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4.居候

シチューを食べながらフィーはさっきの話の続きを前のめりに聞く。


「ね、なつきさんはあんなところで何してたの?」

「えっと……」


勢いよく口にシチューを運んでいた手が止まる。なつきの顔に暗い影が落ちた。


「わからないんです。気づいたらあそこに倒れてて」

「なんだそれ?」


カズは眉を潜めながらシチューを食べている。なつきの答えの意味がイマイチわからないようだ。


「私は多分、違う世界に住んでいて、こっちの世界に迷い込んだんだと思う。ここがどこなのかも、私がいた世界に帰れるのかも」

「……ってことは、なつきさんは違う世界からきたの?何それ、すごい。ねぇねぇ、なつきさんが住んでたところはどんなところなの?」


なつきの気持ちをよそに、フィーはキラキラした顔で立ち上がり、興味津々で矢継ぎ早に質問を飛ばす。


「こら、フィー。少しは空気を読め」

「あぁ、そっか。ごめんなさい」


フィーは気まずそうに椅子に座った。


「そんな訳のわからない話、信じられるわけないだろ」

「そうですよね……」


なつきは俯いてぽつりとつぶやいた。自分でも、逆の立場なら馬鹿げている話だと信じないかもしれない。カズの反応は至極真っ当だと感じた。


「それじゃあさっきのあの変な力はなんなんだ?」

「そうそう、急にゴブリンたちをバッタバッタと薙ぎ倒したやつ。魔法か何か?」


フィーが大袈裟な身振り手振りで、剣を振る真似をしてみせる。


「それも……あんまりわかんなくて。必死で声をやったらあんな風に」


さっきのゴブリンとの戦い、自分を奮い立たせるために演じたキョウカの台詞。そのおかげか、キョウカの力を一時的に使うことが出来た。また同じように次もできるかは正直なつきには確証がなかったのだ。


「なーんもわかんないんだな、お前」


テーブルに肘をつきながら呆れたようにカズは言う。


「ごめんなさい」

「もう、お兄ちゃん。なつきさんが困ってるでしょ?」


フィーが頬を膨らませて怒るので、カズは皿を片付けながら立ち上がった。

なつきは正体不明の謎の客が、迷惑をかけてしまっていると感じ、居た堪れなくなった。


「ご馳走になってしまって。私はそろそろ、失礼します」

「えー、帰っちゃうの?なんで」

「いや、だって……」


下を向いているなつきを見て、カズはため息をつく。


「行く宛てはあるのか?」

「それは……」


場所もわからない世界で、行く宛てなどあるはずもない。


「なら、別に行く宛てが見つかるまで家にいていいぞ」

「えっ……本当ですか」

「当たり前だ。こんな夜に行く宛ない人間を追い出すほど、非情じゃねぇよ」


カズがふざけた笑いを浮かべながら、そう言う。なつきは自然と涙が込み上げてきた。


「ありがとうございます!!」


立ち上がると大袈裟な一礼をする。


「大袈裟だな、全く」

「ほんとだよ、なつきさん。こんな狭くてボロいところでいいんだったら何日でもいていいよ!」


フィーが手を握り、嬉しそうになつきの腕を上下に振る。


「あ、ありがとう。フィーさん」

「フィーでいいよ。私もなつきって呼んでいい?」

「うん。よろしくね、フィー」


なつきは嬉しそうに微笑む。異世界で、初めてできた友達だ。


「まぁ、明日からは多少は仕事を手伝ってくれよな?」

「はい、もちろんです。私にできることならなんでもやります」


そういうとなつきはすぐに流しに立ち、食器をバシャバシャと洗い始めた。


「これは、全部私がやりますから」

「あはは……ありがとう」


カズはなつきに圧倒されて苦笑いした。


「なつき、私も手伝うよ」

「ありがとうフィー」


(ま、フィーが懐いてるし。フィーも多少なり歳の近い女の子と話す方がいいだろう。万が一、変な真似でもしたら)


楽しく食器を洗う二人の様子を、カズは少しの思惑を持ちながら、冷静に見ているのだった。

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