第三十八話 始まる闘い 〜ダートファミリー編〜
『やぁやぁディアモファミリーの皆さん。ダートファミリーのジューダだよ。』
―!?
それは、唐突に起こった。
『今から24時間後、ダートファミリーはディアモに一斉攻撃を始めようとしてるんだけど、いいよね?』
「……は?」
言葉を、失った。
「いいわけないでしょうが!あんたダートのボスなんでしょ?なに勝手にふざけたこと言ってんのよ!!」
『やぁ!君が宇都宮春さん?はじめまして。』
呑気に挨拶かましてる場合じゃねぇだろうが!!
「どうして一斉攻撃なんてっ、急にっ…!」
『あれー?スパイを送ってたのは誰だったかな?』
「スパイ?」
『もしかして、自覚ないのかな。ザクロのこと気づいてない?』
「…なんのこと。」
通信機の前で固まるわたし。まさか、ザクロの奴、何かあったの…
「ザクロに…何かしたの…」
『ん?ちょっと遊んであげただけだよ。』
通信機から聞こえるジューダのボスの声。とても不気味だった。
『大丈夫。死んでやしないよ……今はね。』
「今はねって…やっぱりあんたザクロになにかっ…」
『ふふふ♪さぁ…気になるなら悪霊の森へ行ってごらん。多分会えるよ。』
楽しそうに笑う、ジューダ。
『ふー、返事もいただけないならこの通信は切るね。じゃぁ今から24時間後、待っててね。』
「あっ、ちょ、まっ…!!」
―ブチ!
静まり返る、通信室。
どうしよう。
ザクロに何かあったんだ…それに、ダートの攻撃って…
「ボス、一体何があったんですか。」
桔梗が怪訝な顔をしてこちらを見ている。
「聞いてた通り。ダートファミリーが24時間後に来る。急いで準備して!桔梗はわたしと一緒に来て。」
通信室を飛び出し、基地のゲートへ向かって急ぐ。
その途中、桔梗が話しかけてきた。
「ザクロが、どうかしたのですか?」
「前に闘った時、ザクロはジューダに従う気は無いって言ってた。だからわたしは、その気持ちを伝えろと言った…もしかしたらそのせいで、ザクロがっ…」
ぐっと拳を握り、ゲートをくぐる。
「悪霊の森へ、行くんですね。」
「うん。」
ホルダーの中で、チェックメイトガンが熱くなっている。
わたしのこの気持ちに共鳴してるのかもしれない。
「ザクロは、死なせない!」
わたしは、悪霊の森へ急いだ。
「では、最終手段を使いましょう。」
桔梗がニヤリと笑い、懐から小型の円盤を取り出した。
「バージョン9,0 舞雲」
――――――
「ここが、悪霊の森…」
円盤から降り、わたしは辺りを見渡した。
「なんというか、不気味ね…」
ザクロを早く捜さなくちゃ。こんなところにいたんじゃ、2、3日と保たない。
「桔梗は空から捜して。わたしは少し歩く。」
「何を馬鹿なこと言ってるんですか。この森は、死者の森とも言われています。そんなところにあなた一人を置いていけるはずないでしょう。」
「そ、そうなんですか……」
怖いかも、つかザクロこんなところに一人でいるなんて…
「早く捜そう!」
わたしとザクロは、走り出した。
―それから、数時間後
「あ…あれ、あの影!」
「―!ザクロ!!」
ザクロのシルエットを見つけて、わたしたちは近づいた。
「―――!」
そして言葉を失った。
その体は、すでにぼろぼろで、片方の腕から大量の血が流れていたのだ。
「ザクロ!!」
「…」
返事はない。
でも、微かに息をしている。
「桔梗、すぐに基地にっ!」
「はい!」
またあの円盤に乗り、森を抜け出す。
下を見ると、そこには深い霧がたちこめていた。
―――
「医療班!すぐに治療して!!」
ザクロを担架に乗せて、わたしはザクロの傷を改めて見た。
腹を何かに噛みつかれたのか、噛み痕が腹に残っている。
「…これは、何の痕…?」
その傷に、ちょんと触れた。
すると
「ぐっ…!!う…!」
ザクロが、目を開けたのだ!
「ザクロ!」
「……ぉ前…んで…ここに…」
「しゃべらないで、傷が深い。」
「るせぇ…お前らに……教えておかなきゃ…いけねぇんだ…」
腹を抑えながら、苦痛にもがきながら、ザクロが言った。
「ジューダは…っ……フェノーサに…連絡…していたっ…」
「フェノーサ?」
「そう…だ。マフィアが誇る…最強の殺し屋…たった一人で…100人の敵を滅ぼしたという…っく!」
ザクロが苦しそうに腹を抑えた。
「ザクロっ…もういい!」
「るせぇ!話を聞けっ……フェノーサは、お前を狙ってる!お前は逃げろ!フェノーサには、敵わない!」
「ザクロ!!」
そのまま、ザクロを再び目を閉じた。
「……しっかり、休んで。」
手を取り、少し強く握る。
大丈夫。
あなたも帰ってきた。
ダートが誰を連れて来ようと、わたしは負けない。
負けられない。
あなたの分は、わたしがちゃんと埋める。
まかせて、ザクロ。
手術室に運ばれるザクロの姿を見ながら、わたしは涙ぐんでいた。
「彼は平気です。」
桔梗は、何かを察したようにわたしに言った。
「とことん丈夫な男ですから、心臓を刺されない限り生きてますよ。」
「うん…」
桔梗がわたしの頭に手を置く。
「うん…」
わたしの顔は、もうすでに涙でぐちゃぐちゃだった。
「泣かないでください。」
「わかってるよっ…!」
でも、残酷なほどに涙は止まらない。
涙と一緒に溢れてくる気持ちは、ただ一つ。
許さない。
そう、強い思い。
「桔梗、わたしこれで決意したよ。ダート…ジューダだけは、わたしが倒す!」
そう。これからが始まり。
ダートファミリーVSディアモファミリーの戦いは、幕を上げた――!