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第二十七話 幻術師、現る 〜未来編〜

「ミンク、防御。」

雲雀先輩がそう言うと、ミンクは炎が灯っているしっぽをわたしたちの顔の前で高速回転させた。


「……なに」

ザックの低い声が響く。

「ギィ…」

ミンクが鳴く。

わたしはその様子を目を丸くしながら見ていた。

「……なにじっとしてるの。さっさと闘えば。」

その一言で我に返り、わたしはチェックメイトガンを強く握った。

「桔梗!」

「はい。」

「基地の方を見てきて。何かあったら応戦して。」

「あなたは、どうします。」

「わたしはここで戦う。」

それ以上の会話はしなかった。

していたら、残ることを止められていたから。


「ザック、どうしてあなたそこまでしてわたしたちを潰したいの?」

「フン。貴様には関係ないことだ。」

「関係あるから聞いてんのよ。」

恐怖という感情は消えていた。

なぜかはわからないけど、近くに心強い味方がいてくれたから。

「何があろうと、わたしの意志は変わらない。……腐ってもチェックメイトガンは渡さない!」


そう言い終えると、ブワァとすごい勢い霧が立ちこめてきた。

ザックの術かと思って見てみるも、ザックも眉を寄せている。

「クフフ………」

――――――!!

気のせいだろうか。

この笑い方。この感じ。

「こんな森の中で何をしているかと思いきや…」

固まった。

だってそこにいるのは、見慣れた骸六さんじゃない。

「懐かしいですね…春。」

懐かしいって、やっぱり!

「あなたはっ…五年後の骸六さん?」

「えぇ。五年前の俺は中で眠っていますから。」

――!?

「メノオ基地付近で爆発音がして来てみれば、やはり春はトラブルを起こす天才ですね…」

嫌味か。それは。

「それにしても、ザック。あなたも往生際の悪い男ですね…。」

「それは貴様だ、死んだはずだろうが。」

「クフフ…どうでしたかね…」

なんか一段と怪しさのレベルが上がってきてるよこの人。

「情報を知るいい機会にもなります。あなたと闘ってみたくてしょうがなかったのですよ。」

「あぁん?」

こえー!

なんかこの二人の組み合わせこえー!

「春たちは、下がっていなさい。」

近づいたらヤバそうだから、言われなくても距離はとっていた。

「では…行きますよ。」

骸六さんの片目に、炎が灯る。



「阿修羅姫」

骸六さんがつぶやいた瞬間、片目から黒い物が飛び出してきた。

「喰らうがいい。」

ザックを指差し、阿修羅姫と呼ばれた黒い怪物は突進していった。

「フン。」

しかしザックは避ける素振りを見せない。



「ボス。」

後ろから、桔梗の声が聞こえて、振り返った。

「桔梗、基地はどうだった?」

「……それが、半壊していました。」

「―!!か、春日と居町は…!?」

「ザクロと一緒に、連れていかれたようです。」


なにぃ!?

「デストラクシャン?」

「いえ、ダートファミリーです。」

あーもー何たって忙しいときに!

「誰か追ってるの?」

「はい。ですがあのザクロを連れていくなんて…怪物でも飼っているのでしょうか…」

「……」

わたしは、焦っていた。

どうすればいい。こういう時。

「ザクロはきっと平気。それより、春日と居町よ。」

「…この場は彼に任せた方がいいかもしれませんね。我々は助けに行くとしますか。」

「うん。」

わたしはチェックメイトガンを強く握っていた。

目線の先には、骸六さん。

怪物を召喚し、ザックと同等の力で闘う男。

少し、不気味。

「ねぇ、春。」

急に名前を呼ばれ、わたしは後ろを振り返った。

「僕が行く。」

―……………………?

「せ、先輩?」

「少しは倒しがいのある奴がいるらしいね。」

ニヤリと笑う先輩。

「それ、僕の獲物だよ。」

トンファーをかまえて、ミンクの炎を近づける。するとトンファーにはミンクの炎がうつった。

「……!」

燃えるトンファーをかまえて、ニヤリとしている先輩。

わたしは、なにも言えなかった。

「さらわれた3人も助けてくれますか?」

桔梗が言う。

「そんなの、僕が知ったこっちゃないよ。」

ダメだ。

やっぱり行かせない。

「わたしが行きます。先輩は……」

そう言った瞬間、わたしの頬を何かがかすめた。

それがトンファーだと気づいたとき、わたしがどれだけショックだったか。

「僕が行くと言ってるんだよ。」

「春日と居町を助けないなら、わたしも行きます!」


しばらく沈黙が続いた。

「足手まといになったら、斬り殺すよ…」

「なりません!」


大声でそう言って、わたしは駆けだした。

二人がいる場所は、ダートファミリーの基地。だとしたら、情報を集めないと。

その時だった。

【春、俺の基地に行って、雲雀剛平に会いなさい。彼はダートファミリーの基地の場所を知っています。】

頭の中に直接響く骸六さんの声。

【急ぎなさい。阿修羅姫ではこの場は保ちません。彼の力が暴走する前に。】

ちらっと骸六さんを見た。

すると呑気そうにウィンクしやがった。

「……死なないでください。」

【当たり前です。】

頭の声はそれから聞こえない。

でもわたしたちは、まずメノオの基地に向かって走った。

雲雀先輩もしかめっ面をしながらわたしの後ろを走っている。


「キィ……」

ミンクがわたしの真横を走っていた。

大きくふわふわのしっぽを可愛げに揺らしながら。

「おいで。」

手を伸ばすと、ミンクはするするとわたしの肩まで上ってきた。

そして肩にちょこんと座るミンク。

かっ…かわいい!

