第二十五話 飛ばされた世界は 〜未来編〜
「き、桔梗。」
わたしの名前は宇都宮春、2年前にひょんなことからディアモファミリーの一員になった。
それから、デストラクシャンだのアルマーノだのの問題が片付き、わたしの継承式とやらも3日後に決まった。
そんなめでたい日に、わたしたちは大変なことをしてしまったのだ。
「なんでしょう、ボス。」
「……ソノオとメノオに、連絡できませんか?」
「今は無理ですね。ダートファミリーが回線をジャックしてますから。逆探知される恐れがあります。」
ご丁寧な説明ありがとうございますー。
どうやらわたしは、タイムトラベルとやらをしてしまったのだ。
しかも飛ばされたのはわたしだけじゃない。雲雀先輩と骸六さんもだ。
早く連絡を取りたい。早く無事なのを確認したい。
「心配しなくとも、あの二人は強いですから。」
桔梗はわたしの気持ちを読んでそう言ってくれたけど、やっぱり不安。
「人のことより自分のこと考えた方がよくないか?ボスさんよ。」
ザクロが言った。
「近々、ハデな抗争するかもしんねーぜ。」
「なんで?」
「お前がここ(5年後)に来たのが、ダートファミリーにバレてら。」
「えぇ!?」
今のわたしは、すごく弱い。
きっと簡単に倒されてしまう。
「バージョンアップしないと、やべぇぜ。」
そう。わたしの持つチェックメイトガンは変形するらしい。
今わたしのバージョンは、0,0と1,0。聖火弾と神風弾だ。
過去のわたしだったら、それで満足するんだけど、この時代ではまだまだなんだと。
「ダートファミリーはデストラクシャンに比べたら蠅レベルですが、今来られてもあなたは隠れるだけになってしまう。」
「そんなに、デストラクシャンファミリーは強いの?」
「はい。ボスはデスキッドを持っていますしね。」
「なるほど……」
生きていたのね、やっぱり。
「まぁ敵もバカじゃねぇ。今のうちに駒を潰しておこうってことだろ。」
潰すって…その言い方っ
「あぁ、言ってなかったが、この世界じゃファミリーのボスをやったら、そのファミリーはボスを倒した奴に従わなければいけないんで。よろしく。」
はぁー!?
聞いてねぇー!
「それだけボスは大事な駒だということです。」
なんか、悲しいのぉ…
わたし駒かい?駒扱い?
泣くよ、わたし。
うじうじと桔梗とザクロを睨みつけていると、部屋のドアが勢いよく開かれた。
「ボス!それに桔梗さんとザクロさん!緊急連絡です!」
その慌ただしさに、わたしは思わず生唾を飲んだ。
「なんだなんだぁ?」
「どうしたのです?」
二人が飛び込んできた男に詰め寄る。
「南地点にダートファミリーらしき反応と、五年前の春日と居町の反応が!」
「なにぃ!?」
それを聞いた瞬間、ザクロが基地を飛び出した。
「アルマーノの幹部が二人も。しかも同時に現れるなんて…」
桔梗は顎に指を当てて考え込んでいる。
「あの二人は、五年後に来ないはずなのに…」
「もしかしたら、巻き込まれたとか。」
「ありえません。スイッチを押さない限り、そんなことは…」
―スイッチ、ですと?
「わたし、それ押したかもしれません。」
「っ!あなたは、本当にトラブルメーカーですね。過去でもここ(現代)でも。」
桔梗は苦笑いをしている。
でもわたしはそれどころじゃない。
「なんでダートファミリーが二人を?」
「…ダートを日本語で訳すと、¨情報¨。ダートファミリーは、元アルマーノの幹部の一人からできたそうです。」
「だから二人を!?」
「はい。」
わたしも、じっとしていられなかった。
「桔梗!二人を助けに行くわよ!」
「ザクロが行っていますから、安心ですよ。」
「何言ってるの!二人にこの事を説明できるのはわたししかいないわ!」
そうだ。この時代に飛ばされたのは、わたしが変なスイッチ押したせい。
だから行かなきゃ!
