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第二十話 過去の話 〜暗殺部隊編〜

「ボス…どうやら、春はとんでもない人だったようです。あの聖火弾を使いこなしていました。」


「初代と……同じか…」


「彼女は、俺たちを見事に変えました…。あの雲雀でさえ、春は特別扱いです。」


ボスは黙り込んだ。

戸惑いを隠すように。


「デストラクシャンから…何としても春を守り抜かないと、俺たちは…」

「わかってる。……二度と、繰り返さないために。」




「――……っつ!」

わたし、宇都宮春は只今先輩を相手に特訓中だ。

「かかってきなよ…春。」

「…っ!」

バカにしやがって!

―バン!


なんだか今日はチェックメイトガンの調子がおかしい。

威力が前よりも弱まってる気がする。

「ん…チェックメイトガンの威力、弱くしてるね…」

「わざとじゃないです!」

射程距離を保ちつつ、わたしはチェックメイトガンをもう一度撃った。


やっぱり、なにかおかしい……。



その時だった。

「春、雲雀、もう終わりにしてくれ。話がある。」

「ボス…?」

「ん…」


ボスはわたしたちに近づくと、チェックメイトガンに手を伸ばした。

「やっぱり…変わってしまったか…」

残念そうにチェックメイトガンを見るボス。

え、なにわたし悪いことした!?

「春…聖火弾を使ったんだって?」


「は、はい…」


「なら、そろそろバージョンアップすると思うから、些細なことでも気にしておいて。」


バ、バージョンアップゥ!?


「な、なんでいきなりバージョンアップするんですか!?」

「聖火弾に耐えるため、だよ。」


聖火弾?耐える?何の話だよ!

「聖火弾は、圧縮されたエネルギーが詰まってるから、銃本体が耐えきれずに壊れちゃうかもしれない。それを阻止するために、バージョンアップするんだ。」


え……。


「そもそも聖火弾は初代しか使えなかった弾丸で、滅多に見れなかったらしい。だから、春が聖火弾を使ったって聞いた時はビックリしたよ。」


わたし、そんなすごいことしてたんだ…


「っていうか、どうやってバージョンアップするんですか?」

「さぁ…わかんないや。なんせ俺も始めて見るし。」

「え……」


なんかすごい心配なんですけどー!

「まぁ、大丈夫でしょ。」

「い、いろいろ心配なんですけど…」

「そんな心配したって俺たちには何もできないし。待つしかないよ。」

その言葉には説得力があったので、黙り込んでしまった。

 わたし、本当にこれ持ってて大丈夫なのかな……。


「話は終わりかい。」

「あぁ。邪魔して悪かったな。」

「ボス、なんなら一生邪魔してくれてもいいんですけど。」


「春、どういう意味だい…。」

先輩、殺気こもってます!

「なんでもないです!」

訂正訂正…。

いやはや、怒りに触れたら暴走するからな、この人は…


「春、今いいですか?」

そこへタイミングよく現れた骸六さん。

「聖火弾を使ったときのことを、話してもらいたいんですけど。」

「あ、はい!」


聖火弾って、そんなに威力があるのかな…

わたしは、あのとき無意識に使ってたけど…


「骸六さんが動かなくなったときに、声がしたんです。聖火弾を使えって。だからわたし、無意識のうちに引き金を…」

「その声とは、誰の声ですか!?」

骸六さんがわたしの肩をつかんだ。

「おっ、女の人の声です!それ以外はわかりませんっ!」

わたしの肩からゆくりと手を放す骸六さん。


「…まさか……リネ…?」


リネ?

そこで、雲雀ストップがはいった。

「それ以上近づいたら、斬り殺すよ…」

わたしと骸六さんの間に入って、トンファーを構える。

おいおい。何を考えとんじゃ。

「骸六、お前最近変だぞ。少し休め。」

ボスがそれを眺めながら言った。

「ボス!でも…リネが生きてるかもしれないんだ!」

「リネは死んだ。」

ボスの一言に、骸六さんがはっと我に帰ったらしい。


「……くふふ…俺としたことが、こんなに乱されるなんて…ボスの言う通り、少し休んできます。」


去っていく骸六さんの姿を見ながら、わたしは唖然としていた。

今の骸六さんは、非常におかしい。

少し、怖かった。

「リネって…だれですか?」

わたしの質問に、ボスが固まった。

「ボス。」

「…まだ、言えないんだ。ごめんね。」

ボスもわたしから顔をそらして、自分の部屋にさっさと行ってしまった。

残されたわたしたちは、沈黙している。

 リネって、誰なんだろう…

「……わない。」

「え、あ、はい?」

先輩が何か言ったが、聞き取れずに聞き直す。すると、先輩はわたしの腕を掴んで、ソファーに連行。

おいおい、なんだよいきなり!


