第十五話 裏側の世界 〜暗殺部隊編〜
「春ちゃん、その話本当?」
放課後、わたしは骸六さんと雲雀先輩と一緒にビルに集まった。
「それは多分…アルマーノの暗殺部隊だね。とうとう動き出したか…」
「あの、アルマーノって情報屋じゃなかったんですか?」
「表向きはね。裏じゃ暗殺とか色々やらかしてるらしいよ。」
ボスは淡々と答える。わたしはさっきの出来事をよく思い出していた。
確かに、あんなこと普通の人間ができるはずないよな…
っていうことはやっぱり暗殺部隊なのかな?あの男が?
「春ちゃんを襲ったのは、きっと暗殺部隊の中で一番戦闘知識のある¨ディーノ¨だ。ナイフ使いだしね。」
ディーノ…ははん。一番戦闘知識がある?まさか。あいつわたしと歳変わらなさそうだもん。
「暗殺部隊に年齢なんか関係ないんだよ。強ければ偉くなれるから。」
ボスはわたしの心をよく読んでいた。
「そう…なんですか…」
「でしょ?骸六。」
「はい。」
わたしの隣で渋い顔をしていた骸六さんが言った。
「なんで骸六さんが…?」
「時期が来たら、話しますよ。」
にっこりと笑う骸六さん。わたしはそれ以上追求するのを諦めてもう一度ボスにむき直した。
「でも、どーしてわたしがあいつらに狙われなきゃいけないんですか?!」
「チェックメイトガンを使えるからね。貴重な武器だよ。あいつらから見たら。」
ボスはため息まじりで言った。あの、わたしも一言。わたし、武器扱い?
え?人間じゃなくて武器扱い?そこ酷くない?心の傷は、そうそう消えないんだよ。
マジで今、傷ついたよ。ちょっと。
「チェックメイトガンについての秘密、もっとよく教えておくべきだったかもしれない…」
ボスは顎に手をあてて考える。
そして、決意したのかわたしを真っ正面から見る。
「春ちゃん。俺の部屋で話そう。盗聴器が仕掛けられない場所だからね。」
そう言うと、ボスはわたしの前を通り過ぎていく。わたしもボスを追って歩く。
部屋につくと、鍵を何重にもつけて、何度も確認をしてから、ボスがゆっくりと話しはじめた。
「チェックメイトガンっていう物は、今から約100年前に俺たちの初代ボスが使ってた物なんだ。そして初代は、チェックメイトガンの他にも、もう一つ銃を持っていた。それが『デスキッド』その銃はチェックメイトガンとは全く正反対の働きをするんだ。つまり、負の気持ちが原動力で、人の記憶を消すことがある。その銃をデストラクシャンのボスが持ってる。そしてあいつらの目的は、二つの銃を手に入れること。」
そこまで聞いて、わたしは質問をした。
「その二つの銃を持つと、どうなるんですか?」
「マフィア界では、きっと最強になれると思う。あの二つを合わせるのは、あまりに強力で危険だ。…話の続きをするよ。二つの銃を手に入れた奴は、一体どうすると思う?」
「それを使って、きっとなんかヤバいことを…」
「そんな甘ったるいもんじゃない。その銃がデストラクシャンに渡ったら、きっとディアモもディアナも、アルマーノももちろん、全てのファミリーを手に入れることができるんだ。そんなことになったら、警察なんかじゃ止められない抗争が、いろんな所で起こる。それは、惨めなね…」
ボスの話を聞き終えて、わたしはチェックメイトガンをブレザーの内ポケットから取り出した。
「まさかこれが、そんなことに関係しているなんて…」
「だから、今日ディーノに襲われたって聞いて、少し焦った…。いいか、春ちゃん。その銃を絶対に他人に触らせないで。これは、お願いじゃなくて、ボスとしての命令だよ。」
ボスの真剣な目に、わたしは思わず強く頷いた。
「頼んだよ、春。」
「はい!」
あぁ。いつの間にやらボスまでが呼び捨てだ。
まぁいい。まぁ気にしないでおこう!
