第一話 波瀾万丈?どんと来いや!
「ひっ…雲雀さん!マジでこの女を入れるつもりなんすか!?」
「僕に逆らうの?」
「とっ、とんでもないです!」
放課後、わたし宇都宮春は16歳。特技、弓道。体術。
家が柔道の教室をやっている。くらいの、一般市民。
でも、わたしの目の前にいる方々は、一般市民では無さそうだった。
「あの…会長。これは何かの間違いですか?」
「間違いじゃない。僕はそんなことしない。」
じゃぁ、説明してくれよ。
この人たち、何?このガラの悪そうな人たちと普段一緒にいるの?
しかもなに?雲雀さんとか呼ばれてるの?
「ちょっと雲雀っ!この子どっから連れてきたの!?」
驚く、ちょっと優しそうな顔をした男の人。
わたしと同い年くらいだ。
「新しいメンバー。」
鉄棒で頭をこつんと叩かれて、紹介された。
え?新メンバー?なんの?何の!?
「雲雀さん!マジっすか!!」
「女だろ?どーせたいしたこと無いんじゃ…」
会長の隣にいた人が、ボソッとつぶやいた瞬間に、なぜかわたしに向かって鉄棒が振り下ろされた。
ブンッ!
と、間一髪でよけると、会長が満足そうに笑った。
「これで、証明できたよね。」
ゆ、油断も隙もできない…。
この男、完全にわたしのこと女として見てないよね?
完全に男としてみてるよね!?
これ、怒っていい所よね!!
「雲雀、わかってると思うけど、その子にマフィアやる覚悟あるの?」
「さぁ。」
「さぁって…あんた、無責任にもほどがある……!」
わたしが反論した結果、鉄棒がまた振り下ろされた。
わたしは、とっさに側に置いてあった気の棒で受け止めた。
「僕に逆らうの?」
「わたしはあんたの部下じゃないっ!」
この光景を、わたしの周りにいた柄の悪い人たちが口をポカーンと開けて見ている。
信じらんねぇだの、あの女最強だの、どっかのスパイだの、こそこそと話している声が丸聞こえだ。
「あんた、何者なんだ?」
さっきまで笑っていた、優しそうな男の人までもが、わたしに怖い目を向けている。
「え……」
「あんたは、どっかのファミリーか?」
「ふぁ?え?わたし、何もやってないです!」
両手を挙げて無実を証明するわたし。
「この僕が、普通の女を連れてくるとでも思ってたの?」
その発言に、みんなの視線がわたしに集まる。
「ボス、どうします?」
視線が、優しそうな男の人に集まった。この人の制服、見たことある気がする…。
「……まぁ、俺は別に構わないけど…この子の意志だな。」
そこで、またわたしに視線が集まった。ちょっと待ってよ。
まったく話についていけてない人なんだけど!
「あの、会長…どういうことか説明してくれませんか?」
「君、マフィアになるんだ。」
沈黙。
ま、マフィア?
マフィアってあの、暴力団で常に銃持ってて簡単に人を撃ち殺しちゃう?
あのマフィア?ってその他に何があるんだよっ!
「まぁ、ならないって言ったら無傷で帰れるかわからないけど。」
冷やっとした視線のもとをたどると、そこには会長の冷ややかな笑み。
そして、微かに感じる殺気。
「あ、ぁぁあの会長!?」
「なに?僕の意見に反するの?」
殺意を感じる。
この感じは、きっと、本気の。
「あの、雲雀先輩…?」
「なに。」
ひぃええええ、わ、笑ってるよぉぉお!
「あ、あの…」
「僕たちの仲間に入るだろう。」
鉄の棒が、わたしに向けられる。目は、「殺すよ」と言っている。
これは、わたしもしかして、超ピンチ!?
「……はぃ」
答えてしまった。
頷いてしまった。
もう後悔の連続だ。
「雲雀さんはんぱねぇ……」
「さっすが雲雀さん。女なんか一睨みで…」
「当たり前だろ。」
いや、いやいや!あんたら見てたでしょ!あの目!
あの恐怖!てか体験済みじゃない!?
「ねぇ、君。名前は?」
優しそうな目をした男の人が尋ねてきた。
「う、宇都宮、春。」
「じゃぁ、春ちゃん。今日から君は『ディアモファミリー』の仲間だ。」
「ディっ…ディアモファミリー!?」
聞いたことあるんだけど、それは、その、いい噂じゃない。
この地域を支配してるマフィアで、その勢力は警察以上で、ボスは人間離れした技使うって…。
「俺がこのファミリーのボス、楓だよ。」
「あ、はい…。」
「俺は、骸六恭弥。幻術使いです。」
なんだこの人。
背、高っ!つか、美形すぎるでしょ!?ってか幻術使いって何!?
「骸六さん…あの、なんていうか接近戦ですね。」
「ふふふ…俺は幻術使いなんですよ?いつなんどき、君を壊すかわかりません。」
あ、怪しい…。非常に怪しい。
「あはは…なんていうか、個性的な人ですね…ボス。」
後ろを振り返ると、にっこりとボスが笑っている。
ボボボボボス!?なんかいろんな意味で助けてほしいんですけど!
