第四十一話 相棒は鋼ハリネズミ 〜ダートファミリー編〜
「な、なななんでハリネズミィー!?」
籠から飛び出したハリネズミは、わたしを見るな否や、わたしの顔面に向かって飛びついてきた。
「ちょっ針!針!いたいいいっ!」
ぐりぐりと顔を擦り付けられ、わたしは思わず顔を引きつらせた。
「離れなさい!」
背中を掴むわけにもいかないので、ハリネズミの胴体部分を抱く。
「キュゥ?」
「いてて…」
不思議そうな顔されても、困る。
「えーと、とりあえず…これは、一体なに…?」
籠の中に、カードが入っていた。
そのカードを取り出して、内容を読む。
「鋼ハリネズミ…針を鋼化させることができ、その鋼は岩をも貫き…はぁ!?一匹で50人もの戦力を持つぅ!?」
「キュゥ!」
自分のことを言われているのが理解できたらしく、嬉しそうに跳ねるハリネズミちゃん。
「あなた、怖いね…」
苦笑いでハリネズミを見る。
こ、こんなちっこくて可愛いのに、なんつー能力…
「じゃーとりあえず、名前は……イオ、イオにしよ。」
ちなみに理由は、イタリア語で鋼をアッチャイオというからです☆
「キュ!」
嬉しそうに走るイオ。気に入ってくれたか、助かった。
「にしても…どうして先輩はこんな動物ばっかり飼ってるんだろ。」
「キュゥ?」
ていうか、どうしてこんな動物が未来にはいるんだ。
遺伝子の組み替えか?いや、動物の一部を鋼化させるなんて一体何を組み合わせたらそうなるの?
「イオ…あんたどーやって生まれたの?」
「キュ?」
いやいや。
馬鹿かわたしは。
なんでイオに聞いてんだ?
「先輩が言った準備ってこのことか…」
わたしは、チェックメイトガンを握り締め立ち上がった。
「よしっ………」
わたしの使えるバージョンは、聖火弾、神風弾、絆弾、チェックメイトアロー、そして呪霊弾…。
できれば呪霊弾は使いたくない。
でもイオが加われば、心強い!
「待ってろジューダ。わたしが倒してみせる!」
部屋を飛び出した。わたしの後ろにはイオがテケテケとついてきている。
―――――………………
「んー、そろそろかなぁ。」
戦場から帰ってきたジューダは、まっすぐに研究所に向かった。
「ふふふ…」
不気味な笑みが、誰もいない研究所に響く。
すると!
――ピキッ
何かがひび割れる音がする。
「きたっ」
嬉しそうな声をだすジューダ。
――ピキリッ
もぞもぞと何かが動き出す。
――ピキリッ、パリッ
何かの割れる音、そして、何かが動き出す音。
――――パリーンッ!
「……時は…来た。」
卵から孵ったなにかを見上げながら、ジューダはつぶやく。
「……ふふ、春ちゃんのペットと俺のペット、どっちが強いかな……」
卵から孵ったなにかは、ただ目の前にいる主に向かい、白い息を吐く。
「君の名前は、珀。俺に従え。君は、俺の物だよ。」
すると、珀と呼ばれた何かは、頭を深々と下げる。
「ふふふ……早く見せてあげたいよ、春ちゃん。」
――――――…………
「ただいま、桔梗。」
基地に戻ると、桔梗はわたしの姿を見た瞬間に飛びかかってきそうだった。
「なにがただいまですか!こっちがどれだけ心配したと思ってるんですか!?」
いきなり怒られるなんて、思ってもなかった。
「ご、ごめん。でも、一人じゃなかったし。」
「はい?」
ビクッと、イオがわたしの後ろで震えた。
「雲雀先輩が、くれたんです。鋼ハリネズミ。」
「なっ…それは、未来のあなたも飼っていましたから知ってます。」
懐かしそうに言う桔梗。
「キュ…キュ…」
だが、イオが落ち着かずに鳴いている。
「キュァァア!」
「え!?」
イオが雄叫びをあげた瞬間、針が鋼化していくのが裸眼でわかる。
「なんでぇえぇ!?」
「キュゥァアァア!」
パニック状態になったのか、叫びながら鋼となった体を丸めて暴走するイオ。
「イオ!」
わたしの呼びかけにも答えず、イオは暴走を続ける。
「ど、どうなってんの!?」
「ボス!危ない!!」
桔梗が、わたしの頭を抱え込みながら床に倒れ込んだ。
「イオ!」
桔梗の腕の間から、イオを見る。
その瞳には、恐怖という感情が浮かび上がっていた。
「―!!」
桔梗の腕をすり抜けて、部屋を飛び出すわたし。
窓を開けて、チェックメイトガンを撃つ。
「誰だ!!!」
「ふふふっ…」
聞こえてくる、誰かの声。
「やぁ、元気だったかい。春ちゃん…」
地獄の使者か、悪魔か、それとも、
「なに……それ…」
言葉を失った。
だって、ジューダの側にいたのは
馬鹿でかい、竜……?
「嘘……」
「あぁ?これ、珀っていうんだ。俺のペット。」
ペットって、これ、マジで…!?
「あれ?君にもいたよね、心強いペット。」
「―!?」
わたしは、思わず基地の方を見た。
「どうしたのかな?飼い主のピンチだっていうのに、びびって出てこれないとか?」
「違う!」
そう言ったものの、イオはまだパニック状態だ。
とても闘える状態じゃない。
「あんたなんて、わたし一人で充分よ。」
「へぇ……言うじゃん、随分と。」
「本当の、ことよ。」
しょうがない。
ここは、何とかするしか…
「言っておくけど、これはお遊びじゃないからね。」
その瞬間、わたしは頭にとんでもない激痛を感じた。
「――っぅあ!!」
頭を抑えて、その場にうずくまるわたし。
「珀の、珀電波。脳に直撃響いてるから、しばらくは動けない。」
ジューダの笑顔が、とても怖かった。
殺される。
本当に、心からそう思った。
「ひ……」
「嫌だっていっても、無駄だからね。」
怖くて、叫べたかはわからない。
でも、わたしはなぜか、彼の名前を呼んでいた。
「雲雀先輩っ!!!!」
「無駄だよ!」
楽しそうなジューダの声。
その声を合図かのように、わたしは、叫んだ。
「ぅわぁあああ!!」
わたしが完全に壊れる寸前、何かがわたしの前に現れた。
「キュゥ!!!!」
それが、わたしの最後に聞いた鳴き声だった。