第二十二話 真実 〜デストラクシャン編〜
それは、唐突に起こった。
「な、なぜ……」
あまりの唐突な出来事に、わたしたちは見事に拍子抜け。
「リネが……ここに?」
慌てふためく骸六さん。わたしは、ただそれを見ていた。
「…あたしを知ってるの?」
わたしを見るのは、少し背の低い女の人。顔は、人形みたいに真っ白でとっても可愛い。
「あたしの名前は、なに?」
リネさんは、本気でわかっていないようだった。
だから、わたしはもう一度骸六さんを見た。
「リネ姉さん…!?」
ボスも、驚いている。
「あなたも、あたしを知ってるのね…」
そう言いながらそっと手を伸ばし、骸六の頬を触った。
「あら…?あなた、あたしと会ったことない…?」
その声を聞いた瞬間、骸六さんはその手を掴んで引き寄せた!
「リネ!」
――!!!
見ているこっちはびっくりだ。
いきなり、抱きしめたんだから。
「む、骸六さん!何してんですか!!」
「会いたかった…ずっと…ずっと、もうてっきり死んでしまったと…!」
何の話しをしてんだ!全くわからない!わかる奴がいたらここに来い。そして説明しなさい!
「春、雲雀、ここはいったん消えようか。二人きりにしてあげたいし。」
ボスが、そう言った。
わたしはまだ躊躇っていたが、雲雀先輩がスタスタと歩き出してしまったので、わたしもついて行った。
「リネさん…だっけ。ボスの知り合いですか?」
「彼女は…俺の姉さんだ…3年前に、デスキッドで撃たれたはずの…」
「じゃあ、もしかして記憶が…」
「まだ全部は思い出してないみたいだけど…確かに無くしてる。」
わたしは、硬直した。
まさかわたしの知らないところでそんなことが起こっていたなんて。
「骸六さんのことは覚えてたみたいですけど…」
「まぁ、二人にはいろいろ事情があるからね。」
事情って何!?めっちゃ気になる。
「探らないでやって。今は、再会を喜んでるんだから。」
ボスの目が優しくなった。
だからわたしは何も言わずに、雲雀先輩を見た。
「僕は他人になんて興味ないよ。」
「そうですよね…」
よかった。雲雀先輩も探る気は無さそう。
「でも、あいつ等が黙っているとは思えないな。」
「あいつ等?」
「情報収集部隊、アルマーノ。」
は!忘れてた!
「しかも姉さんは、人類最強のマフィアって言われてたくらいだし。アルマーノが放っておくとは思えない。」
「そう…ですよね…」
それもそうだ。だったら、ここにいたら確実に危ない。
「じゃぁどうするんですか?」
「うん…」
どうしよう。出てってくださいなんて言えるわけないし。
「その件は、また今度決めよう。」
「はい…」
わたしたちには、何もできない。そう思って、ボスと先輩を連れて別の部屋に向かおうとした時だった。
「宇都宮!!」
ビルの外から、そんな声が聞こえてきた。
「か…春日!?」
「宇都宮!俺たち、ディアモ側に付いていいって。」
「居町!?」
ビルの中に入りこんで来ようとした二人を、先輩が素早くトンファーを突きつける。
「どういうことだ?」
ボスも不思議そうに二人を見ている。
「どういうことよ。二人はアルマーノじゃないの?」
「そう。今までは、デストラクシャン側に付いてた。でも、数日前に、リネさんをさらわれて、アルマーノの組織も相当なダメージをうけた。」
「だからボスが、もうデストラクシャンに付かなくてもいいって。ディアモに行ってもいいって。」
二人は嬉しそうに笑っている。状況がまったく読めない。
いきなり味方になってやるぜ!って言われても信頼できるわけない。
それに、リネさんをさらわれてってどういう意味!?
「リネさんは、今までアルマーノが保護してたの?」
「そう。記憶を修復する作業をしてたの。だから、何も無いところからここまで取り戻したわ。」
春日がわたしの目を見ながら答えた。
「それは、どういう意味だい。」
ボスが、動き出した。
「あの日、リネさんはデストラクシャンのボスである男にデスキッドの呪い弾で撃たれた。それから、一時的に意識をなくした。」
「でも、リネ姉さんは血を流してた。」
「それも呪い弾による幻覚。」
「幻覚!?」
「そう。本当は、殺してなんかなかった。記憶を吹っ飛ばされていただけ。それを死んだと思い込んだあなた達は、あたしたちアルマーノに依頼した。」
「俺たちから依頼?」
「そう。あなたがボスになりたてで、何の判断もできない頃。あたしたちはディアモの雲雀剛平から依頼を受けたの。」
雲雀、剛平?
「そこにいる、雲雀先輩のお父さん。」
えぇえ!?なんか聞いたことも無いんですけどぉぉおお!!!
「彼に頼まれて、あたしたちは動き出した。そして、記憶を修復させる装置を作り、それを実行したの。」
「そこで邪魔をしてきたのが、デストラクシャンだ。あいつらは、俺たちがリネさんを預かってることを知ってた。だから、奪う気満々で俺たちに依頼をしてきたんだ。」
「ディアモに関する情報を集めろ。とね。」
居町と春日の話を聞いているうちに、段々過去の霧がはれてくる。
「でも、俺たちは断ることができない。だから、従った。」
「時には、やりたくない仕事も散々やらされたわ。それもこれも、あたしらのボスの判断が甘いせいでね。」
「だから、あたしたちはデストラクシャンの本当の目的に気づけなかった。」
「そうだな。あいつらの本当の目的は、あまりにも非道すぎる。」
二人が、顔を俯かせたまま、静かに言った。
「リネさんを使って、ディアモを消すつもりだ。」
「そう。リネさんは、使い方によっては兵器になってしまう。彼女の中に眠る、デストラクシャン初代の血が目覚めてしまったら…」
「―!?」
「それは、どういう意味?」
「ディアモのボス候補二人には、……デストラクシャンの初代の呪いがかけられている。」
「いつかどちらかの身体に自分の魂を宿して、全てのファミリーを手に入れるために。」
「それが、彼等の目的。そのためには、邪魔なディアモを早く潰す必要がある。」
「だからあたしたちは、それを阻止するために、もう一度戻ってきたわ。」
「今日から、情報収集部隊アルマーノはディアモに所属します。ボス、いつでも命令をしてください。」
二人が、目を輝かせながら言った。