「春、行くよ。」
「えっ?え!?」
鉄の棒でわたしの背中をトンと押す雲雀会長。
なんでわたしなのか、よくわからないけど。
「あの、雲雀先輩?」
「僕に指図する気かい?」
息のつまる空間。
会長の隣になんて、絶対にありえないとおもっていたけど。
まさかこんな形で、ねぇ…。
「あの、会長…」
「なに?」
「会長はあの中で何番目に偉いんですか?」
地雷ワードだった。
彼の脚が、ぴくりと止まった。
「なんて?」
「いや、だから、何番目…」
「僕は一番だよ。誰の指図も受けない。」
「つまり、ボス以上だと。」
「あぁ。」
鉄の棒をわたしの背中に突きつける雲雀先輩。
わたしはその時感ずいた。
そうかわたし、胆が据わっているのではなく、ちょっとおかしいのかもしれない。
普通だったら、泣き叫んでるよね、この場合。
「先輩、そんなに人ビビらせて楽しいですか?」
「楽しいよ。これが僕の趣味だから。」
あ、悪趣味だ!
全力で引かせてもらいます!
わたしが、逃げようとしたときだった。
「ゔぁぁあい!雲雀ぃ!この日を俺は待ってたぜぇえ!!」
なに、なにこの人!?
後ろから、何か飛んできた。
多分、矢?でも、わたしが普段使う矢よりも、かなり危険だ。
「雲雀ぃい!てめぇの息の根を止めてやらぁ!」
「君、少しうるさいよ。」
雲雀先輩が何かを投げた。
なんだろうと見ていると、それは空中で爆発した。
「えぇええ!?」
「邪魔だ。」
先輩が鉄の棒でわたしの背中をどついた。
そのおかげでわたしは見事なしりもちをつき、難を逃れた。
「言ったはずだよね。僕は、僕より弱い奴に興味無い。」
その言葉を聞いた瞬間、何かがぷっつんといく音がした。
「てめぇ、相変わらずその余裕面、見れば見るほどムカつくぜ。」
「クフフ…雲雀くん、水臭いですね。こんな所でドンパチやるなら、俺も呼んでくれたら良かったのに。」
わたしの後ろから、ヌッと誰かが現れた。
もしやこの気配はっ…!
「ひゃぁ!」
情けない声をあげた。
だって、コンクリートがいきなり割れだしたんだもん。
「これは幻だよ。いちいちビビらないでくれない。うるさいから。」
その一言かなり心に突き刺さるんだけど、ちょっと人の気持ち考えてくれない…!?
「ゔぉおい!てめぇ!3対1って卑怯じゃねぇか!?」
「わたしも混ざってんですか!?」
わたしが一人で慌てていると、誰かが私の肩をガシッと掴んだ。
「大丈夫ですよ。彼は雲雀に比べればただの虫ですから。」
この人、人間を虫レベルって言いましたよ!なんかとんでもないこと言い出しはじめたよ!
「ねぇ、いつまで僕に付きまとう気?ボコボコにされないと気がすまない?」
雲雀先輩。怖すぎる。
「雲雀、そのトンファー2本で一体何ができるっての?」
「うるさいよ骸六、それとそこのお前も、いつも僕の邪魔をする。君ら…殺されたいの?」
「ちょっと雲雀、その無愛想なんとかしてください。」
この二人、目の前で敵が刀振り上げてるのに、よく呑気に喧嘩してられるな。
「ちょっと雲雀先輩!それと骸六さんも!なぁに呑気に喧嘩してんですか!」
「喧嘩?誰が?」
雲雀先輩も骸六さんも、完全に敵を無視している。
「じゃぁ、とりあえず君は危険だから下がってたほうがいいよ?」
にっこりと笑う骸六。でもその目は、怪しく光っている。
「じゃぁ、行くよ。」
骸六さんが、強く目を瞑った。
すると、周りに一斉に椿の花が咲いた。
「幻覚?本物?」
「春、こんな奴かまってないで、行くよ。」
「え?行くの!?」
腕をガシッと掴まれて、そのまま引っ張られるわたし。
「珍しいですね。雲雀が女の子を連れて歩くなんて。」
「うるさい。」
相変わらず無愛想で、とっても乱暴な人だけど、でも、もしかしたらちょっといい人?
「何見てるの?殺すよ?」
「滅相も無いです!」
バッと顔を反らして、ついでに手も振り払う。
「…あの、俺のこと忘れてませんか?」
「忘れてたよ。記憶から。」
いや、やっぱり嫌な人だ。怖い人だ。
わたし平気なのかな、こんな人と一緒にいて…。
「春はもう家に帰ったほがいいですよ。この虫は俺がなんとかしておきますから。」
「骸六さん!大丈夫なんですか!?」
「余裕ですよ。」
彼の目は、ちょっと怖い。見てると変な気分になってくる。
「じゃぁ、また明日学校で。」
雲雀先輩はわたしから目を反らした。
そのまま、スタスタと歩いていく雲雀先輩。
なんか今日は、どたばたな一日だったな、おい。