第三十六話 ザクロとの決着 〜未来編〜
―3日後 ディアモ基地
「いい?今日の目的はダート暗殺部隊の捕獲。そして、ザクロとの交渉。それ以外で、むやみに殺生しないこと。とくに雲雀先輩!!」
ディアモ基地に集まっている人たちの中で、異常なほどの殺気を放っている。
でも、わたしにはなぜ殺気を放っているのかよくわかっていた。
群れるの、基本嫌な人だもんね…あの人。
相変わらずどこでもマイペースな人だな…
「僕に命令する気かい。」
恐っ!
一瞬ひるんだが、またキッと雲雀先輩のほうを見て、言い返した。
「今日は、とても大事な日です。今日で全部決まる。だから、その日にたくさんの人を死なせたくない。」
「……ふん」
鼻で笑われたが、多分わかっていると思う。だからわたしはそれ以上何を言うわけでもなく、集まっている人を見た。
きっと、このうちの誰かが死んでしまう。そんな場面が来るかもしれない。
「絶対に、死なないで。」
それだけを言って、わたしは南地点に向かった。
他の人たちも同じように、自分の持ち場へと向かって行った。
―同日 ダートファミリー暗殺部隊
「いいかてめぇらぁ。絶対に諦めんな。あいつらはしょせんガキだ。俺たちの本当の敵に比べたら、んなもんカスだ!ただしっ!ボスは、宇都宮春は俺が殺る!それだけはわかってろ!!」
基地内では、武器を手にしたいかつい男たちが殺気を放ちながら、くすくすと笑っている。
「行くぞぉ!」
そして向かう先には、誰がいるか。
闘いの幕が、今上がったー!!
『東は、どうやらはずれのようです。』
「わかった。そのまま監視続けて。」
『了解です。』
静かすぎる、森。
何かあるのか、作戦はやはりたてただろう。
「雲雀先輩。敵は、何か作戦を考えているんですかね。」
「知らないよ。まぁどっちにしろ、斬り殺すだけさ。」
変わんねぇなー、この人。
「そうですよね。」
というか、わたしはなぜ雲雀先輩と二人きりなのだ。
桔梗と骸六さんはどこいったんだ!
辺りをキョロキョロと見渡している時だった。
「―殺気!?」
とっさにフロッターレコルポで浮遊する。
その瞬間、わたしのいた場所で何かが爆発した。
「久しぶりだなー、宇都宮春。」
この声は、風使い。
「燕か!」
「あたり。とにかく、邪魔な駒は早く片付けないとね。」
燕の右手が、胸の位置まで上がった。
すると、強風がわたしを襲った。
「…くっ!」
空中での闘いは危ない。そう判断して、わたしはチェックメイトガンをポケットから取り出した。
「くらえ!」
「無駄。」
わたしが弾を撃った瞬間、風がまた襲いかかってくる。
「どこ見てるんだい!」
その隙に、先輩が燕の腹をトンファーで殴る。
ボキッと、嫌な音がなった。
「でもまさか忘れてないよな。これが人形だって事。」
そうだ。
こいつは、まず人形を闘わせる。この人形も、いやによくできてるな。
「さーて、本体はどこにいるでしょー…」
言いかけた時だった。
「うるさいよ。」
――バギィ!!
人形の首が、飛んだ。
「ししっ…♪人いっぱい、殺し放題じゃん…」
ボスたちから離れたほんの数分で、この暗殺部隊一の天才と呼ばれるディーノが襲ってきた。
「骸六!ボスたちのところへ行け!」
「それどころでは、なさそうですね。」
その直後、骸六の体が火柱に包まれた。
「骸六!!」
「これは幻覚です。熱くもかゆくもありませんよ。」
カサ…と、草むらの中から、一人の少年が出てきた。
「さっすが骸六。やっぱり、お前は強いな。」
「スパナ、今はお前の相手をしている暇はありません。早く、消えなさい。」
すると、鋭い氷柱がスパナの肩を貫いた。
「ふっ……ん?」
一瞬勝ち誇ったような顔をした骸六だが、また顔を歪ませた。
「甘いよ。」
氷柱の先端部分を手に持ち、骸六の背後に現れたスパナが彼の心臓めがけて氷柱を突き刺す。
が、彼の姿はすでに火柱の中にはいなくなっていた。
幻覚と幻覚、騙し合いの闘い…
これが、幻術師の闘い方…!
