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第二十九話 撤退後、帰還 〜未来編〜

「なめてんじゃねぇえええ!!!」

ザクロが襲いかかってきて、わたしはひらりと舞い上がった。

未来にきてから、なんだか嘘みたいに身体が軽いんだ。

「フロッターレ・コルポか!」

イタリア語で、浮遊する体という意味だ。

未来にきてから、わたしのこの能力が開花したのだ。

「ザクロ、もう一度言うわ。わたしたちを春日たちのところに連れていって。」

攻撃を全て避けたわたしは、ふわりと着地してからザクロに言った。

「わたしたちのところに、帰ってきてもいいんだよ。」

「うるせぇ!!!」

―!

油断したところから、爪がわたしの腕をかすめた。

なぜなら、わたしが避けなかったから。


「ザクロ!!」

「黙れ、俺はダートファミリー暗殺部隊隊長、フォン・ザクロだ!!」


泣きそうな顔をしていた。

あのザクロが。

だから桔梗も、手を出さないでじっと見ていた。


ザクロに向かって一歩踏み出した、その瞬間だった。

「お前たち。」

声が聞こえたほうを見て、固まった。

「―――!!!!」

そこには、腕を縛られて動けない春日たちの姿が。

しかも、ダートファミリーの制服を着た何者かに捕まっている。

ザクロどころじゃなくなった。

「貴様っ二人を放せ!!」

「あぁ。」

「!?」


「交換条件だ。ディアモファミリーのボス、宇都宮春。一人で俺たちのボスと面会しろ。」


命令口調がムカついた。

「俺たちのボスは最上階の部屋にいる。お前のフロッターレコルポなら行けるはずだ。」

「ふざけるな!」

「ならばこの女たちは死ぬことになる。それでもいいなら、来なければいい。」

くっ…

動けないでいる時だった。


「ミンク。」

雲雀先輩がミンクを肩に乗せた。

そして、こうつぶやいたのだ。

「火の粉だ。」

するとミンクは、しっぽをまたもすごい勢いで回し始める。

ボボボッ、と音をたてて火の粉の塊が、二人を捕まえている男の顔面にまっすぐ、それも恐ろしいスピードで飛んでいく。

「水ツバメ。」

しかし、男はうろたえるわけでもなく、そう言った。

すると男の周りに、ツバメが一羽。

火の粉を消すように高速で飛び回る。

「フン……役立たず。」

雲雀先輩の一言に、ミンクはビクンと体を震わせてわたしの肩に飛び移った。

「あれは、レア度の高い水ツバメ…?」

桔梗がじっと見ている先に、悠々と飛び回るツバメ。


「お前たちの戦闘スキルはすでに頭に叩き込まれている。無駄な足掻きはよせ。」


…なら、わたしが行くしか無いか。

いつまでも、春日たちをこんな場所に置いておくわけにもいかないし。


「そっちに行くから、道案内して。」

「は…?」

「わたし方向オンチなの。迷っちゃうから、案内して。」

ふわっと浮き上がる体。すごい。過去では、こんな力なかったのに。

「ふん…変わったボスだな。」

男は油断したのか、二人を掴んでいる腕の力を緩めた。

今っ…!!

――パンパン!!!!!




乾いた銃声が、響いた。



その数秒後、男は、パタリと倒れた。



「っはー…」

安堵のため息が漏れる。

「春日、居町!」

二人に触れようとその瞬間。


パシン!

その腕は、はたかれてしまった。


「………っ」

春日の目には、涙。

居町の目には、絶望。


なんで、どうして?


「春日……?」


「触らないで。あたしたちは、別に助けに来てくれなくても…よかったのに。」


「んなっ…」


「帰れ、宇都宮。」


な、なんでっ……


「ザクロ、いつまでボケてんの。帰るわよ。」

春日がザクロに言った。

「…っあぁ。」

そんな、まさか


「あたしたちは、ダートファミリーの情報部で働くことになったわ。」

「春日!!」

「じゃぁな、宇都宮。」

「居町!?」


どうして、3人ともっ

わたし、なにかした!?


