第二十四話 ファミリーのありかた 〜デストラクシャン編〜
怖かったの、あたしの中に、何かどす黒いものがあるのがわかったから。
いつかこの日がくるって、怖かった。
だからあたしは今、性に合わず小さく座っている。
怖いから。怖くて怖くて、みんなに見捨てられたくなくて。
骸六に、会いたくて。
「………リネさん、もう許してますから、出てきてください!」
だからこの声を聞いたとき、あたしは思い切って立ち上がったの。
そして探した。出口を。この闇から抜け出す術を。
「リネさん!」
そのまま叫んでいて、その声を頼りにあたしは走るから。
「リネさん!」
もう一度呼んで、返事するからっ…!
「リネ!」
『っ――恭弥…!!』
目が覚めた。
あたしは今まで、何をしていたんだ?
「リネさん……」
「リネ姉さん…」
あたしは前を向いた。
清々しい気持ちで。
「リネ。」
やっと会えた。
「…――恭弥、ごめんね。」
リネさんの意識が戻った。
わたしも嬉しかった。
そのはずなのに、何でこんなに不安なんだろう。
「デストラクシャン…許さないっ!」
リネさんの穏やかな表情が、一変した。
「…楓、あたしの武器まだ持ってる?」
リネさんの武器?
「あぁ。」
ボスがポケットから何かを取り出した。
それは、オレンジ色の水晶。
「あたしに取り付くなんて、100年早いのよ…」
それから、信じられないことが起こった。
『ぅ―……!』
どこからともなく初代ボスの声が聞こえてきた。
『そんなことが…ありえん…!』
「ザキエル、あたしの体から出ていけ!」
リネさんの叫びと同時に、オレンジ色の水晶が目が眩むほど輝いた。
その光は、温かくて優しいものだった。
「リネさん!後ろ!」
不意に、春日が叫んだ。
何事かと後ろを振り返ると、デストラクシャンの現ボスが銃を構えている。
「もうおせぇ。」
―!!
体が、勝手に動いた。
「させるかぁぁあ!」
デストラクシャンが銃弾を放ったと同時、わたしはチェックメイトガンを一発撃った。
頼む、まぐれでもリネさんを守って…!
強く強く、そう願った。
すると
「―!?」
銃が、変化した。
「あ…あれはっ、バージョン1.0…?」
居町の声が聞こえた。
「……っ神風弾!」
わたしはなぜかそう叫んでいて、なぜか標的が絞られていて。
「終わりだ!デストラクシャン!!!」
神風が、わたしたちを包んだ。
『春…』
優しい声が聞こえた。
「だれ?」
『春、未来を変えるんだよ…。』
頭に響く、優しい声。
『ザキエルを助けてやってくれ。神風弾は、憎しみを消してくれるから。』
「待って……初代!」
『みんなを守るんだ。十代目。』
―!!
「ザキエル!」
わたしはあなたを、助けるから!
『何をしようと、この体は傷つけられまい!いい気味だ!』
笑っている。なんて、おろかだろう。
その御霊を、導きたまえ。
「大丈夫だから。」
わたしはゆっくりとチェックメイトガンを向けた。
「リネさんは術を続けていてください。」
わたしの成すべきことは、救うこと。
ザキエル、あなたを。
『何を考えている。そんな銃で、いったい何ができる?』
「救うことです。」
強く願った。
彼を、そしてリネさんを御救いください。神風、憎しみを浚って行きたまえ。
―バン!