「桔梗、今すぐ春たちのところへ行きなさい。君がいては俺は術に専念できません。」
彼と目が合った。
そして気づくと、自分とディーノはすでに彼の姿が見えないところまでとばされていた。
「なんだ、あの男…」
ディーノがつぶやく。
「ま、いいか。こっちはこっちで楽しもうぜ。どうせ死ぬのはお前だけどな。」
こちらも、火花の散る闘いになりそうだ。
「燕はもういいはず。ザクロを捜しましょう!」
珍しくわたしが仕切って、この場は落ちついた。だが。
「春」
先輩の手がわたしの頭にのびて、そして
「いでででっ」
髪の毛を、思いっきり引っ張られた。
「なに命令してるんだい。」
「す、すみません!」
うぅー!
やっぱこいつ超質悪いぃ!
「僕に命令していい奴は、この世にはいないんだよ。」
なんて言い訳ー!?
つーか突っ込み所多すぎやねーん!!
その時だった!
「見つけたぜぇ!宇都宮春ー!!!」
剣を振りかざし、わたしに向かって突進してくる、ザクロ。
「こっちの台詞だこの野郎ー!!」
わたしもチェックメイトガンをホルダーから出し、セーフティーを外して突進した。
――ガキィイン!
金属同士がぶつかる音が響き、その後に笑い声が聞こえた。
「ふっ…パワーなら俺が上だ。」
「バーカ、空中で誰がわたしに勝てるの?」
フロッターレコルポを使い、地面から3メートルは離れた場所に浮遊する。
「忘れたのか?俺は相手がどこにいようと…」
―ドフ!!
何かが、ザクロの腹に直撃した。
「春…これは僕の獲物だよ…」
前にも一度聞いたことのあるような台詞。
いつだったか、先輩に押し倒された時のことだ。
「はっ…そっちが二人なら、こっちも二人で行くぜ。おいラルフ!いるんだろう、出てこぉい!」
―!?
シュンッと、 わたしの頬を何かが傷つけた。
それは小さな針で、わたしの頬をかすめた後に地面に突き刺さっている。
「やっと俺の出番かぁ。」
聞き慣れない声に、わたしは戸惑った。
「だがわかってるよなぁザクロ!」
「あ?」
「俺はなぁ、静かにひっそり楽しく暴れてぇんだよぉ…」
なんか変な人きたー!
「ふっ。さぁ…始めようぜ。」
ザクロの合図と共に、わたしたちの戦いは始まった!
ガキィイン!
バンバン!キィーン!
金属同士がぶつかる音と銃声が、南地点で響いている。
「…くっ!」
雲雀先輩は相変わらず余裕な顔して戦っている。見たところ、ラルフという男の戦闘能力は普通ではなさそうだ。
「バージョン4,0!」
チェックメイトアローに切り替え、わたしはザクロと距離をとる。
「逃げてんのかよ。」
ザクロはそう言って、持っていた剣を変形させた。
「バージョン5,0 死に神の釜」
剣は大釜に変形し、不気味な霧を出している。
「死に神の釜は、俺が斬れると思えばなんでも斬れる。たとえ、人だろうと。」
……!!
あれに斬られたら一溜まりもない。
どうにかしないと。
弦を引き、アローを構える。
「トゥレアロー」
光の矢が三つに増える。
わたしはそれを釜めがけて放った。
が、放たれた矢は釜に到達する前に、直前で消えてしまった。
「なっ……」
釜も動かしてないのに!
「死に神の釜に正の感情を元とした攻撃は効かない。いい気味だなぁ!」
なにっ……!?
