第十九話 旧友との闘い 〜暗殺部隊編〜
「春に、何をしたんだい。」
「先輩には関係無いと思います。それに、もう手遅れですよ。」
その言葉に、雲雀が一瞬反応した。
「彼女は今、あの世とこの世の境にいますから。」
―あの世とこの世の、境…?
そんなものがあるんだ。
「春は、普通の人間じゃない。」
「いいや。彼女は、一生この世には戻ってこれないですよ。……聖火弾でも使わない限り。」
「…ねぇ、今春の話はどうでもいいよ。それより、僕は君を斬り殺さないと気が済まないらしい。」
「わぁお…おっかない…」
そうして、二人の戦闘は始まった。
高いスキルを持つ二人の闘いは、校舎をどんどん破壊していく。
それは、止められない。
それを止められるのは、この世に一人しかいない。
「くぅおらぁあああ!あんたらっ、何やってんだぁあ!!」
「―!」
「まさかっ…聖火弾?」
スパナの顔色がみるみる変わっていく。
わたしは、チェックメイトガンを片手に、静かに床に着地した。
「春、何やってたんだい。」
「いや〜こっちも大変だったんですよ。」
「俺の幻覚から抜け出した奴なんて、これで二人目だ…」
スパナは不思議そうにわたしを見ている。
「なぁに不思議そうな顔してんのよ。なんか知らないけど、幻覚でわたしを閉じ込めてくれちゃって。脱出するのがどれだけ苦労したと思ってんだ!人の身になって考えてみろ!!」
わたし、少し人と感覚ずれてるだろうか。
今、怒るところ間違えたわね。
「…ふふ。はっははは…これで楽しくなってきた。骸六よりも手強い奴が現れるなんて!」
スパナは嬉しそうにわたしを見ている。
え、ちょっと待ってよ。なんでここで骸六さんが出てくるの!?
「もしかして、知らなかった?骸六は、元々暗殺部隊にいたんだ。」
「な……」
「へぇ、骸六はやっぱり言ってなかったんだ。」
「何がよ…骸六さんには、骸六さんなりのわけがあって…」
「そんなの、知らないね。でも僕は、今のを聞いて、よけいに君を斬り殺したくなったよ…」
先輩、迫力はんぱない!
「二人とも、すみません…俺のことを、そこまで思っていてくれたなんて…」
ぴょこっと、横から現れた、骸六さん本人。
わたしは、いきなりのことに思わず雲雀先輩の制服の袖を掴んだ。
「む、骸六さん!その登場の仕方やめてください!」
心臓に悪いです!!!
「すみません…俺は真面目なつもりだったんですが。」
「っていうか、あの人の言ってること本当なんですか!?」
「本当ですよ。」
なんか、流れというかそんなもので軽く言われたけど…
すっごくディープな話なんじゃ…
「骸六じゃん。久しぶり。」
「…スパナ、相変わらずですね。」
「そっちも、お仲間がたくさんできてよかったな。」
嫌味か、本気で言っているのか、顔からは判断できない。
「骸六さんは、どうして黙ってたんですか!?」
「この時が来るのが、怖かったからです。」
―!!
だが、その直後わたしと雲雀先輩の目の前で、ありえないことが起こった。
「ぅわ!」
「ん…」
地面が割れたのだ。そしてその割れ目から、蓮の花がニョロニョロとのびている。
「二人は、離れててください。」
骸六さんの声が聞こえて、わたしは本能的に先輩の袖を引っ張りながら後ろに下がった。
「骸六、やっぱり強い。」
「スパナが弱いんですよ…」
その瞬間、骸六さんの左目から、スパナと同じように炎が灯る。
「変わってないね、骸六。」
―!!
地面が割れ、蓮の花が咲き狂い、スパナの身体を捕らえようとした。
が、次の瞬間。
「甘い。」
―ボォオ!!!
炎が割れ目から吹き出し、蓮の花を焼きつくす。
幻覚と幻覚の闘い。見ているこちらは、頭がおかしくなりそうだ。
「袖、放さないと斬り殺すよ。」
「わ!すみません!」
いつの間にか強く握っていた。
だってこれ、普通の人間じゃありえないことだよ…
「クフフ…やはりスパナは一筋縄ではいきませんね。」
「そっちも。」
炎、蓮の花、氷柱、そして極めつけは、骸六さんが召還した巨大な蛇。
これも幻覚なの…?
「春、雲雀をつれてここから出てください。二人がいては、本気で闘えません。」
「えっ…」
「これ以上幻覚を見ていると、二人の脳が影響されてしまいます。急いで。」
わたしは本能的にヤバいと思ったので、急いで校舎を出ようとした。
でも、雲雀先輩は石像のように動かない。
「雲雀先輩!」
「春は行きな。僕はここにいる。」
「これ以上ここにいたらっ先輩の身体が保ちません!」
「うるさいよ。」
先輩はわたしの腕を振り払った。
あぁもう!どうしろってのよ!!