乾いた音と、パタリと倒れるリネさん。
わたしは、チェックメイトガンを内ポケットにしまった。
「リネさん…」
目を開けたその世界に、わたしたちは笑っています。
誰もあなたを責めたりしません。
「……ぁなた……春ちゃん?」
「―……!リネさぁぁあん!よがっだぁぁあ!」
最後の方は軽く泣いてた。
でも、それは嬉し泣きだったから、みんなわたしを慰めてくれた。
「リネ姉さん…!心配させやがって…」
「ごめんね、楓。」
「リネ!」
誰かが、大声でリネさんを呼んだ。
「俺のこと、忘れていませんか?」
「――…………っ!」
リネさんが言葉を無くした。
「恭弥…っ!」
リネさんが骸六さんに抱きついた。
わたしたちはその様子を、ただ笑って見ていた。
「……で、結局デストラクシャンのボスを逃しちゃったわね。」
春日が言った。
「でも初代はきちんと成仏したよ。」
わたしが言うと、居町がわたしをまじまじと見ていることに気づいた。
「な…なによ。」
「バージョンアップしてたな、チェックメイトガン、1.0モデルに。」
「うん?」
そういや、急に威力が強くなったし、それにさっきの初代は…
「それより初代、優しそうな人だったね。」
「はぁ!?何言ってんのあんた。」
「わたしが言ってるのはディアモの初代よ!ボスに少し似てた。」
「………まさか、初代見たの?」
「…?うん。」
え、なにこの沈黙…。
「初代は…やっぱり春を選んだんだ。」
ボスがつぶやいた。
「え、みんな見えてなかったの…?」
「あぁ。春しか見えてない。」
え、マジかよおい。
「春、やっぱり君は継承者だったんだ!」
ボスは嬉しそうにわたしの肩を掴んだ。
「えっ、な、は!?」
状況がよくわからないんだけど。
「宇都宮、継承式はもうしたの?」
と春日。
「いいや、してないけど…」
「だったら早めにしておいた方がいいわよ。」
とリネさん。
「継承式?」
するとボスが言った。
「確かに急いだほうがいいね。もう初代にも認めてもらえたし。」
「あの…ボス、継承式って…」
「ああ。まだ秘密。三日後ね。」
なんか、やな予感がする。
なんか悪いことが起きる気が…。
「で、なんだい…これ。」
今まで一切しゃべらなかった雲雀先輩が、何かを持ち出してきた。
「それ、さっきの桔梗とかいう人が落としてったものじゃないですか?」
時計の針が4本ある。
なんだろう…文字がかすんでよく見えない。
「ちょっと、貸してください。」
雲雀先輩から時計を受け取った。
「時間、違ってる…」
そう言って、時間を合わせようとスイッチを押した瞬間だった。
「―!?」
あれ?
景色が一変した。
あれれ?
わたし、どうしてこんな草原にいるのかにゃ?
「ひ、雲雀先輩?」
辺りを探ってみるものの、誰もいない。
どうして、今さっきまでビルの中にいたのに。
「どうなってんの…?」
とりあえず森を抜けなくちゃ。
そう思って、歩き出した。その時だった。
ガサガサガサッ…
「誰!」
後ろを振り返ると、そこには真っ白な服を着て、顔をこれまた真っ白な覆面で隠している人がいた。
でも、その人の持っているものに目が行った瞬間、わたしは本能的に硬直した。
よくドラマやテレビで見る、機関銃ってやつ?これ、パチモんじゃないよね。
「お前、ディアモか?」
人が喋った。声的に、多分男の人。
男は不思議そうに、実際は覆面で目は見えないけど、見ている。
え、驚きたいのはわたしの方なんだけど。
「答えろ!」
男がわたしの銃を向けた。だからわたしも、チェックメイトガンを取り出そうと内ポケットに手を突っ込んだ。
―すると。
「やめなさい、無礼者が。」
「やーっと来たのかよ、俺らのボスは。」
はっ……?
「ボス、迎えに来ました。」
「さっさと行くぞ!」
手を引かれた。
それは大きくて、優しい手に。
―!?
