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第七話 始まる合図 

わたしは、少し変わっているのかもしれない。

だって、あの雲雀先輩と一緒にいるし、幻術師の骸六さんとも仲良しだし、さらに昨日。


変な女の子に、脅迫されました。


「おはよーございます…」

死にそうな顔して学校に到着。辺りを見ると、春日さんは仲の良い子達とぺらぺら喋りながら登校している。

なんでわたしがこんなめにあわなきゃいけないの。そもそも、なんでわたしはディアモになったんだっけ。

大体、わたしあの子と面識あったか?

無かったよな、あれ。


う〜ん、と考え込んでいると、遠くから叫び声が聞こえた。

「そこの君!危ない!!!」


―ガツン!

「ぅおっ!」

また、頭なのか。


頭にグランドで野外朝練していたバレー部、渾身の一撃が、見事にヒットした。

あー、もう。これ以上こぶの数を増やすな、おい!

「すんません!すんません!」

「いや…大丈夫ですんで…」

「ほんっと、すんません!俺、悪気は無かったんです!あったら顔面ぶつけてます!!」

「いや、本当に大丈夫だから。朝練戻ったほうがいいんじゃない?」

うずくまっていた顔を上げる。そこには、なんていうか、イケメン?


か、かっこいいんですけどー!この人マジかっこいいんですけどー!!

「悪かったな宇都宮…」

「あー大丈夫大丈夫!わたしそこら辺の人より体頑丈だから。」

「そ、そうなのか?」

うん、それには自信あるよ。

なんたって、マフィアだし。一応。

「あの、失礼だけど名前は?」

「あぁ、居町司だよ。」

「うん。じゃぁ居町くん、ばいばい。」

笑顔で手を振る。

去っていく居町くんの姿を凝視して、それから教室に行った。


そして物思いに更けながら受けた授業も終了し、昼休み。

「あ、宇都宮。」

「居町くん、どーしたの。そのボロボロな制服…」

なぜだろう。彼の制服は、ボロボロだし、泥だらけ…

「あぁ、これ?趣味の悪い悪戯だよ。」

そう言ってにこりと笑う彼は、悲しそうだった。

「俺、惨めだよな…。お前も、あんまり俺に近づかないほうがいいと思う。」

下を向く居町くん。わたしは、その彼に向かって微笑んだ。

「言ったでしょ?わたし、うたれ強いの。」

「え…」

「それに、そのまま終わるのを待ってても、今苦しいだけだよ。思った、とりあえずやってみよう!」

「えっ?」

彼の手を掴んで、隣の教室に入った。


教室に入ると、一瞬集まる視線。

でも、それはすぐに別のところに向けられた。

「…っ」

居町くんが、下を向いた。下唇なんか咬んで、苦しそうに。

「ここで言わなきゃ、後悔するよ。」

わたしはそれだけボソッとつぶやいて、教室から出た。



数秒後、廊下にも響くぐらいの「ふざけんな!」という彼の怒鳴り声が聞こえた。


(派手にやってるじゃない…)

それをベランダから見ていたわたしは、ニコニコしながら目を瞑った。

すると


―ガシャーン!!

と、窓ガラスが砕け散る音がした!

わたしはすぐに目を開けて、隣の教室を見る。そこには、頭から血を流している居町くんの姿が。


―プチ…ン


「おい…」

わたしの声に、彼に怪我を負わせた張本人がびくりとした。

「お、俺じゃねぇ!」

「わたし、言い訳は聞かない主義なの。」

居町くんの肩をわたしの肩に組ませて、立ち上がる。

傷は、思っていたよりも浅かった。

「どいて。」

立ち尽くす、男。少し、震えている。


「どけってんだ!聞こえねぇのか!!」

わたしの声に正気を取り戻したのか、彼の目には少し涙が浮かんでいる。

「あ…俺…」

何か言いたそうな彼の横を素通りして、わたしは居町くんを保健室まで運んだ。


治療が終わり、包帯を頭にぐるぐる巻いた居町くんが言った。

「っつ…かっこわり…」

「黙って、わたしがいけないの。あんの男、シメる。」

拳を強く握って、目にはなぜか、涙。

「違う、俺がいけないんだ。だから、宇都宮があいつを怒る必要はねぇよ。」

「でもっ、わたしが進めなかったら、こんな怪我しなかった!」

「いいから。」

ふわっと、頭に手がのった。

「お前は、優しすぎるんだよ。」

笑っている居町くん。

でも、頭の包帯を見ると、わたしは顔を曇らせた。

「…どっちがだよ。」

また下を向いて、ボロボロなうえに血で染まったシャツが小さく震える。


「ねぇ、君たち…なに群れてるの。」


この台詞、雲雀先輩か!

「先輩っこれはあの…」

「校内での喧嘩は、禁止なはずだよ。」

え?


「あの男、斬り殺す…」

「ちょ、先輩ストップ!殺しちゃだめですよ!」

「校内の風紀を乱したしね…。それなりの対処は覚悟してるさ…。」

こ、この人一番鬼だー!!


「雲雀さん、できれば俺からあいつに一言、言ってやりたいんすけど。」

「君…だれ。」

そうか、顔も知らんか。

「居町くんです。」

「ふぅん。でも、君はそうやって怪我もさせられるしね…」

先輩、やる気満々じゃないすか!

これ、どうしましょう!!

「でも、あの喧嘩の半分の責任は俺にあるし…」

「へぇ…。」

先輩は腰の辺りに手を伸ばした。

トンファーだ。本能的にそれを感じたわたしは、とっさに居町くんの前に出た。

「よく気づいたね…」

「まぁ、一応…」

手をもとの位置に戻した先輩を確認して、わたしは気をゆるめた。

「責任は、いずれとってもらうからね…」

スッとわたしたちの横を通り過ぎていく先輩。


「優しい…」

「えぇ!あれで!?」

隣で異常なまでに反応する居町くん。

「うん。前、わたし本気で殺されかけたことあったからね…」

「マジで言ってんの…?」

「うん。」


そうだよなぁ。確かに先輩、前より性格はよくなってると思う!

うん、気のせいかも。

でも、まぁ…短気はちょびっとだけ治ったかな。


「ほら、教室行こう。」

「あぁ。」

居町くんが、わたしの頭を掴んでくしゃくしゃとした。

「今朝は、悪かった。」

「もー、本当だよねー。」

なぁんて言いながら、わたしは上機嫌で教室へ行った。


そして、放課後

「なぁ、春日。」

「なーに?」

風の吹き荒れる屋上に、女と男の陰が一つずつ。

「本気で、やるのか?」

「もちろんよ。」

男は、フェンスに寄りかかり、女はその側で薄気味悪い笑顔を浮かべている。


「マフィアなんて、いなくなればいいのよ。」

「…。」


風が吹き付ける。小さい針のように、落ち葉が一枚、男の顔をかすめた。


「ねぇ、司…」



「……あぁ。」




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