6.村へ
「朝から騒がしいな、ほんと」
額の汗を拭いながらカズが二人の元にやってくる。半ば呆れ顔のカズに、興奮冷めやらぬフィーは早口で伝える、
「だってだって、なつきの力見た? すごくない。せいゆうって力なんだって」
「いや、声優はそういうんじゃ」
「それでね、姿が変わって……」
なつきが訂正しようとするのも物ともせずに続けるフィー。
「見てたよ、ゴブリン倒した時の力。昨日聞いた時は隠してたのか」
「さっき、試してみるまで確信がなかったから……」
カズにじっとりと睨まれて、なつきは気まずそうに目を逸らす。今できてしまった力を昨日言わなかったなんて、カズに嘘をついていたように思われても仕方がない。
「……冗談だ。魔法使いなんてそんなたくさんいるもんじゃない。力を無闇矢鱈に言いたがらないのは普通のことだ」
カズが肩をすくめながら少しだけ揶揄うようにふっと笑う。
「お兄ちゃんったらカッコつけちゃって。それに、魔法使いじゃなくてせいゆうなんだよ」
「へいへい」
フィーが自分のことのように得意げに胸を張り、訂正する。カズは慣れたように適当に遇らう。
(本当に、仲のいい兄妹だな)
なつきは心の中でそう思った。
それから畑仕事を終えてお風呂に入った後、いよいよ村に行く準備を始める。
「お昼は村で食べるぞ」
「ほんと、やったやった!」
フィーは、子供のようにその場で跳ねてはしゃいでいる。
「なつき、村の食事処の魚料理はほんと美味しいから楽しみにしてて」
「そうなんだ、楽しみにしとこう」
なつきはフィーの言葉に心を踊らせる。休みの日は専らネットで調べた、美味しそうなグルメを巡ることが趣味だったからだ。
(塩焼きかな、味噌煮かな……。いや、でも西洋風の味付けだよね多分)
魚料理を妄想して、思わずにやけて唾を飲む。この瞬間は、異世界にいることも忘れて脳内は美味しいグルメ探しモードになり
「あっ、なつき。今、料理のこと考えてたでしょ」
「えっ、いやそんなこと」
「わかるよ、めちゃくちゃにやけてたよ」
「あぁ、よだれでも垂れそうな顔してた」
「うぅ……恥ずかしい」
なつきは揶揄われて顔を真っ赤にした。
「フィー以上に食い意地が張ってるな」
「うるさいよーだ」
そう言いながらフィーは背中に弓と矢筒を背負う。不思議そうになつきが見ていると、フィーは優しく教えくれた。
「あぁ、昨日見たでしょ?最近たまーにゴブリン達が出るんだよね。まぁ、整備されてる人道の方に現れることは少ないけど、念のため」
「そっか、そうだよね」
なつきは一瞬でグルメモードは吹き飛んで、現実に引き戻される。昨日、自分はゴブリンに殺されかけていたことを思い出し、なつきの顔が引き攣る。
「安心して、なつき。これでも私はこの辺りじゃ1番の弓使いなんだよ。昨日は矢が尽きてて、助けに入れなかったけど、矢さえあれば魔物なんて撃ち抜いてやるから」
なつかの固まった表情を見て、励ますように弓を構える仕草をしてウインクする。
「それにね、お兄ちゃんも剣の腕前はそこそこだから、ね」
「まぁな」
「なら、安心だね」
なつきはフィーの言葉にふうっと息を吐く。魔物に会っても二人がいれば大丈夫と妙な頼もしさを感じていた。
「何守ってもらえるーみたいな顔してんだよなつき?」
「へっ?」
なつきはカズの言葉に驚き目を丸くする。
「1人でゴブリンを5体倒してるんだ。どう考えても、なつきが最高戦力だろうが」
「え……えぇぇぇぇ」
なつきは驚き、外まで響くような大きな声で叫んだ。カズはため息をつき、フィーは拳を上へと突き上げた。
「何驚いてんだか」
「頼りにしてるよ、なつき」
まさか守ってもらうつもりが、守る側だった。なつきはまだ覚悟が決まらないまま村へと向かうのだった。
年明けより連載再開!
少々お待ちを




