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ギャンブル好き父さんと当たり前父さん

作者: 稀Jr.

とあるところに、ギャンブル好きな父さんと当たり前好きな父さんがいました。

ギャンブル父さんは、世間の噂が嫌いです。自分の信じたところを突き進むために、世間の低評価なところだけを好んで選びます。

たとえば、おいしいと評判なラーメン屋さんがあると、ギャンブル好きの父さんは絶対に行きません。

世間の評価は当てにならないからです。

あえてギャンブル好きな父さんは、世間の評価の低いラーメン屋さんに行きます。

毎日、Google マップを眺めては、星ひとつのラーメン屋を探します。

当然、評判の「日本一まずいラーメン屋」にも行きました。

ラーメンの汁はまるで水のようで、麺は伸びきっています。汁の上には薄皮のようなチャーシューのようなものが乗っていて、さらに薄いメンマが乗っています。どうやったらこんなに薄くなるんだろうか、と評判です。もちろん、悪評判です。その上に、ひとつぶだけのトウモロコシの粒が乗っています。トウモロコシの上には、ひとつまみの胡椒が乗っているだけの、じつに、不思議なラーメンです。

ギャンブル好きな父さんは、ラーメンを食べるなり叫びました。

「不味い、実に不味い。当たり前のように不味いぞ」

店長は苦笑していましたが、評判として上々でした。まずいラーメン屋と書いてあって、実際に不味いのですから、看板に偽りはありません。


ギャンブル好きな父さんは、不味いラーメンばかりを食べていたわけではありません。たまに、世間の評価は低いけれども、お、うまいぞ、というラーメンにあたることもあります。

世間の評価が低いのはそれなりに理由があります。

「あそこは、チェーン店のラーメンだから、まあ、うまくもないけど、まずくもないよね」

「あっちのラーメン屋は、スープは昔のレシピになっているけど、麺がいまいちだよね」

「そこのラーメン屋は麺づくりには精を出しているけど、もっと、スープに力をいれたらいいよ」

という具合です。

ギャンブル好きな父さんは、世間の評価が低いところは、低いところだからこそ、何かありそうだと勇んで行くのです。

「チェーン店のラーメンだから、まずいラーメン屋よりも随分うまいぞ、これは喰える」

「スープの味がまずまず、ああ、これで麺がうまければいいけど、なかなか上出来だ。及第点はあげられるな」

「麺はうまい。これは上等だ。おっと、スープはいまいちだが、麺がいいんだから、これは麺をお代わりすればいいんだよ。おやじ、替え玉を頂戴」

と、まあ、そんな感じです。

実にポジティブな父さんですね。うらやましいです。


一方で、当たり前好きな父さんは世間の評判を気にしているので、高評価のところしか行きません。最低でも☆が 4.2 のところを狙っていきます。☆が 4 じゃないところがみそです。読者の評価では、☆ が 4 つまではいけるのですが、それ以上となると、店から上納金が発生します。上納金がどこにおさまるのかわかりませんが、まあ、そういうことです。なので、読者の投稿から☆4まではいけるのですが、☆4.2 以上は、大人の都合が入ってきます。

なので、☆4.2 を目指して、当たり前好きな父さんは、世間の評判の高いところに行きます。

☆4.2 のラーメン屋さんは、内装がきれいだったりします。

たまに、頑固おやじ風な店主もいるけど、あるおじさんに対しては不思議とニコニコしています。

たまに、金粉を巻いたりしています。

たまに、政治家がやってきて、ラーメンを食べたりします。

他にも、火を噴いてみたり、ひやっしーラーメンであったり、ムーンショットラーメンであったりします。実にさまざまです。

けれども、世間の評価は☆4.2 ですから実に素晴らしいものです。☆4ではないところがいいですね。当たり前父さんは思いました。


あるとき、当たり前父さんが、ラーメン屋の暖簾をくぐりました。

ラーメン屋の店主は、向こうでラーメンを茹でているし、愛想がよくありません。

しかし、いい匂いがしてきます。

テーブルの上は少し油がついているような風ですが、カウンターは綺麗に拭かれています。

壁にかかっている札もなにか趣きのあるような、焼き鏝で作ったようなものでした。

「お勧めのラーメンをひとつ」、と当たり前父さんは注文しました。

「はい、かしこまりました」

店主は、丁寧にあいさつをして、ラーメンを作り始めました。

鍋は十分に煮立っており、ラーメンを入れても温度が下がらない作りになっています。

よく見れば、カウンターの向こうにカウボーイハットの客が座っていました。もうひとりは、ちょっと覚えていませんが、トラックの運転手のようでした。そう、5人ほどいたかもしれません。

店主は、熱心にラーメンを茹でて、熱々となったスープをどんぶりに注ぎます。どんぶりは当たり前のようにお湯で温められています。

ざっと、麺のお湯を切り、どんぶりにするっと乗せます。わずかですが、一平ちゃんの油のようなものを乗せたのかもしれません。綺麗な油の輪が麺を彩っています。チャーシューが2枚、メンマが4本程度、ネギを少し載せて、さっと胡椒が降り掛かっています。もちろん、テーブルの上にも胡椒の缶は置いてあるのですが、店主のふりかけ方実に絶妙です。黒コショウが汁の上に浮かんでいます。

「お待たせしました」

店主は、丁寧にラーメンを差し出しました。


ずずずずず、向こうにいたカウボーイハットの客たちが、ラーメンをすすります。そして、丁寧にチャーシューを食べて、グイッとどんぶりを傾けてスープを飲んでいます。

実に満足そうです。


当たり前父さんも、ずずずずず、とラーメンをすすります。

「ああ、うまい。でも、まあまあ、当たり前の味だなあ」


【完】


参考 ![ハズレのない世界に「当たり」はない。「当たり前」しかない。](https://comemo.nikkei.com/n/na30bd4e068f1)


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