「おやおや、炎ミンクになつかれるなんて変わった人ですね。」

桔梗が言った。

「なんで?こんなにかわいいのにー!」

「炎ミンクは、その炎で人を1秒で灰にすることができるんですよ。」


―マジでか…!?

「ミンクはそんなことしないよねー?」

笑いながら見てみるも、「キィ?」と不思議そうに鳴いている。

「まぁ、そんな余談はもういいでしょう。そろそろメノオの基地です。」

桔梗がまず基地のゲートに立ち、何か交渉している。

「入っていいそうです。雲雀剛平もいるようですし。」

「フン…」

あ、もしかして気になるのか?やっぱり。

「先輩、お父さんのこと気になるんですか?」

「別に。」

そう言いながら、ちゃっかり先頭に来ている雲雀先輩。

珍しいな、人に興味ある雲雀先輩…

『ゲートを開けます。ようこそ、ディアモのボスとソノオのボス。お待ちしていました。』

中に入った。

すると、そこには―



「リネさん!!?」

「春ちゃん!!」

わたしに抱きつくリネさん。その姿からして、多分5年後の。

「懐かしいわ〜また会えて本当に嬉しい!」

「骸六さんのところにいたんですね?だったらいつでも会えますよ!」

「えぇ!」

久しぶりの対面に喜び、このまま話したいところだが、わたしの頭の中はしっかりと本題を覚えていた。

「あの、雲雀剛平さんはいますか?」

「あぁ、剛平さんなら奥の部屋にいるわよ。」

リネさんが言い終えた瞬間、わたしたちの横を何かがすごいスピードで通り過ぎた。

「……今の、雲雀くん?」

「そう…ですね、はい。多分。」

そんなに会いたかったのか、父親に。

「喧嘩にならないといいけど。」

リネさんがぼやいたその瞬間だった。


キィーン!!カキィーン!!と、金属音が!

わたしたちは予想が的中したと思い、奥の部屋まで駆けつけた。

すると、やっぱり。


「っ…!やるな、恭平…」

「……しゃべってないでかかってきなよ。」


なんか、あぁやっぱりねって思うのは、わたしだけだろうか。

「先輩!お父さんに何してんですか!?」

「うるさいよ、君。」

―ムカ

「やめてください!!」

バァーン!!と、チェックメイトガンを一発。すると、お父さんは動きを止めた。

「君が、ディアモのボスかい?」

「は、はい。」

その瞳の鋭さに、わたしは一歩後ずさる。

「僕に聞きたいことがあるんだろう?」

そう言いながら、わたしに近づく雲雀剛平さん。

「それは、仲間を助けるためかい?」

わたしの目の前まで来た雲雀剛平。わたしは、見上げていた。

「覚悟があるなら、教えよう。」

試してるな、わたしのこと。

「はい。絶対に助けます。そして、全員で帰ってきます。」

「……その甘い考えは、気にくわないけどね。」

えっ……

「でも、合格。」

雲雀剛平さんが、わたしの頭に手を載せた。

その感じが、雲雀先輩によく似ていたので、少し照れてるかもしれない。

「ここから南に行ったところに、瓦礫の教会があるはずだ。その地下に、ダートファミリーの基地はあるよ。」

優しく笑う、剛平さん。

なんか、雲雀先輩のお父さんとは思えない優しさ…


「なぜあなたは、ダートファミリー基地の場所を知っているのですか?」

「ん…君は、桔梗くんだったかな。僕がどうして基地の場所を知ってるか、それは行ったことがあるからだよ。」

その目には、これ以上は聞くなという意志が込められていた。

だからわたしは桔梗が追求するのを止めて、さっさとメノオの基地から出たのだ。



「なぜ止めたのです!怪しすぎるでしょう!」

「人の過去は、探るものじゃない。」

それだけ言うと、桔梗は納得したのか、黙り込んでしまった。

「先輩、長旅になりそうですけど、それでも来ますか?」

「……君に決定権は無いよ。」

オーケー。それはつまり、行くってことね?

わかった。

なら、わたしも強くなる。


「絶対に、3人を助けて、一緒に帰ってきましょう!」


わたしはチェックメイトガンを強く握り、先輩はトンファーを握り、桔梗は拳を握っていた。

それぞれの思いはまだ胸の内に潜めたまま、わたしたちの旅は始まったのだ。



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