「き、桔梗っ…!?」
「ほほう…やはり5年前の姿のままですか。」
すると桔梗は、わたしを自分の後ろに隠すと、右手をスッと前に突き出した。
「では見ていてください。この時代の闘いかたを。」
「はっ?」
「バージョン6,0 毒花の盃」
何が起こったか、よくわからなかった。
彼の持っていた小さな円盤のようなものから、花がいっせいに成長していく。
それは恐ろしいスピードで。
「なっ…!!」
「ここは引きましょう。毒花はそうそう枯れません。」
けっきょく、状況がよく理解できないまま、わたしは桔梗たちに連行されてしまった。
―――……
「で、あなたたちは一体何者なんですか!?」
わたしは脱走に失敗し、どうやら桔梗たちの本拠地に連れて来られてしまった。
「まぁ、あなたが自分たちを知らないのは当たり前なんですが、やはり違和感はありますね…」
「質問に答えなさい!撃つわよ!」
堪えられなくなって、チェックメイトガンを取り出した。
「おやおや、まだバージョン1,0じゃないですか。」
「はぁ?」
なんで知ってるの?っていうか、あんたたち何なのよ!
「あなたたち、デストラクシャンの奴ら!?」
「失敬な。自分たちはディアモファミリーです。」
――――え。
「ディ、ディアモファミリー!?」
「はい。…で、あなたがディアモファミリー十代目のボスです。」
「はいぃ!?」
わたしが、ディアモのボス!?
「でもあの、十代目って確かボスが…」
「あぁ。楓のことですか?あれは、表の世界での話です。」
「お、表の世界?」
「あなたは、タイムトラベルしてきたんです。あれから5年後の世界に。」
しばらく、沈黙が続いた。
5年後?
5年後ってことはわたしもう21ぐらいよね、お年が。
ちょっと待ってよ。わたし制服のままだけど!?
「5年後の世界では、あなたはディアモファミリーのボスです。そして、雲雀恭平と骸六恭弥は、ソノオとメノオのボスになっています。」
待って、全然話についていけないんだけど。
「いいですか、この時代では3つの大きなファミリーがあります。ディアモファミリー、デストラクシャンファミリー、ダートファミリー。この3つが、大きな権力と力を持っています。」
ダートファミリー?聞いたこと無いな…
「ソノオとメノオは、ディアモから独立してできたそれほど規模の大きくないファミリーのことです。ソノオは基本、我々ディアモのボディーガードと言ったところでしょうか。メノオは、スパイ活動を多く行っています。」
「ですが今、問題になっているのは三大ファミリーと呼ばれている我々の関係が悪化していることです。」
「え…」
「簡単に言えば、三つ巴の争い、みたいな感じです。」
それ、ヤバくないすか!?
「なんでわたしをここに連れてきたの?」
「…5年前のあなたが、一番伸び盛りだからです。今のあなたが、チェックメイトガンを一番成長させることができる。」
「…そんなことより、抗争を止めたほうがいいんじゃ…」
「それは無理だっつーの。」
ザクロが言った。
「なんで?」
「もう手遅れだ。あのとき、デストラクシャンの初代が神風弾で撃たれたあの時から全ては狂っちまったんだ。」
わお。わたしのせい?
「あん時、お前らは初代を静めることはできなかった。そう春が言ってた。」
「こっちのわたしのことね?」
「あぁ。」
わたしがあのとき神風弾を撃ってなければ、未来が変わっていたと?
わたしのせいだと!?
「そんな無茶苦茶な…」
「はい。そうなんです。ですので、これからあなたをみっちりと訓練させていただきます。」
「へ!?」
「チェックメイトガンは、使いようによっては最強の銃になる。」
「は、はぁ…」
「この抗争で勝たないと、解決しない。それに、5年前にも戻れませんよ。」
ちょっと、それ困る。
「ちなみに、自分は桔梗。これはザクロです。分からないことがあったら、とりあえず聞いてください。」
どうやらわたしは、とんでもないことになってしまった。
5年後の世界に飛ばされ、その挙げ句知らない人に「お前はディアモの十代目」とか宣言された。
これ、文句言っていいわよね。