「わたし…もっと、強くなったほうがいいかもしれません。」
「そうだね。」
「だから、あの人で特訓してきます!」
わたしはそう言って、南京錠を外して部屋から飛び出た。
「…あの短時間で8つの南京錠を全部解いた…?」
春が出ていった後、俺は少しあぜんとしていた。
俺が南京錠をかけた時に、確かに閉めたはずなんだけど…
春が外した南京錠を見てみると、それは無傷だった。
「あの子、すっごいなぁ…」
自然と口の端が上に吊り上がった。俺はどうやら、初代を甘く見ていたらしい。
彼女は、普通の女子とは、全く違うようだ。
「ボス、今いいですか?」
扉の外から、骸六の声が聞こえた。
「あぁ。いいぞ。」
俺は彼を部屋の中に招き入れた。
「…ボス、彼女は本当にすごい子ですね。」
「今度は何やったんだ?あの子は。」
「雲雀に『特訓しましょう!』って挑んだんですよ。」
「ぷっ…やると思ったよ。」
俺は椅子に座って、骸六を見る。その時に気づいた。こいつ、やっぱり過去のことを気にしてるんだなって。
「お前が暗殺部隊にいたことは、話さなくてもいい。奴らが言わなかったら、春は気づきやしないよ。」
「そうですか…?」
骸六は、こんな時だけいやに真面目になりやがる。
「別に俺は気にしてない。まぁ、雲雀がこのこと知ったら半殺しかもね。」
「違います。ボスは、俺のことを信じているんですか?」
―?
「信じてるけど?」
「…そうですか。スパイとか考えたことないんですか?」
「ないよ。あったらとっくに追い出してる。」
俺は、少し甘いかもしれないな…。
「んなこと気にしてる暇があったら、ちゃんと自分の仕事しろよ。」
「…はい。」
骸六はそう言って、部屋から出ていった。
自分で言ったけど、骸六の仕事って、相当大変かもな…
普段は絶対に開けない、初代の残した手紙の入っている引き出しを開けた。
【十代目の君へ】
君は今、ディアモの十代目ボスであろうか。ならば、わしの言葉をよく頭に入れておいてほしい。
未来は、いつか暗黒に閉ざされるであろう。その時代が、訪れるだろう。
しかし諦めてはいけない。お前の側に、3人の若者が現れるだろう。その若者達の面倒をみてやってくれ。
一人は『継承者』。もう一人は幻術師。そしてもう一人は、選ばれた者だ。
この世で、わし以外で唯一チェックメイトガンを使うことができる娘。
その者たちに、ディストラクシャンと関わらせてはいけない。封印が解かれれば、また抗争が始まってしまう。
いいか、十代目の君よ。
娘を護るナイト―騎士―として、わしはその少年達を選んだのだ。
その者たちを、ディストラクシャンのボスである奴の前にさらしてはいけない。
護るのだ。命をかけて。
闇を照らし続ける光を、護るのだ。
十代目の君よ。
「無茶言ってくれるねー…初代さん…」
はぁ…と、ため息がもれる。
しかし次の瞬間には、そのため息を吹き飛ばすくらいの爆風が!
「雲雀!春!やりすぎ!!」
「だって先輩ったら全然手加減して…ぅきゃ!」
「…話してる暇があるなら、かかってきなよ。」
ありゃぁ〜…雲雀マジだね。
「ちょっとは手加減してあげなよ。」
「うるさいよ…ボス。」
おっと。こっちにまで火種がっ!
「春!いつでも俺は手伝いますよ!雲雀をぼこぼこにするんですよね?大賛成です!!」
骸六も元気を取り戻したのか、この訓練に参加しようとしている。
俺は、もう一度ため息をついた。
俺は、とんだガキ共のお守役にかってでてしまったようだ…。
「―ちょっと!雲雀先輩ぃぃい!!ビルが壊れるー!」
「関係ないね…」
ちょっと、教育が足りないかな…。