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オリーブと月  作者: HARUHANA


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2.漂う香り

 第二の人生がスタートして、初めての朝。

 ソファーで目を覚まし、窓から吹き込む清々しい空気で気持ちの良い朝を迎えた。


 思い切り腕を上げて、肺に空気を溜め込んでみた。生きてる実感を何度でも感じたいと思ってしまうのは、転生者あるあるじゃないだろうか。

 

「あぁ~ここに、コーヒー豆とミルが届いたらもうそれだけで生きていけそうな気持ちになれるっ」

 

 荷物が届くまでの時間、覗き込んだ地図には四つの大陸と、少し離れた小島が一つ。どうやらスイヴェル王国は、大陸の中心的な位置にあるようで、面積も他の国に比べると大きめ。

 もうここが日本じゃないもの分かってるし、どこか知らない世界にいることは重々承知しているつもり。



 ドサッ!


「勝手に荷物がね……って、すごいシステム!」


 この素晴らしいシステムがこの世界の常なのか否か……。

 タブレットの冒頭には確かに『この世界にない物も注文できる』と書かれていたから、前世どうしても手の届かなかった一眼レフカメラまで購入してしまったが、これで後から請求されたら本当に笑えない。


「でも、やっぱり嬉しい……念願のカメラだ。格好良い……」


 ちなみにこのお家、ちゃんとコンセントみたいな電気供給源はあるみたいで、タブレットの充電もカメラの充電も問題ない。


 食材と書かれた段ボールの中からコーヒー豆とミル、ペーパーレスのコーヒードリッパーを取り出し、お湯を沸かし始めた私は、カメラ片手に被写体を見つけてはシャッター音を楽しんだ。ファインダーを覗いた先に見えるこの異世界を、どう美しく映せるだろうか。現像は出来ないかもしれない、だけど好きな物に囲まれる人生ならそれはそれで良い。そんな人生なら、許されるくらいに充実させてみせよう。


 ミルでコーヒー豆を挽き、その奏でる音を聞きながら鼻を抜けるコーヒー豆の香りに鳥肌を立たせ、湯気の立つお湯を注いで夢心地に触れる。


「わぁ……これだよ。この音とこの香り、お願いだから夢なら覚めないでっ」


 挽きたての豆がシュワシュワ広がる、懐かしい光景を観察しながら、下から垂れてくるコーヒーに感動すら覚える。時間を気にする必要もないし、時間に追われることもない。これぞまさに、スローライフ!

 

 ゆっくり貯まったコーヒーを一口。


「……美味しっ! 神様、ありがとう」


 目に涙を浮かべながら堪能するコーヒーで、脳内が随分癒された。澄み切った感覚で、カフェのイメージを固めて家具を探せば、理想通りのイスにテーブル、カウンターが。

 そこからは、もうゲーム感覚。

 間隔を広めに、テーブル席とソファ席、それに少しのカウンター席を作って、あとは観葉植物や小物で彩りを加えたら完了。


 コーヒーを飲み終え、一緒に注文した柔らかいパンを口に頬張りながら、カメラ片手に外へ出た。

 昨夜の光景とは違い、このカフェの周りだけ綺麗に木が無いおかげで、太陽の日差しが気持ちいいほど降り注ぐ最高の天気。過ごしやすい気温が、また心を躍らせる。

 首に掛けたカメラのファインダーを覗きながら一歩、また一歩と下がっ、

 

 

 ドンっ!!

 ――カシャ


 

「おっ、と……」

「きゃっ! えっ!? あ……ご、ごめんなさい!」

「いや、もっと早く声を掛ければ良かったね」

「本当すいません……」


 まさか人がいるなんて。それにしても……なんていうか、どこの国の衣装ですか? って聞きたくなる服。しかも、どこのモデルさんですか!


「ここで何をしてたの?」

「あ……私は……」

「ここ、君のお家?」

「オープン前のカフェ……です。準備中なんですけど」

「カフェなんだ! 実は、近くの街に用事があったんだけど、途中で可愛らしいお家を見つけるし、何だか香ばしい香りがするし、後ろ向きに歩いてくる子がいるしで声を掛けるタイミングを伺ってたんだ」

「近くに街があるんだ……」

「ん?」

「あっ、いえっ!」


 街の存在も知らないなんて有り得ない状況は、是非スルーして頂きたい。


「この独特な香りは……何の匂い?」

「コーヒーの香り、気になりますか?」

「……コーヒー、うん。そのコーヒーって言うやつが見てみたい」

「あっ、あのでもまだオープンしてなくて……片付いてなくて、それでも良ければ」

「君さえ良ければ――」


 ドサッ!!

 

「…………こ、こちらにどうぞ」

「なんか凄い音がしたけど、大丈夫?」

「た……ぶん」


 恐る恐るドアを開け、そっと覗いた。


「大丈夫?」

「はっ、はい! どうぞお好きな席へ」


 見事にタブレットで当てはめた通りの家具が並び、それっぽいカフェみたいな仕上がりになっている。

 鈍い配達音に心拍が上がっても、平静は装えてるか自分を確認しながらキッチンへ向かって、ドリッパーから落ち切ったコーヒーに手を伸ばした。


「へぇ、オシャレな内装だね。それが……コーヒー?」

「飲んだこと、ありますか……?」

「ないよ。初めて見たし、初めて聞いた。それにしてもすごい色の飲み物だね」

「初めてって……コーヒーは身近にないんですか?」

「ないよ? 君には普通なの?」

 

 ……しまった! そういえばさっき『コーヒーってやつが見てみたい』って、知らない人のセリフだ。どうしよう……当たり前に案内してしまったけど、怪しまれちゃう……かも。


「飲んでも良いの?」

「え、あっ……このまま飲むと苦いんですけど、大丈夫ですか?」

  

 少し残念そうに見えるのは、きっと間違ってないんだと思う。苦味が苦手な人は多いし、飲み慣れるまでに時間がかかる人もいるから。ここまで来てしまったんだから、誤魔化せるかどうかは置いといて、今は精一杯のおもてなしをしよう。


「それなら、カフェラテはいかがでしょう。苦味を抑えて、飲みやすくなりますよ?」

「苦いのがダメというわけじゃないんだけど……お言葉に甘えて、そのカフェラテとか言うのをお願いしようかな」

「もちろんです。では、一番最初のお客様という事でサービスさせて頂きますね」


 氷があればアイスカフェラテも美味しいけど、そこまでの準備は出来てないから今日はホットで。コーヒー、砂糖を入れて混ぜたら上から温めたミルクを注いで。


「お待たせしました」


 不思議そうに眺めてから一口。


「んっ、美味しい……」

 

 また一口……ホッとするような笑み。


 

「ねぇ、君って()()()()()なの?」

 


 幸運の……女神?

 新たな人生を迎えたことは幸運だけど、それだけ。キョトンとした私の顔を覗き込んで「今のは気にしないで」とカフェラテを飲み干した。


「サービスって言ってたけど、本当に良いの?」

「も、もちろんです。きちんとしたおもてなしでもないですし、初めてのお客様ということでサービスさせて頂きます」

「初めて……それは嬉しいな。必ずまたここに来るからさ、名前を聞いても良い? 僕の名前はユニヴァ」

「オリーブ……です」

「オープンはまだだよね? 明日も準備するの?」

「明日は、近くの街に行こうと思ってます」


 カフェのメニューを決める前に、この世界の常識を知らなきゃいけないと学んだから。まずはこの土地を知ることから始めようと思う。

 

 

「それなら、明日案内しようか?」

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