞いたが、禁書庫への立ち入りは叶っていないと聞く。
「幸運の女神を探す合間の癒しとなれば、ユニヴァ様にとっても良い事だろう。我々が口を挟むことではない。もしユニヴァ様が幸せを望むときは全力で支えて差し上げよう」
「シャープ様の仰る通りですね」
だけど、もし彼女が……オリーブさんが幸運の女神だったら、ユニヴァ様は耐えられるんだろうか――