「先輩?」

「座って。」

言われた通りに座る。すると、先輩もその横に座った。

「肩。」

「え…っ!」

有無を言わさんとばかりに、先輩がわたしの肩に顔を置いた。

これは、もう熟睡しますよという合図。

それをわかっているわたしは、反抗するのを諦めてじっとすることにした。

「まったく……」

ため息をつきながらも、口元は笑っていたわたしであった。



そしてそんな二人を、扉の陰から見つめる人の姿が―…


俺は、さっき春になんてことを言ったんでしょうか…

リネのことは、もう忘れると決めたはずなのに、おかしいですね。


「骸六、どうした。」

「ボス…。あの二人、いつの間にあんな仲良くなったんでしょうね。」

「それ、本人に言ったら半殺しかもな。」


知っているのは、ボスと俺とリネだけの秘密。

そう。それは、3年前。



―――…


「リネ!なにやってるんですか!」

「あ、恭弥!やっと来たね!」

彼女は、俺のことを唯一名前で呼んでくれる人だった。

「早くそこから降りてください!危ないです!」

「心配性な奴ね〜。まるで楓みたい。」

そう。彼女は、当時ディアモファミリー十代目ボス。に、なるはずだった女。

「リネ姉さん!骸六!なんで俺を置いてくんだよ!」

こいつが、いなければ。

「楓!あたしの弟ならもっと強くなくちゃだめじゃない!あなたが十代目ボスにならなくちゃいけないんだから!」

「姉さんがボスでいいじゃないか…俺には、マフィアのボスなんて性に合わないよ…」

そのとき、ボスは俺と同い年。こんな奴がボスにならなくても、リネがボスでいいと、俺も思っていた。

でも、初代はなぜかこいつを選んだ。

俺は、それが気にくわなかったのかもしれない。

「楓、リネの言う通りです。もっと強くならないのなら、俺はいずれあなたを裏切りますよ。」

「む、骸六…やめてくれよ、そういうの…」

「俺は本気です。」


だから、こいつが大嫌いだった。

なのに、リネはいつもこいつの味方についた。

「こら恭弥!たとえ貧弱でも楓は次代ボスなんだから、そんなことしちゃだめよ!」

「リネには関係無いです。それに、俺は自分より弱い奴に従うつもりはありません。」

そう。俺は、俺が認めたリネにしか従わない。それは、このファミリーに入った時から決めていた。

「恭弥も、いつか最強のマフィアになっていつまでもあたしたちの側にいてくれるんでしょ?」

「…。」

「あー!なんで黙るのよー!!」


黙るさ。

だって俺は、リネの側にいると言った。

リネたちじゃない。リネ、だけだ。


「はぁ…まったく、おもしろい人ですね…」

「褒めてるの?馬鹿にしてるの?」

「馬鹿にしてるんですよ。」

「しっけいな!!」


そういう、仮にも楽しい日が続いた。

でも、それも終わりを告げたんだ。九代目のボスが死んでしまった、その日に。



「では、次代ボスはリネと楓が候補ということで。」

「いやしかし、九代目はなんと?」

「それが、遺書には何も…」


大人たちの会話。その中に、骸六も混じっていた。

「俺は、リネがボスになるべきだと思います。」

「骸六…なぜ、そう思う?」

「リネは、ボスになるべき教育を受けてきました。それに、戦闘能力も判断力もリネのほうがまさっています。」


俺の発言に、大人たちは黙り込んだ。

しかし、あの発言で全てが狂ってしまった。


「あたしは、楓がなるべきだと思う。」


そこに、俺たちが密かに開いていた集会に、リネが飛び込んできたんだ。


「リネ!」

「骸六、なんでそんな事言うの?楓だって同じ教育を受けてきたし、力もついてきた。それに、初代が選んだのは楓よ!」



―どうして、君はそこまでして…楓を護るんだ?


俺には、わからなかった。


「楓を次期ボスにすることに、あたしは賛成します。あたしがやっても、きっと継承者…真の十代目は現れないと思うから!」


―君は、どこまで馬鹿なんですか?


「うむ…リネがそう言うなら…」

「たしかに、初代はそう言っていたな…」


頷く大人たち。


俺は、成す術も無く、そこに唖然としていた。

なんで、俺が君を護ろうとしたのに、それを嫌だと言って突き放すんだ…

君は知ってるだろう?

ボスに選ばれなかった後継者がどうなるか。

その目で、見たんじゃないのか?


