1.運命のルーレット
『さぁ〜やって参りました! 運命のルーレットタ〜イムッ! 一体どんなポジションをゲットするのか、それはもう貴方様次第ですけどね〜。この目にも止まらぬ速さで何が書いてあるのかサッパリ分からないルーレットボードを、どうぞお手元のボタンで止めて頂き、これからの貴方様の進むべき道へお進みくださぁい。ちなみに、変更やキャンセルは一切出来ませんのでご容赦くださいませね。さぁそれでは行ってみましょう!』
導かれる様に、歩いてきた。
ここが何処なのか、一体何をしに行くのか私には全く分からない。分かるのは、私が死んだと言う事だけ。天国か地獄どっちに行くか、ただ歩いていくだけだと思ってた。
でも……路の終わりは意外にも明るい陽気な部屋で、声だけが響く不思議な空間。私の手の中に突然現れた怪しいボタンも、高速で回り続けるボードも、聞きたいことが山ほどあるのに、声を出すことは一切出来ない。
『そうですよねぇ〜喋れないですもんねぇ〜、死人に口なしっ……ふふっ、喋らなくても問題ありませんからねぇ。じゃポチっと押しちゃいましょう、ボタンを。どうせ押す以外に選択肢もありませんしぃ、死んでますから潔く、お願いします!』
何とも酷い言い様ではあるが、言い返すこともない。それならいっそ……ひと思いに押してしまおう。
ポチッーー
【森の喫茶、ただし月に注意】
矢印の止まった盤上に書かれた文字。
フワッと現れた水色の扉に金のドアノブは、ファンタジーを感じさせるが、死人には似つかわしくない。とは言え、ここ以外私には行き場がないのだ。
『はいっ、お疲れ様でしたぁ。なかなかな行き先を当てた貴方様の扉はこちらになりまぁす。行ってらっしゃ〜い、wish you the best!』
明るい声に見送られた私は扉を潜り抜け、脆くも粉になって風に舞うそれを見つめながら美しい夜空を見上げた。
『なかなかな行き先』とは、どういう意味だろう。
まさか、こんな夜更けの森で新たな人生をスタートさせるなんて思いもしなかった。
友達もそこそこに楽しい人生だった。
最後の光景は、暴走車と知らない人の慌てる顔だけ。きっと突っ込まれたんだ。若かったけど、家族はいなかったし……幸か不幸か、あまり後悔のない人生だったように感じる。
夜風で擦れる木の葉が鳴り、満月に照らされながら心新たに二度目の人生を謳歌しようと決心した私は、灯りが灯る小さなお家に導かれた。
「お邪魔しま〜……す」
漸く発することが出来た声を最小限に抑え、恐る恐る中に入ってみるものの、カウンター付きのキッチンとソファだけ。よく見ればカウンターの上には怪しく光るタブレットが見える。
いつ誰が来ても良いように準備されていたのか、充電コードに繋がれていないタブレットが充電100%を表示する怪しさは……一旦置いておこう。
――ようこそ、スイヴェル王国へ
お気付きかと思いますが、こちらが運命のルーレットにて当家に来られた貴方様の生活拠点でこざいます。説明も面倒ですので、生活に必要なものはこのタブレットからご注文頂ければすぐ配達させて頂きます。
つきましては、本国に来られた方へのお願いとしまして、このスイヴェル王国の更なる発展と救済、そして貴方様の幸せを願い、喫茶店を開いて頂きたく存じます。どのようなお店にするかは貴方様のセンス次第でしょう。また、タブレットのQ&Aを開けば今後の役に立つ……はずです。
それでは良い人生を wish you the best!
タブレットに表示された文章に目を通し、右下に見えたSTARTをタップすると【LODING】の文字とステータスバーが動いていく。
そもそもスイヴェル王国なんて授業では習ったことがないし、私が今身に付けてる服だって日本じゃないことだけは確かで。もしかして流行りの異世界転生なんて可能性もあり得るけど、こんな夜更けではそれを確かめる術もない。
タブレットが存在するなら結構発展してる世界なのか、それとも転生者だけが使える代物なのか。前世では仕事で使ってたから使い方は問題ないと思うけど、必要なものがタブレットで注文出来るなら、かなり楽なのは間違いない。
ここが生活拠点で、タブレットには問題解決のツールがあって、この国を豊かにするために働けば良いって事だけは理解したつもり。
「寝るのも何だか勿体無いな……」
二度と触れられないと思ってた暇つぶしが、目の前にあるんだから使わない手はないっ! ソファに座って、ロードが終わったタブレットの画面にはアイコンが一つだけ。
「オリーブ……と月? なんだか物語みたいな名前のアイコン。まぁ、一つしかないから分かり易いけど。アイコンを押したら良いんだよね? 押すよ私……えいっ」
〜♪〜♪
『ようこそオリーブと月の世界へ。
まず貴方の名前は、オリーブ。
ここでカフェを開き、
この世界に触れ、
人々を癒してください。
魔物はいませんが、戦争はあります。
魔法はありませんが、特殊能力は存在します。
――Q&A、使用可能
――コンテンツ、全解除
それでは、どうぞ第二の人生をお楽しみ下さい』
何とも可愛らしいアニメーションのオープニングが終わり、切り替わった画面には幾つかの項目と、どうやら今世の私と思われるプロフィール写真が出てきた!
「わ、私こんな顔なんだ……」
鏡もないこの部屋で自分の顔をプロフィールで確認することになるなんて。前世の名前ももう思い出せないけど、どうやら勝手にオリーブになった。
大きいブルーグレーの瞳に通った鼻筋、柔らかいアレンジしやすそうな髪、触っただけで分かる陶器肌。
「とにかく必要なものを揃えなくちゃ、かな。買い物の仕方から調べたいんだけど……あ、」
――買い物について
この世界で販売してるものだけでなく、貴方の頭の中に記憶された物も取扱う事が出来ます。
ただし、この世界の常識ではありませんのでご注意下さい。また、このタブレットは本人のみ使用可能なため代理注文は受け付けておりません。
そして最も重要なこと、品物の代金は不要です。必要な物を必要な数だけ揃えてお店を整えて下さい。
課題:お店のオープン
「お金いらないの? それに、課題……って何だろう? 手探りにも程があるなぁ」
とにかく買い物のタブを押すと、カテゴリー毎に様々な商品が並び、可愛いものからシンプルなものまでラインナップされている。どうやら、自分の頭の中に描く理想の商品が欲しい時は、専用のボタンを長押ししながら思い描くと画面に出るらしい。
「明日、自分がどんなお店にしたいか構想を練ってから注文しようかな」
カフェに必要な家具や小物は、朝になって揃えよう。すぐに必要な身の回りの物から整えようと、生活必需品のカテゴリーからあれやこれや……タオルに石鹸、調理道具とか簡単な食材と、着替えも幾つか注文してタブレットを閉じた。
「課題をクリアしたら、次のQ&Aが開けるのかな……。明日色々と……ふぁ〜あ、がんばろ。そういえばオリーブと月の、月って……なんだろ――」
ゆっくり閉じていく瞼の重みすら、生きてる実感を得られる。
死の世界は、案外賑やかだった。高速で回るボードで決まった第二の人生だけど、ここで、この世界でまた頑張ってみよう。自分のために、誰かのために出来ることがあったら、良いな。
毎日、更新予定です。
どうぞお楽しみください。




