10.ゴブリンの集団
翌日、3人は朝食をしっかりと食べ、昼前にゴブリンたちが棲みついているという洞窟へと向かっていた。なつきの表情も動きも固く、緊張感を漂わせている。
「ゴブリンたちの対策は、ある程度大丈夫なはず。2回ともちゃんと勝てたし、数の多さにだけ気をつければ、キョウカなら負けない」
なつきはそう言い聞かせる。異世界に来て2日、いきなりゴブリン討伐なんて本当に自分が今まで見てきたアニメのような展開。少しも怖さを感じないはずはない。
もちろん、それはなつきに限った話ではない。
「うん、大丈夫。私たちならやれる……。矢もいっぱい持ってきたし……大丈夫、絶対」
フィーはさっきから自分に暗示をかけるように、繰り返している。フィーはこの辺りでは1番の弓使いとはいえ、身を守るためにしか戦ったことはない。勢いで決めたので、現実が近づき緊張を感じ始めていた。
「全く……お前たちが行くって言い出したくせになんでガチガチにビビってんだよ」
カズがガチガチの二人を後ろから、呆れたように揶揄う。
「びびってなんかないよ。なんていうか……そう、予行演習的な感じ。頭の中でシミュレーションしてたの」
「へぇー」
フィーがむくれ顔で精一杯言い返すも、兄には全てお見通しなのだった。
「なつきの方はどうなんだ? むしろお前が提案者なんだから」
「大丈夫。しっかり戦ってみせるから」
「ふーん頼もしいねぇ」
振り返ったなつきの表情は決意に満ち満ちていた。
「……よーし、私だって負けないよ! 後ろからバンバン射抜いてやるからね」
「頼りにしてるからね、フィー」
弓を引く真似をしながらにっと笑うフィーは、この上ないほど頼りがいがあってなつきには心強かった。
3人は上流に着くまで、なるべく消耗を避けるために慎重に隠れながら進んでいた。フィーの矢も、なつきの能力も連続でどれくらい使えるか分からない。
運良くゴブリン達に途中で出くわすことなく上流にたどり着くことができた。
「見えてきたぞ」
川の上流には、おばちゃんが言った通りゴブリン達が住処にしているのが少し離れた場所からも分かった。
川に飛び込んでは魚を捕まえたり、妙な奇声をあげながら石を投げ込んだりして環境を乱雑に荒らしている。魚が獲りづらくなっている原因であることに間違いはない。
「あいつら、好き勝手やってるね」
「うん、お魚たちが可哀想だよ。村のみんなだって
フィーは楽しげに宴会しているようなゴブリンを睨みつける。村人のことを考えると、傍若無人に騒いでいるゴブリンたちの様子に怒りが沸々と湧き上がる。
「そんじゃ、作戦通りに」
「先陣は任せたよ、なつき」
二人が信頼の眼差しでなつきを見つめる。なつきはふうっと大きく息を吐き、立ち上がった。
「村のみんなを絶対に救ってみせる。だから、キョウカ……力を貸して」
ゆっくりと棲み家に近づいてくるなつきに自然とゴブリン達の視線が集まり始める。不思議そうな表情を浮かべるもの、獲物がやってきたと喜ぶもの。大半は後者でニヤニヤと棍棒や鉈のような武器を手に持って臨戦態勢に入っていた。
「民を困らせる悪しきものたちよ」
声色がいつものなつきとは違う、芯の強い声で小さく呟く。すると、なつきの姿がキョウカへと姿を変えた。腰に携えられている鞘からレイピアを抜き、ゴブリン達へとそのキラリと光る剣身を真っ直ぐに向け叫んだ。
「この剣で、打ち払ってみせる。騎士の誇りにかけて」
その声は気迫こもっていて、ゴブリン達は少したじろいだ。
なつきは体勢を低くして一気に速度を上げてゴブリンたちの群れの中へと飛び込んでいくのだった。




