第十七話 独占欲の塊 〜暗殺部隊編〜
爆風がわたしを襲った。これは本気でヤバい。こりゃあ死んだ。そう思って、意識を手放したんだ。
「…る……春。」
聞き覚えのある声で、目を覚ました。
「……雲雀先輩?」
起き上がろうと腕に力を込めたが、全く力が入らない。
何があったんだ?
「あれ…人形だったらしい。」
先輩の目線の先には、壊れて粉々になった人形。
そうか、あれが爆発したのか。
「先輩…怪我は…」
「僕は無いよ。」
「そうですか…よかった…。」
頭がクラクラする。
あーマジ気持ち悪い……。
「人の心配するより自分のこと考えたほうがいいと思うよ。」
「そうかもしれませんね。」
寝っ転がったまま、わたしはぼーっと宙を見た。
まさか相手が人形だったなんて…っていうか人形でこの強さって…
「はぁ…」
溜め息も出るっての。
「春はまだ寝てるといい。僕も少し眠る。」
「えっ…」
軽くわたしの頭に手を乗せながら、雲雀先輩はわたしの隣に座る。
「なに見てるの…斬り殺すよ…」
出た!先輩の脅し文句!
「何でもないです。すみません。」
少し笑いながら言った。そう言う間に、先輩は寝っ転がる。
「あの、先輩…」
「ん…?」
突っ込んでいいか?
あんた、顔近いんだよ!無駄に近いんだよ!!
「なに?」
寝返りをうったせいで、先輩との距離がさらに近くなった。
これにより、わたしの心臓および全身が100のダメージ。戦闘不能です。
「なんでもないです…」
「そうか…」
先輩は寝てるんだろうけど、わたしは起き上がりたくても全然身体が動かない。
ちっくしょー…さっきの爆発はさすがにびびったわよー…
「…ん」
―グイ!
えっ…
「ちょっ、先輩っ!?」
これはヤバい。
何でこの人、寝ぼけて人を抱き枕にしてんだこらぁああ!!
ちょっとこの状況、まじでヤバいよ。
先輩は寝ぼけているのかそうでないのか、わたしの頭を枕のように抱いている。
わたしの視界いっぱいに先輩の制服。
ドクドクと自分の心臓がうるさい。
「動くな…」
上から聞こえた、先輩の声。
「で、でもちょっとこれっ…」
「黙らないと、斬り殺すよ…」
更に先輩の腕に力が入った。そのせいで、わたしの上半身は先輩と密着状態。
これ、心臓がもちませんてばー!!
「春、こんな細かったんだ…」
「へ!?ふっ、普通ですよ女子なら!」
「ふぅん…」
そう言いながら、先輩はまた眠りにつく。
待て待てぇい!このまま寝るなぁ!!
「はっ、放してくださいっ!」
「嫌だね。」
「なっ、なんでですか!?」
「放したら、またどこかへ行くだろ…せっかく捕まえたのに。」
―な
なんですってぇええい!?
わたし、ついに獲物扱いされたのか!?てかなんの獲物だ!
「し、知らないですそんなの!」
離れたいけど、傷が痛むし動けない。
もう…最悪。
「……僕は、君のような奴は苦手だった。」
―へ?
「でも、最近になって、なんか……」
言いかけたまま、先輩はまた眠ってしまった。
でも、ちょっと待ってよこれ。
先輩。なんで群れるのが嫌いとか言ってたくせにわたしに絡んでくるわけ?
なんで今、こうして抱き枕にしてるわけ?
ねぇ先輩。
あなた、わたしに恋してるんですか?
「…言い逃げ野郎が…」
先輩のシャツを強く握りしめて、わたしも目を閉じた。
先輩の心音が微かに聞こえてくる。それが子守唄のように聞こえてきて、いつのまにか眠ってしまった。
――……
僕は、さっき春に何を言おうとしたんだ。
馬鹿馬鹿しい。僕は誰とも群れない。そう決めたはずなのに、何で今、春をこうして抱きしめているんだ?
おかしい。最近の僕は、僕でなくなっている。
早く、もとの僕に戻らないと。
自分を、見失う前に。
だからせめて、せめて今だけ、こうしていよう。
春が目を覚ますまで、こうして強く握っていよう。この、小さな春を。
「ん…?」
「起きた…?だったらとっとと離れてくれない。」
僕がそう言うと、春は顔を真っ赤にさせて僕から離れていく。
いつのまにか春も僕のシャツを握っていたらしい、少ししわになっている。
でも、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
「僕は教室に戻るよ。」
「は、はい。じゃぁ、わたしも行きます。」
ニッコリと笑って、僕を見る春。
その笑顔を見て、僕の中で何かのスイッチが入った。
この気持ちは、今まで体験したことがない。
渡したくない。誰にも。
その笑顔を、僕以外の人間に見せたくない。
なんだこの感情は。こんなの、僕の生活の邪魔になるに決まってる。
早く忘れないといけない。
なのに、どうして消えない。
どうして、春が欲しいだなんて思ってしまう。
「先輩?どうしたんですか?」
だったら、手に入れればいいね。
「春、しばらくの間、僕以外の奴にそんな顔みせたら、斬り殺すからね…」
「はいぃ?」
春の笑顔は、僕だけのものだ。
誰にも渡さない。