0.第一話!
午前7:00
朝の光が、差し込む部屋。
戸崎なつきはご飯と納豆、THE和食な朝食を食べながら、自分が出演しているアニメの評判。
「うん、結構いい感じだ。昨日の話はほんと激アツだったしね」
そう言いながらしっかりと公式SNSの投稿を拡散する。出ている作品を応援し宣伝するのは主演である自分の務めでもある。
食事を終えると、テレビをつけながらメイクをする。肩まである茶色い髪にアイロンをあてて、ぱっちりと大きな瞳で確認した。
「さて、今日も行きますか!」
あちらこちらにマーカーや付箋が書かれた台本と飲み物にメイクポーチ、その他もろもろ必要なものが詰まったカバンを肩に掛け、仕事へと向かう。
戸崎なつきは、今をときめく超人気声優。ラノベ原作や少年漫画原作の人気作品で、いくつものヒロインや人気キャラを演じている。特に、芯のあるヒロイン役を演じさせたら右に出るものはいない。
さらに、歌手としての活動も全国ツアーを成功させたばかり。
毎日アフレコ、ナレーション、イベント、レコーディングと忙しい日々を送っていた。
ーーーーー
一日忙しく過ごしていた、なつきの今日最後の現場は、アニメ『リアル・ソード』の3期決定の特別配信。ナツキが演じているのは主人公と共にサーベルで戦う、女剣士のキョウカ。ナツキの出世作であり代表作だ。
「お疲れ様でしたー」
配信を終えて、共演者、スタッフに丁寧に挨拶をして現場を後にする。高校3年の頃から、7年間しっかりと礼儀を忘れたことはない。
「ふぁぁぁ、今日も疲れたな」
大きなあくびをしながら、夜の街灯がついた道を今日はタクシーに乗って帰る。
「駅までお願いします」
「駅、どちらの?」
「最寄りのところで大丈夫です」
運転手は首を軽く傾げた。なつきは特に気にすることなくカバンからスマホを取り出して、何を見るわけでもなくSNSを見る。
(今日も疲れたな。でも、キョウカの役久しぶりにやれるのは楽しみだな)
スマホから目を上げて、夜の街を見ながら思わず口に笑みを浮かべる。2期が終了したのが2年前。2年ぶりに大切な役を演じられると決まってからは、ナツキは気合いが入りに入っていた。
(ふふ、特に3期のとこはキョウカの過去が明らかになってきて、めっちゃ盛り上がるところだもんね)
ナツキは原作の小説の頃から読んでいた大好きな作品。駆け出しだった自分がまさかヒロインを演じられることになった時の夢のような喜びは、今でも覚えている。
(原作ももう一回読み返そう。でも、その前にあっちの作品と振り入れと……)
ナツキは並行して出演している作品、曲の振り入れのことを考えているうちにだんだんと眠気に襲われ始めていた。
ー続いてのニュースです。先月突然失踪した声優の……
なつきは、ラジオから流れるニュースなど、もう耳に入らないほどに意識が夢の中に引き込まれそうになっていた。
ぴーーーーーーーっ
突然、耳をつんざくような大きなクラクションの音がなつきの意識を現実に引き戻す。
「な、何?」
なつきは慌てて窓の外の景色を確認する。見慣れている街の景色そのものにノイズがかかっている。
「えっ、は? 運転手さんこれって!」
「………」
運転手はなつきの呼びかけに何も答えない。そのまま速度をあげて進んでいく。助けを呼ぼうとスマホを見ると、画面はノイズだらけで圏外と表示すらされていない。
「何誘拐とか? ううんこれは夢だ。きっと夢に決まってるだって」
なつきはパニックになりドアを叩いたり、運転手をゆすったりする。だが、ドアは開かず、運転手はなんの反応もしない。
「なんでなんで……ってか、何あれ!?」
目の前には眩しいほどの、光を放つ渦にタクシーは止まらずに向かっている。
「お願い、止まってください。お願いです!!!」
その叫びは、虚しく響くだけだった。タクシーは渦の中へと飛び込む。ガタガタと揺れる車内、目も開けられないほどの光。
「きゃーーーーーっ」