「リネ、では…三日後に。」

「はい。お世話になりました。」

リネは、頭を下げて、俺たちの前から去っていった。

「骸六、認めるんだ。これが、現実なんだから…」


その一言で、俺は狂い咲いた。

「ふざけるな……」

「え。」

「リネは、俺が護ります。リネから記憶を消そうと言うのなら、俺がそれを止めてみせます!!」


そう。


ボスに選ばれなかった後継者は、ディアモファミリーに関する全ての記憶を奪われる。

もちろん、俺のことも忘れてしまう。

そんなこと、させるか。


「骸六、やめてくれないか。」


それを、楓が止めた。


「お前に何ができる?実の姉から忘れ去られてしまう、哀れな弟。俺は、リネのためにも…」

「リネはそんなことをしても、嬉しくないと思うんだ。」

いつもより強気な口調に、俺の怒りはますます湧いてきた。

「そう言うお前が…一番リネを苦しめているんです!!」

俺は、左目を開眼させた。

「骸六、やめろ。」

その楓の声に俺は少し戸惑った。

いつもの弱気な楓の気配はない。目には、覚悟が。

「……っく!」

俺は、その同情の瞳に耐えきれずに部屋を飛び出た。


そして、無意識のままリネの部屋に。


「き、恭弥!?」


驚いているリネを見ながら、俺は泣きそうだった。

「リネ…俺はっ……」

「大丈夫?恭弥…?」

リネの優しさに、リネの香りに、酔っていたかった……。

「リネ、逃げましょう。二人で。」

「……嫌よ。お願いだから、あたしのプライドを傷つけないでちょうだい。」

「プライドなんてっ…」

「恭弥!落ちついて!」

リネが、俺の頬に触れた。

温かい手、思わずそれを握り返した。

「き、恭弥?」

「黙っていて…ください。」

そしてそのまま、顔を少しだけ近づける。

その時に、少しだけ触れた、唇と唇。

「…っ!!!」

焦っているリネを無視して、俺はリネを抱きしめた。

「恭弥っ…ちょ、苦しい!」

「嫌です。放したくない…」

「どこにも行かないから!」

「嘘です!」

ぎゅっと、締め付けてしまうんじゃないかというくらいにキツく。

これで最後だから、頼む。

「放したら…リネは行ってしまう…」

「………まったく、こういうときだけ後輩面してくれちゃって……。」


「大丈夫。記憶を無くしても、あなたの顔は体が覚えてるから。絶対、また密かに会いに来るね。」


リネは、泣いていた。

堪えながら、確かに泣いていた。

俺は、ただ強く抱きしめるしかできなかったんだ――……



そして三日後、運命の日はやってきた。


「では、今から儀式を始めます。リネは、前へ。」

正装を着込んだ大人が言った。

すっと前へでるリネ。その姿は、とても凛々しかった。

「リネ、何か言い残すことはないか。」

「では、一つだけ…。今まであたしを支えてくれた人に。」

リネは、俺のほうを見た。


「恭弥、今まで本当にありがとう!もう隣にはいられないけど、楓をよろしくね!」


――……!!!


俺は、強く拳を握った。

そしてリネを真っ正面から見つめて、頷いた。


「それでは、記憶を操作させてもらう。」

大人が一歩前へ踏み出す。

その様子をただ見守る俺たち。


「………バイバイ。」


小さく、リネが言った。

その瞬間だった。


―バァン!


鳴り響く銃声。




真っ赤に染まる、リネの左胸。



「リネ!」




俺は、ただ叫ぶことしかできなかった。



「この銃弾は、デス・キッドだ!」

「捜せ!!」

リネはピクリとも動かない。

どうして、こんなことに!


「骸六!しっかりしろ!」

楓が硬直している俺の肩を揺する。

でも、俺は無に近かった。

「リネ姉さんはまだ生きてる!!」

「――……!!」

その一言が、胸に突き刺さった。



生きてる?まだ、生きている?


「犯人はデストラクシャンだっ!捜すぞ!!」

「言われなくとも……」

俺の中に眠る化け物の封印を、今ここで解きましょう。

許さない。デストラクシャン…!!


「地獄大蛇っ…さぁ今その封印を解いてやりましょう…そして、デストラクシャンのボスを咬み殺してくるのです!」



その後、俺は結局デストラクシャンのボスを殺すことはできなかった。


そして、初めて実感した守りたいものを一瞬で失ってしまった。


だから、俺のこの気持ちは、俺とリネ、そして楓だけの秘密。


なのに、最近になってこの感情に似ている感覚に陥ってしまう。

多分春が、俺にもう一度チャンスをくれたんだと俺は思う。


「リネ……」


もう一度つぶやいた。

春の肩に頭を乗せている雲雀が、一瞬うらやましいだなんて思ってしまった。


必ず、デストラクシャンを倒してみせます。

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