第十六話 風使いとダイナマイト 〜暗殺部隊編〜
ところでみなさん、そろそろわたし、進級です。
本当に唐突ですが、進級なのです。
嬉しいんですが、ちょっと怖いことがあります。
それは、高2のフロアと高3のフロアが、同じなのです。
つまり?
ほんの100メートル先に、あのトンファー野郎がいるわけです。
それってつまり?もし二人でいると、噂が速攻で流れるということなのです。
最近は敵も多いし、安心して登下校もできないのに、悩みの種を増やすなこの野郎と言ってやりたいですが、さすがにあの堅物にはいえません。
だからわたし、最近先輩を(自分から)避けてます。これ以上迷惑をかけたら、いつかわたしが先輩の手によってこの世から消えます。
ってなわけで、本日はクラス発表の日。できれば、3年生の教室が隣にある4組には入りたくない。
のに。
「あ、宇都宮ー!司とあたしと同じ4組だったよー!」
「知っとるぁー!ボケェー!」
「ちなみに、雲雀先輩は1組なんだって。クラス隣だね。」
耳元で囁く春日。
超、うざい。
「よかったわねー。」
「何が?わたし逆にブルーなんですけど。」
「あらー、見てるこっちはすごく楽しいわよ。」
あんたらな。マジでいっぺん死ね!!
「でも、司はあんまり嬉しくないみたいね…。」
春日が居町を見る。その時にわたしはつくづく思う。
彼女ら、本当にわたしの敵なんだろうか、と。
あの二人はアルマーノだ。アルマーノ、情報屋は雇い主のためならなんでもやる残酷な組織。
情報を収集するだけではなく、暗殺や裏ルートでの交渉。そして、人材を集めるための金を奪う。
どこからか?それは、雇い主が命令したところから。
というのが、わたしたちディアモが知っているアルマーノの情報。
でも、漏れてる情報はこれくらいしかないから、今はこれで精一杯。
もし、二人がアルマーノを裏切ってわたしたちの味方になってくれたら、すごく助かるんだけど。
「宇都宮?」
気がつくと、春日がわたしの顔をじっと見ていた。
「あ、なんでもない。」
「ふぅん…」
春日はまだ怪しげな顔でわたしを見ているが、わたしはそれを無視して教室から出た。
気まずいな…やっぱり。
壁にもたれて、ゆっくりと前を見る。
はぁ…
ったく、最近になって問題が増えはじめたんだよ。
アルマーノでしょ?暗殺部隊でしょ?あと、ディストラクシャンだっけ?そんなのもいるし…。
わたし、普通の生活には戻れないのか?
ごくごく普通の、一般市民に。
「…そこで何してんの。」
顔を上げて前を見ると、そこには雲雀先輩がいた。
「先輩、いっつもいきなり現れますよね…」
「文句あるかい?」
「ないですけど…」
口ごもるわたし。
目線は、また下に向く。
「顔、あげて。」
「えっ…」
先輩がわたしの顎をつかんでクッと上に持ち上げた。
それだけなのに、わたしの心臓はオーバーヒートしてしまった。
「せっ、先輩?」
「なんだい…?」
あの、ごく自然にそういうことをするのは、やめてもらえませんか!!
心の中で叫ぶ。まさか本当に言えるわけもないので、わたしは必死で逃げ出しそうになるのを堪えていた。
「なに赤くなってんの…?」
「い、いや…別に…」
てんめぇ、今笑ってたら絶対にキレる!!
そう思って先輩の顔を見たら、やっぱり笑ってなくて、無表情でわたしを見てた。
「なに?」
「なんでも、ないです…」
顔を反らす。すると、教室の窓からわたしたちのことをじーっと見ている外野の方々と目が合った。
そこで、静まり返る廊下。
そして聞こえる、冷ややかな噂。
「くっついたわね…」
「やっぱり、そういう感じだったのね…」
「邪魔しちゃ悪いわ、とっとと退散しましょう。」
「きーっ!雲雀さんを独り占めなんてずーるーいー!」
最後の人は、先輩のファンクラブの方でしょうか。
やばい。これは最高潮にやばい。
早くこの噂をかき消さなければ!!!
「じ、じゃぁわたしはこれで。」
「…ん、どこ行くの。」
「お、屋上…かな、なんて思ってたり…」
「…偶然だね、僕も行く。」
絶対に偶然じゃないだろうがー!!
心の中で、再び叫ぶ。
気のせいか?この人最近S化してるぞ!本人意識ないかもしれないけど、S化してるぞ!
「はい…」
渋々階段を上がる。
屋上のドアを開けた瞬間、風が勢いよくわたしの真横を駆け抜ける。
「風強いですねー…」
「ん、誰かいる…」
「え?」
先輩がわたしの横を通り過ぎて、スタスタと歩いていく先輩。
なになに!何を見つけたの!!
後を追って屋上に入ると、その瞬間に何かがわたしの頬をかすめた。
「せんぱっ―…!!」
前を見ると、一人の男がいる。
その横では、先輩がトンファーを構えて襲いかかる寸前だ。
「ったく…ディーノはこんなガキ共に手こずったのか?ありえない…」
なんだこの余裕面かましてる男は…。
「えーっと、宇都宮春だっけ?とっととアルマーノの基地まで来てくんないかな?」
「な、なな…なに、あんた…!?」
パニックになってもいいでしょうか。
目の前に、あの時の、ナイフ野郎と同じような格好をした男が。
これ、まさかの展開?もしかして、こいつも暗殺部隊!?