「……仕方ないですね。」
桔梗は渋々納得し、わたしを連れて基地から出た。
「ダートファミリーはそこまで戦力があるわけではありませんから、予行練習にもなりますか…」
そうつぶやいていたのは、気のせいだと思い込みたい。
「バージョンアップすれば、使える弾丸の種類が増えますから、それは勝ちにつながります。」
「今のわたしじゃ、やっぱり力不足…」
「はい。」
ハッキリと言ってくる桔梗の言葉に少し傷ついたもの、わたしは南地点に向かって走った。
―――…………
「どうなってるの司!」
「俺にもわからねぇ!ただ、俺たちが銃で狙われてることは確かだ!」
二人は、走っていた。
黒い服に、黒い覆面をした男から。
「あいつら、ディアモファミリーがどうのとか言ってたわよね!?」
「またディアモか?人気者だな春は!」
その瞬間、居町の足を弾がかすめた。
「っ―!!」
座り込む居町。春日はどうすることもできずに、居町を庇うように前に立った。
「あなた誰!?」
「関係ない。二人の身柄を拘束する。武器をすべて捨てろ。」
銃を突きつけられる春日。でも、春日は揺るがない。
「武器なんて持ってない!それより、ここはどこ?」
「…本部へ報告、春日京子と居町司の身柄を確保した。」
無線機を使って報告し始める、真っ黒な男。
「話し聞いてるの!?」
「黙っていろ。」
その迫力に、思わず黙ってしまう春日。
居町は足を抑えながら覆面の男を睨みつけている。
「さぁ、来てもらおう。バージョン1,0 鉄蛇の鎖」
男がそう言った瞬間、持っていた銃から鎖が飛び出してきた。
それは春日の腕に絡みつき、まるで蛇のように締め付けている。
「ぃた―……!」
その直後だった。
「ホァチャア!」
爆発音と同時に、中華服を着た男が、文字通り降ってきた。
「貴様はディアモファミリーの!」
「てめぇガキ相手に何してやがる!」
ザクロは鎖を蹴り飛ばすと、春日を自分の背後に隠した。
「隠れてな、アルマーノの嬢ちゃん。」
ザクロがそう言うと、春日は不思議そうにザクロを見つめる。
「俺はフォン・ザクロ。ザクロでいい。」
「ぇ……」
いきなりの登場に、春日はついていけてない。
「あなたビルに来てた…」
「あぁ。でも今は少し待ってくれ。」
ザクロはニヤリと笑うと、懐から小刀を二本取り出した。
「てめぇの相手はこれで充分だ。」
「き、貴様ナメたまねを…」
「ああん?事実だろうが。」
「調子に…のるなぁ!」
ザクロに向かって銃口を向けた。
「危ないっ……」
春日が叫んだと同時、銃声が響く。
「ふん、俺をナメんじゃねーよ。」
ひらりと空中に浮かぶザクロ。
それをめがけて銃口を向ける男。
「終わりだっ―……!」
「―!!」
引き金を引く、その瞬間だった。
「伏せろ!春日!」
誰かの声が聞こえた。
だからあたしは、反射的に伏せていた。
「バージョン0,0 聖火弾!」
バン!
銃声と共に、弾丸が曲がることなく相手の額に。
「ぅ―!これはっ……!」
男は銃を地面落とし、そのままバタンと倒れる。
「春日!怪我ない!?」
駆け寄ってくるその存在が懐かしいように感じて、あたしは思わず涙ぐんだ。
「あたしは平気…でも司が足に怪我してて…」
「わかった。」
宇都宮は司の横でしゃがみこんで、腕を自分の肩に回している。
「立つよ?」
それだけ言って、宇都宮は司を支えながら立ち上がった。
「ザクロ、その人…」
「わーってるよ、ボス。」
……………?ボス?
「ボス!?」
あたしは思わず声を上げてしまった。
「うん、一応ディアモのね。」
「うっそ……」
開いた口が塞がらないってやつだ。
あたしは唖然としてその宇都宮を見ていた。
「それより、まずは説明しなくちゃ。いったん基地に戻るから、一緒に来て。」
「基地?ディアモの?」
「うん。」
あたしは、宇都宮の隣にいる人を見た。
「自分は桔梗と申します。そして、あそこで暴れてるのが、ザクロです。」
「は…はぁ。」
そういやあたし、いきなりこんな場所に放置されたのよね。
まだ司が一緒だったから平気でいられたけど。
「基地ってどこにあるの?」
「ここから北よ。すぐにつくから、それまで居町のことよろしくね。」
へ―!!?
あたしが返事をする暇もなく、宇都宮は司の腕をあたしの肩に乗せた。
「ったく…傷治ったらあんたパシリにしてやる。」
「まぁまぁそう言わない。」
ニヤリと笑う宇都宮。
あたしはその笑顔に、違和感を感じた。
「何かあったね?」
「………何も。」
絶対何かあったな、こりゃあ。
「ここには雲雀さんも幻術師の人もいるんでしょ?だったら…」
「会ってないの、雲雀先輩と……」
それか。
「おい、恋する乙女。無理にでも会おうとしたの?」
黙り込む宇都宮。
なにじっとしてるの?あんたらしくない。
「まだ会えないの。」
「会えない?」
「うん。ここは、春日たちがいた時代とはスケールが違う。強くないと生きられない。そういう場所。」
……?
春日は黙って宇都宮を見た。
「春日、あんたたちは5年後の世界に来ちゃったんだよ…?」
「…………はぁ?」