3.散策と願い
「おはよう、オリーブ」
「あの、おはよう……ございます」
約束通り、街を案内すると言ったユニヴァさんがカフェの前に来てくれた。正直、全く知らない地なので非常に有難いお話しでラッキーなんですけど、そんなすぐ予定を変えられるような仕事なんだろうか? 学生……には見えない。
「とても助かります……けど、私なんかに付き合って頂いて、むしろユニヴァ……さんは大丈夫ですか?」
「ははっ、ユニヴァって呼び捨てで良いよ。それに昨日のカフェラテのお礼にと思ったまでだから全然大丈夫。それじゃ早速行こうか」
乗ってきたであろうお馬さんは、お店の横にある囲いに入れて、ユニヴァの後ろに付く二人の騎士さんにジッ……と、見られてる気がする。
視線を感じなながら、少し森を歩いただけで遠目にレンガ調の建物がいくつもある街並みが見えてきた。外国写真のような美しい光景に、思わず笑みが溢れる。
開けた広場には、一際目立つ綺麗な噴水が陽の光を反射しながら空へ飛沫を上げ、広場の至る所に出てる屋台も可愛らしい装飾がされていて……これは、まさに『映え』写真が撮れる絶好のロケーション!
「素敵……こんな賑やかだったなんて……」
「あそこにお店を出すのに、知らなかったの?」
「えっと、そ、そうなんです。遠いところから越して来たんですけど、お店を整えるまで外出を控えてて……」
「……まぁ事情は人それぞれだからね。どこから見てみたい?」
「あの、私のお店みたいなカフェってあるんですか?」
「コーヒーは知らないけど、紅茶とケーキのお店か、食事処ならあるよ」
「なら、紅茶とケーキのお店を見てみたいです」
行き交う人々と時折目を合わせながら、お店の外観を脳裏に焼きつける私の眼光が余りに鋭かったのか「すごい真剣だね」って突っ込まれた。そんなすごい顔してたのか、近くの窓ガラスを見てみたけど、そんな光景すら真剣に見えてしまうのかもしれない。
「ここだよ」と着いたお店は、ミントカラーの壁に白い日除け屋根の付いた可愛いお店。ガラス越しに見えるショーケースのケーキも、マカロンも色鮮やかにデコレーションされていて、とっても美味しそうっ。これは是非食べてみたい……けど、店内は女の子ばかりで男性の姿は見えない。ユニヴァは絶対入りにくいはず。お金もないし、見学だけ――
「入らないの? 折角だから食べようよ。ご馳走様するから好きなの選んで?」
「…………お言葉に甘えます」
カラン〜♪
「いらっしゃいませ、ショーケースからデザートを選んだらお知らせ下さい」
私は苺が乗ったタルト、ユニヴァはまじまじ見ながら悩んだ末、レモンケーキを選んで席に着いた。
頼んで少しすれば、紅茶とともに更にデコレーションされたデザートが目の前に……!
「可愛いぃ……た、食べるの勿体ないっ」
「んっ、美味いから早く食べた方が良いよ?」
「ユニヴァ、こういうのは目で楽しんでから――」
ザワッ……
聞こえないように話してるようだけど、明らかにこちらを見て話してるのが分かるくらい、どうやら注目を浴びてしまった様子。
目の前に座るユニヴァが、レモンケーキを美味しそうに頬張る度、「いいなぁ」とか「素敵」って囁きが聞こえて来るのだから間違いない。
確かにイケメン! 分かる、だって私も昨日初めて会った時思ったし。丁寧な所作も姿勢も何もかも女性の視線を集めるって分かるけど……でも、どうか今だけは、この可愛いケーキに集中させてほしい……!
苺のタルトを一口。甘酸っぱい苺とタルトのクリームの相性が抜群で、目を見開いてしまう! それに、口の中の甘さをスーッとスッキリさせる紅茶の美味しさ。
ユニヴァ同様、周りの声なんて気にならなくなるくらい美味しいなんて……私も頑張らなきゃ。
「お店はいつオープンするの?」
「んっ、三日後くらいにはオープンしたいなって」
「三日後か、人手が足りない様なら手伝いに来るよ? コーヒーもだけど、あの空間がまた三日でどう変わるかと思うと興味があるんだよね」
「人手はどうでしょう。私、この辺にまだ不慣れで知り合いもいないし宣伝もどこまで出来るか分からないから、細々やっていくつもりなんです」
「あんなに美味しいのに細々なんて勿体ないよ。まぁでも忙しすぎて、こうして出掛けられなくなるのは寂しいかもね」
ウィンクしてまた紅茶を飲むユニヴァに、私がタジタジするのは可笑しなことじゃない、はず。
「……昨日、幸運の女神か聞いたのを覚えてる? 僕はね、その幸運の女神を兄のために探してるんだ。何か知ってることがあれば教えて欲しい」
幼い頃から仲が良いお兄さんは、病を患い……もう長くないと、ユニヴァが語り始めた。成績優秀で、家を継ぐための勉強も熱心、ユニヴァや家族との時間も大切にする優しいお兄さんが助かるには、その幸運の女神と出会う必要があるんだそう。
「ある預言者が言ったんだ、成人する年に幸運の女神が現れるって。でも赤子なのか成人女性なのか……どこにいるのかも分からないから、両親の許可を得て僕が探してるんだ」
「……幸運の女神に会ったら絶対治るんですか?」
「分からない。でも、医者でも科学者でも治せないから頼れるのはもう……それしかないんだ。それに幸運の女神が現れる時は、国が繁栄するって言われててね、兄のこともそうだしスイヴェル自体が良くなるなら会ってみたい」
私は先に死んでしまった立場だから、こういう場面を見ると、私が死んでしまった時こんな風に思ってくれてた人がいるのかなって。誰かのために一生懸命になれるって凄いことだもん。
「私も、何か分かればすぐお伝えしますね」
「ありがとう。正直初めてオリーブを見た時、もしかしてこの子が幸運の女神なんじゃないかなって思ったんだ」
「聞かれた時、りとてもビックリしたんですから」
「ははっ、そうだったら良かったなって話し。さて、そろそろ出ようか」
お会計を済ませて、他のお店も少し見てから、私は自分のお店に戻ってきた。ユニヴァは、急な呼び出しがあったとかで途中帰ってしまったけど、色んな物を見て触れてとても有意義な時間だったのは間違いない。
ちなみにこの国にコーヒーは無かったけど、同じように豆を挽いて飲む国が他にあるらしいと言う事は分かった。もしかしたら違う名前なだけで同じものかもしれないし、その国は行商が月に一度市場にお店を出すって話だったから、また機会があれば行ってみようと思う。
タブレットで必要なものの買い物を済ませた私は、ふと今日のユニヴァの話に思いを馳せた……。
『それに幸運の女神が現れる時は、国が繁栄するって言われててね』
私がこの世界に来て初めてタブレットを目にした時の『スイヴェル王国の更なる発展と救済』の文字。
これは偶然の一致? それとも――
いやいやいやいや、まさか……ですよね?




