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5.お手伝い

食器洗いを終えると、3人は寝る支度を始める。


「ごめんね。、ベッド二つしかないから、狭いけど私と同じベッドで」

「ううん、暖かい部屋で眠れるだけで幸せだよ」


なつきはベッドにそのまま入ろうとした時、フィーが呼び止めた。


「あぁ、ちょっと待って」


フィーはタンスの中から一つ洋服を取り出した。


「はい、これ。その格好じゃ寝づらいでしょ? 私ので悪いけどよかったら」

「ありがとう、フィー。何から何まで」


フィーに渡された洋服をぎゅっと抱きしめる。フィーの優しさが今のなつきには全てが身に染みた。


「えへへ、明日からはまた色々教えてね」

「うん、フィーのこともね」


着替えを終えたカズが入ってきた。仕事で疲れているのか大欠伸をしながら。


「明日は仕事の手伝いと、一応村の方にも挨拶に行くからな」

「村?」


なつきが首を傾げると、フィーが優しく説明してくれる。


「少し行ったところに小さいけど村があるんだよ。私たちは元々そこに住んでたんだ」

「そうなんだ」

「でも、お兄ちゃんがいい土で野菜を育てたいーとかわがまま言うから、ちょーっと離れたここで今は暮らしてるんだよね」


フィーが揶揄うような目でカズを見る。


「当たり前だろ、野菜を育てるんならそれくらいのことは考えて当然だ」

「はいはい」


このやり取りだけでもこの兄妹の仲がいいのが伝わってくる。


「ここに住む以上は、関わることも多いだろうから、なつきも挨拶しておいた方がいい」

「わかりました。緊張するな……」

「大丈夫、みんないい人だよ!」


フィーの言葉に、なつきは少しだけ緊張が解けた。


「じゃ、明日は早いから寝よっか」

「うん、それじゃあ失礼して」


フィーが先にベッドに入り、その後になつきが入る。ベッドには思ったよりはスペースがあった。


「意外と大丈夫だね」

「うん、ふかふかで気持ちいい」


さっきも寝ていたはずだが、安心したからかベッドの柔らかさを今感じていた。


「そんじゃ、二人ともおやすみ」

「おやすみなさい」

「おやすみ」


カズがランプの灯りを消すと、部屋の中は暗闇に包まれた。


(いい人達に会えてよかった……)


そう思いながらなつきはゆっくりと眠りにつくのだった。



ーーーーー


翌朝、なつきは小鳥の囀りとともに目を覚ます。

朝起きたら元の世界に戻っている、なんて都合のいいことはなかった。

大きな欠伸をしていると、扉が開いてカズがなつきに声をかけた。


「なつき、朝ごはん食べたら畑の手伝い頼む」

「あっ、はい」


なつきは急いで起き上がり、テーブルに用意されたパンと野菜のサラダを食べる。少しだけ固めのパンと新鮮な野菜は起きたばかりでも食べやすく、なつきは一気に食べ終え、着替えて急いで外に出る。

昨日は気づかなかったが、森の中に立っている家は

木で作ってあるが見た目にも頑丈そう。少し歩いた先には大きな畑があり、フィーがそこにいた。


「遅くなってごめんな。何したらいい?」

「あ、なつきおはよう。えっとね、水やりを手伝ってほしい」


フィーはすでに汗をかきながら畑を耕している。居候の身なのに、出遅れてしまっていることが大人として恥ずかしかった。


「わかった。これだね」


ホースを握り、水道を捻る。水が勢いよく吹き出すのを指先で調整しながら水を撒いた。

この世界のことはあまりわかっていないが、部屋の中に電気やコンロのようなものはなく、灯りはランプの火、コンロも薪でつけていた。水道は普通にあるようで、顔を洗ったりも普通にできた。


「どういう世界なんだろうな……文明も言語が通じてるのもよくわからない」


なつきは水を撒きながら独り言のように呟いた。本当に異世界に転生してしまったのかと自然と顔は暗くなる。


「昨日はよく眠れた?」

「うん、ベッドもふかふかで気持ちよかった」

「そっか、ならよかった」


フィーが軽く汗を拭いながら笑顔を見せる。なつきは改めてこの人たちに会えたことを神に感謝した。


「あれ、カズは?」

「お兄ちゃんは薪を割ってるよ」


そういえば、スコンスコンと気持ちのいい音が聞こえている。


「力仕事はお兄ちゃんの仕事だから」

「そうなんだ」

「ねぇねぇ、それよりさ」


フィーが手に持っていた鍬を置いて、なつきの元に走って近づいてくる。


「昨日のあれ、もう一回見せて」

「昨日のって、もしかして」

「そ、ゴブリン達を一網打尽にしたあれだよ!」


なつきの苦笑いに、フィーが当然とばかりににっと笑う。


「でも、できるかどうか」

「うーん、なら尚更今やってみたら? いざという時に使えなかった困るでしょ?」

「まぁ確かに……」


フィーは人差し指を立てて提案する。フィーのいうことはごもっともだとなつきは思った。魔物のいるこの世界で、非力な自分が生き抜くための手段はおそらくキョウカの能力を借りるあの方法しかない。


「でしょでしょ? やってみて」

「……うん、わかった。試してみる」


なつきはホースを置いて、ふうっと息を吐く。頭の中でキョウカのことをイメージして役を体に落とす。


(大丈夫、できる)


「私は流麗の騎士キョウカ! 絶対に守ってみせる。この剣に誓って」


少しだけ声色を変えた凛々しい声。すると、光に包まれてキョウカの姿へと変わった。そればかりか、体も軽く、力も湧いてくる。


「やっぱり、キョウカを演じるとキョウカになれるんだ」


両手を見つめ、自分の力が確信へと変わった。


「すごい……。すごいすごい、本当になつきなの?」


フィーはさっきまでのなつきと雰囲気どころか見た目までガラリと変わった様子に、驚きと興奮が入り混じり、声が昂っている。


「もちろん、私だ」

「なんか、声も喋り方も変わってるし」

「ああ、それは」


いつものなつきに声と喋り方を戻ると、姿もなつきの姿に戻った。


「わっ、戻った 」

「キャラを演じていると、力を使えるみたいなんだ」

「キャラを……演じる?」


フィーがわかりやすく首を傾げると、なつきは笑いながら説明した。


「私、元の世界では声優っていう仕事をしてて」

「せいゆう?」

「アニメに声を吹き込んだりする仕事。色んなキャラクターの声を担当していたんだよ。あとはナレーションとかもやったり」

「あにめ……? なれーしょん?」


フィーはわからない単語がどんどんと出てくるので目をぐるぐると頭はショート寸前だった。フィーの様子からこの世界には声優という仕事はなさそうだとなつきは思った。


「よくわからないけど、せいゆうってすごいんだね!あー私もやってみたいなせいゆう」

(あー、絶対わかってない)


なつきの気持ちなどお構いなしに、さっきの姿が変わったことへの興奮でフィーはまだまだ大はしゃぎ。


「はぁー、私もなれるかな、せいゆう」

「ど、どうだろうね、あはは」

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