攻撃できないってこと!?
「これでお前のチェックメイトガンは封じた!もうこれでただの小娘さ!」
くそっ!
ザクロを睨みつけた。
すると、背後から何かの気配を感じた。
なに、この寒気!
くるりと振り返ると、そこには
「ボス…助けに、来た…」
槍を持った幼い少女が、そこに立っていた。
「えっ…?」
誰、この子。
「恭弥様の命令で…5年後のあなたを助けに…」
「まさかっ…その娘、霧族の娘か!」
ザクロも驚いた顔をして、この子を見ている。
「恭弥様って…骸六さんのこと!?」
「5年前の、恭弥様。今はまだ眠っているけど、もう少しで目覚める。」
なにを言っているんだこの子はっ!
「ボス…下がってて…」
槍を構えて、左目を強く閉じた。
そして
―ボゥ……
その瞳に、炎が灯った。
「あ…あの炎は…」
「……出てきて。」
そうつぶやいて、槍を地面に突き刺す。
すると、大地が揺れ、大きな裂け目が現れた。
「…っ…」
その幻覚のリアリティに、思わず言葉を失った。
「…バージョン0,0 地獄大蛇」
彼女の口から、こんな言葉が漏れた。
そして、シャー!と威嚇しながら大地の裂け目を這い上がる大蛇の姿を目にとらえた。
悪寒の正体はこれか…
「堕ちろ……」
大蛇が、馬鹿でかい口を開けてザクロへ突進していく。
でも、このままだとザクロが危ない!
「待って!」
―ビク!
大蛇の動きが止まった。
「……ザクロ、もうやめよう。」
「…は……?」
少女はもう一度槍を地面に突き刺す。
すると大蛇は消えて、大地の裂け目も同時に消えた。
「…ザクロは、なんで反抗しないの?ディアモにいた頃は、もっと自分に素直だったはずよ!」
「じゃあジューダを殺せ!俺は、俺たちはあいつの命令で……」
「あんたが一発殴ってやればいい話でしょうが!なんで他人に任せてんの!?」
「それができたら苦労しねぇよ!!」
「じゃぁややりなさいよ!!」
お互いに、大声の張り合いで息が切れていた。
「……ザクロが変われば、未来は変わる。わたしはそれを待ってる。」
それだけを言い残して、わたしはザクロに背中を見せた。
チェックメイトガンをホルダーにいれて、やってきた謎の少女の手を引いて。
「……ザクロとの交渉は成功したと。だから暗殺部隊は撤退した。そこまでは理解できます。しかし、なぜボスが霧族の娘と一緒にいるのです?」
「いろいろ恩があるから。それに、骸六さん関係だし。」
少女を見ると、ザクロを怯えた目で見ている。
「ほらぁ、警戒しちゃってるじゃない。笑いなさいよ桔梗。」
「……」
無反応。
相変わらず女の子を軽く睨んでいる。
「…ぁの…わたしの名前……クロウ…」
「クロウちゃん?」
「……うん。」
おずおずとわたしの後ろに避難していたクロウちゃんが出てきた。
「今は仲間が減ったけど…一応霧族」
「霧族……?」
「幻術師の一族です。その強烈な術から、人から離れた場所で生きていると聞いたが…」
「5年前の恭弥様に…頼まれたの。」
まったく、あの人は何やってんだか…
こんな女の子に戦わせるなんて。
「あの人は、殺されるはずだったわたしを助けてくれた…そしてこの槍と、少しの力をもらった。」
そういえば、クロウちゃんが持ってる槍、骸六さんが持ってたかも。
「この冥界槍の中に、5年前の恭弥様がいる…。」
愛おしそうに槍を握り、宙を見つめるクロウちゃん。
「……でも、これはわたしの有幻覚で作った…本物は、メノオ基地にある…」
「……メノオの基地、行ってみる?」
桔梗を見ると、同じようにクロウちゃんをみていた。
「そうしますか。」