「いい加減にしてください!」
「……なんで春が僕のことで必死になるんだい。」
―プチン
「あんたが心配だからに決まってんでしょうが!」
わたしが叫んだのと、同時だった。
「………くぁっ!」
骸六さんが吹っ飛び、壁に背中を強打したのだ!
「骸六さん!!」
「……春、これは幻覚です。」
「え?」
わたしが駆け寄って体を起こすや否や、骸六さんはそう言った。
「僕は、こっちですよ。」
「―!?」
天井に、骸六さんが立っていた。
「えっ…え!?」
重力を完璧に無視している。
すごい。
「逃げろと言ったはずです。」
「あの堅物はそうそう動きません。」
「クフフ…そうでしたね。」
骸六さんは、右手をこちらに向けてなにかつぶやいた。
「では、退場してもらいましょうか。」
「――…!」
なにが起こったか、よく解らなかった。
骸六さんの左目の炎が、大きくなったその次の瞬間、わたしたちは校舎の外にいた。
「どうなってんの…これ。」
わたしも先輩もその場に立ち尽くして動けなかった。
「…中は、中はどうなってんの!」
嫌な予感がして、わたしは校舎を見つめた。どうかなにも起こらないでほしい。
しかしその願いは叶わず、数秒後、けたたましい爆発音と同時に、空中に吹っ飛ばされている骸六さんの姿を見つけた。
「骸六さん!」
悲鳴のような声が出た。
「…ふぅ。やっぱり骸六は変わってないな…。最後に俺を始末しなかったのが、いけないんだ。」
「な…にを、したの?」
「幻覚じゃなくて、骸六自身を攻撃したんだ。」
――………!!!
何かが心の中で言った。
―骸六を、聖火弾で撃ちなさい―
「……………」
わたしは無意識のうちにチェックメイトガンに手を伸ばしていた。
「……なにする気だ?」
―彼の心を救うのです。聖火弾を使えば、それができる―
――――パンツ!
乾いた音と共に、炎に包まれた弾が骸六さんの額に当たった。
その直後。
動いていなかった骸六さんの体が、ピクリと動いた。
「骸六さん!」
わたしの呼びかけに、答えて。
「骸六!起きなさい!」
返事をしてよっ……!!
「……まったく、乱暴な人ですね…」
返事が、返ってきた。
「骸六さ……」
「そんな顔しないでください。あとで俺が雲雀に怒られます…」
「で、でもっ大丈夫なんですか?」
「俺を、誰だと思っているんですか。」
すると、ゆっくりと骸六さんが起き上がった。わたしは、それを側で支えるくらいしかできなかった。
「骸六、なんで…確かにとどめさしたはずなのに…」
「俺には、とんでもない人が付いているんです。死にたくとも、死ねませんよ。あの時と、同じように。」
「…!!」
スパナの顔色がみるみる真っ青になっていく。
なんだ。彼等には、一体どんな過去があったんだ…!?
「スパナ、俺を殺しきれなかったのが、あなたの敗因です。そして…輪廻の終わりです。」
「―!!」
蓮の花が、地面から突き出てスパナを捕らえた。
「堕ちろ…」
その瞬間に、蓮の花と一緒にスパナの姿も消えた。
「え…」
「彼は、あの世とこの世の境を越えた、冥界へ堕ちました…輪廻を繰り返さないよう、呪いもかけて…」
疲れきったように、わたしと雲雀先輩を見る骸六さん。
「つ、辛そうですけど…」
「はい…少し、眠ります…」
「え。」
わたしの腕を掴み、そして、わたしの肩にもたれかかりながら、骸六さんが眠ってしまった。
「案外…軽い…」
男の人なのに、なんて軽いんだろう。そう思っていたら、骸六さんの顔がふわりと浮き上がった。
「…触り過ぎ…」
雲雀先輩だった。
「雲雀先輩…一応、骸六さんケガ人…」
「知らないね。」
そして、ポイッと骸六さんを地面に捨てる雲雀先輩。
こ、この人の辞書に慈悲という言葉は無いのかっ!
「なに、それとも、群れてたいわけ。」
その声に、少し殺気がこもっていたので、わたしは苦笑いで誤魔化した。
「い、いや…そういうわけではないんですけど…」
「ふぅん…。気にくわないな…その顔…」
トンファーが、飛んできた。
「うっ…わ!」
「僕、そういうの…すごく嫌なんだけど。」
わたくしもこの状況すさまじく嫌なんですけどー!!
「まぁ…今日は特別に許してやってもいいけどね。」
「な…」(何様だこいつっ…!)
絶対、いつかバカやろうと叫んでやる!