「ま、待ってよ!!」

「うっさいわね!早くあたしの視界から消えなさいよ!!消えないなら、あたしが消える!!」


――――ピキリ



ひびが入った。

何かに。私の心の、何かに。


去って行く3人の後ろ姿を見ながら、わたしは呆然と立ちすくんでいた。






「ねぇ、ダートのボス。」

「なんだい?」

「これで、宇都宮たちは本当に助けてくれるんでしょうね。」

「あぁ。」


椅子に座ったまま、逆光でよく見えない口元がニヤリと笑った。


「誓おう。今後ダートファミリーは、ディアモにはいっさい手を出さない。」


「もう一つの約束は。」


「はいはい。ディアモの基地に仕掛けた爆弾、全部を撤去するよ。」


この人が本当に約束を守ってくれるかはわからない。

でも今は、あたしたちにできることはこれくらいしかない。

だから宇都宮。絶対に死なないで。


「真剣に働いてね、情報部部長さん。」

「……」


屈辱だわ。

まさかこんな結果になるなんて。

でも信じて宇都宮。

あたしはあなたの味方だから。

ディアモを護りたいあなたの気持ちは、あたしにもよく伝わったから。

あたしもここで踏ん張る。

あたしって、スパイ活動にぴったりなポジションでしょ?


今は、そんなことを考える心の余裕があった。

それから数日後、ディアモ基地が大爆発したという情報が入るまでは。



「ジューダ!」

ダートファミリーボスの名を叫びながら、あたしはボスの部屋のドアを無理矢理開けて飛び込んだ。

「どうしたの、春日。」

「ふざけるんじゃないわよ!あなた、爆弾は全部撤去するって…」

「あぁ、あれね?期限については言われてなかったから。忘れてたや、ごめんごめん。」


―プチン


「忘れてただぁ…?ざけんじゃないわよっ、あぁ!?あんたそれでもボスか!」

あたしは、近くにあった花瓶を無意識のうちに投げていた。

「ん?」

ボスはそれを片手で取ると、机の上に置いた。

「またずいぶんと乱暴なことをするね。」

「死ね!今すぐ死ね!灰になれ!」

いつのまにか、暴言を吐いていた。

「ケガ人はでなかったのか!?」

「さぁ、知らない。」

知らない、だぁ?

「現場調査に行ってきます!!」

部屋を飛び出して、基地の非常口から飛び降りた。

下は森、死にはしない。


「―っ…!!」


命がけで着地して、あたしは走った。

なぜか、泣きながら。

「死んでないよねっ…!?」

腕で涙を拭って、必死で前をむいて走った。

「お願い、生きててっ……!」

強く強く、何かを誤魔化すように腕を振って。

「っ…!」

あたしまだ、お礼も言ってないっ…!

「春ー!!!」



「なによ。うるさいなー、京子。」

返ってきた返事に、あたしの顔は自然と笑顔になった。


「春って、初めて呼んだわね。」

「っ…!」

「走って来てくれたんだ。」

「……。」

「まだ、わたしのこと気にしてるの?」

コクンと、小さく頷いた。

「馬鹿だね…本当にあんたは…。どんだけいい子なの?」

頭に、手が乗った。

「帰ろう。あんたの場所に。」

その言葉が優しすぎて、あたしはさらに涙を流した。

「泣かないの。もう大丈夫。居町は桔梗が助けに行ってる。」

「うつ…」

「あ、ちょっとさっきは春って呼んでくれたのに、また宇都宮って言おうとした!」

「…。」

春に抱きついた。

温かい。

あぁこれが、あたしの場所だ。

「ディアモに、行ってもいいの?」

「当たり前でしょ。もう、わたしたちはファミリーだから。」


やっと見つけたあたしの居場所。

春が導いてくれた場所。

そこを壊さないために、あたしは努力するから。


「キョーコ。もう、無茶しないでね?」

「わーってるわよ。春。」


もう二度と裏切らない。

生きていて、よかった。


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