「ディーノもなっさけないよなー。んなガキ共にやられるなんて。」
ちょいちょい、待ちなさいあなた。
「俺の名前は燕。よし、自己紹介も終わったし、とっとと済ませるぞ。」
そう言うと、燕は目を閉じた。なんだ。一体なにをしようとしてる。
一歩後ろに下がった。その瞬間、屋上に落ちている木の葉が竜巻に巻き込まれたかのように浮かび上がる。
「なに…これ…」
「俺は、風使いだから。これくらい簡単なんだよ。…じゃ、宇都宮春、行くよ。」
わたしかい!!
そう思ったが、諦めてチェックメイトガンを引き抜き、一発撃った。
弾は確かに命中した、はずなのに。
「無駄だし。」
「なんで!?」
「俺は、そんな弾じゃ意識飛ばさないよ。」
どういうこと!?
わたしがパニックしてる間に、雲雀先輩は燕に攻撃をしかけた。
が、なにかおかしい。
何かに侵入を邪魔されているかのように、燕に近づけない。
なにか、ある。
目をこらしてよく見る。
「―!!」
わたしは屋上の、給水タンクの上によじ登る。
「やっぱり、風の壁だ。」
上からだったらよくわかる。奴の周りには、風の壁ができてる。そんせいで、近づけなかったんだ。
上からだったら、狙える。
「あれ?宇都宮春がいない…」
「よそ見してる暇があったら、かかって来なよ。」
雲雀先輩も負けじと奴を壁から引きずり出そうとする。
でも、燕も馬鹿じゃない。その中にこもって、動かない。
「ったく、逃げたのか?しゃーないなぁ…じゃぁ、まず雲雀恭平からでいっか。」
すると燕は、とんでもないものを取り出した。
そう。ダイナマイト。
「へぇ…そんなもので僕をやる気かい?」
「余裕だなぁ…おい。」
二人の会話を聞きながら、わたしはしっかりと狙いを定めた。
奴は、自分の上にも風をまとっているが、薄い。もし外れたら、より強化されてしまう。
くそっ…なんでこれサイレンサー付きじゃないんだよ。
「じゃぁ、死にな…雲雀恭平っ」
ああだこうだ考えているうちに、燕がダイナマイトを投げた。
でも、投げた方向も全く先輩とは逆の方向。何を考えてんだ、あの人は。
「―!」
先輩が何かを直感したのか、その場からジャンプする。
その瞬間に、先輩がいた場所で爆発が!
「風は、どこにでもながれる…」
そう言いながら、燕がまたダイナマイトを投げた。
「ん…」
わたしはそれを上から見ながら、ようやく気がついた。ダイナマイトを投げた瞬間に、燕の周りにある風が先輩のいる方向に流れている。
「…よし」
わたしは、賭けに出た。
「燕!わたしはここだ!」
給水タンクの上に立ち上がり、叫ぶ。
「あれ?いつの間に。でもまぁ、自分から出てきてくれてありがとう。」
そう言いながら、奴はダイナマイトをわたしに向かって投げてくる。ありがとう。予想通り。
「雲雀先輩!今ならいけます!」
ダイナマイトが、すごい早さでこっちに来る。ちくしょう、間に合わないかもっ
「なに言って…!?」
―ガツン!
燕が、意識を失った。その後ろには、トンファーを構えた、先輩が。
「春、早く降りてきなよ。」
「わかってますっ…!」
降りたいんだけど、ちょっとここ高いかもっ!
「やっばっ」
避けきれなかった。だから、わたしの目の前でダイナマイトが爆発した。
―バァン!!
爆発音とともに、軽々しく吹っ飛ぶわたしの身体。これはちと、まずいぞ!
下を見ると、先輩が悠々とわたしを見ている。
思わず、チェックメイトガンに触れた。
そして何を思ったのか、その引き金を引いた。するとっ―!
「え…?」
発射された弾は、コンクリートにあたった。その瞬間に、わたしの身体がふわぁっと浮く。
「あ…れ?」
そのまま、静かに着地。
なになに、今の。
「春、なにしてんの。」
「え、いや…なんでもないです…っていうか、あの人、どうします?」
「知らないね。…それより、僕は少し眠るから邪魔しないでな…」
その場にバタンと寝っ転がる先輩。
ったく、本当に自由人だなぁ…
ため息をつきながら、わたしもその隣に座る。
そのとき、先輩が寝返りをうった。その拍子に、先輩の手がわたしの腰の辺りに触れる。
「…?」
わたしが不思議そうな顔をしていると、先輩がわたしのブレザーを少しつまんだ。
行くなって、ことか?
「ったく…」
先輩の後ろの方でのびている燕を哀れな目で眺めつつ、わたしはもう一度先輩を見る。
フッと、笑みがこぼれた。その瞬間だった!
カタカタカタカタ…
後ろから、なにかの音がする。
カタカタカタカタカタ…
まるで、人形が動き出すような音。なに、なんなの!
悪寒がして振り返ると、そこにはまるで人形のように立ち上がる燕の姿が。
「何これ!」
わたしは急いで立ち上がり、また一発撃つ。しかし、それは彼には効果がない。
「さすが…だ…俺の…人形を…ここまで破壊した奴は…見たこと…なかった。」
人形?
「だが…完全に破壊しなかったのが…お前たちの…ミスだ。」
えっ
「また…会おう」
バァン!!
人形が、わたしの目の前で大爆発を起こした。