第十二話 変わりだした敵 〜アルマーノ編〜
「ディアモ、成立したのは今からおよそ100年前。初代ボスの名前は未だ不明。しかし、ディストラクシャンと抗争した後、死亡が発覚。しかし、当時チェックメイトガンの行方は不明。ですがここ数日、宇都宮春という娘が持ち歩いているところが目撃されています。」
『はっ…ついに現れたのか、選ばれた娘が…』
「この娘には、未発覚な過去が数多くあります。まず、今の両親は義理であるということ。本当の親の行方はわかっておりません。しかし、ディアモと深く関係していることには間違いありません。」
『ふっ、準のやつ…必死に逃げ回っても無駄だということを教えてやる…おい、アルマーノ、宇都宮春とその両親についてもっと情報をもってこい。』
「はっ。」
俺たちアルマーノのボスが、報告部屋からでてきた。
俺、居町司はその時を待っていた。
この前は、俺あんなに壊れかけてたからな…せめてでも、恩返ししないと。
あの作戦は、やっぱり酷すぎる。
「ボス」
「ん…どうした、司。」
疲れた表情のボス。
俺は、そっと近づいた。
「あの、宇都宮春についての情報ですが…」
「あぁ。わかってる。」
なにを、わかっているんだろう。
「彼女は、初代に選ばれたんだろ…?さっき、主がつぶやいてたからな。」
「はい…」
俺は、拳を強く握った。
どうして宇都宮は、初代に選ばれたんだろう。もし選ばれなければ、普通の女として普通の生活を過ごせたのに。
「なんだお前…宇都宮春に惚れたか?」
「ちっ、違います!!」
「はっは…青春だなぁ。」
そう言いながらボスは去っていく。その後ろ姿を目で老追いながら、俺は下唇を咬んだ。
「どうしたのよ、司。」
「…!!春日か、驚かせんなよ。」
「別に驚かせたわけじゃないわ。ただ、あんたの行動が気になってね。」
そうか、春日は気づいてたか。
「俺さ…主について、ちょっと調べたんだ…」
「あんたも…か。あたしもだよ。今回の依頼は、少し変なところがあるからね。」
俺たちは、互いに目を合わせた。
「…数日前までは、作戦には賛成だったんだけど…もう、賛成できないね。」
俺は、少し嬉しかった。春日が俺の意見に賛成してくれたのは、ちょっと嬉しい。
「さすがっ、俺の親友!」
春日の肩に俺の腕を乗せてみた。すると、春日はボッと音が出るくらいの勢いで顔を真っ赤にした。
えっ…?
「なぁに赤くなってんだよ!」
「べっ、別になんでもないわよ!」
そう言って、深呼吸する春日。変な奴…
「なぁ、で、その作戦って今どこまで進んでんだ?」
「知らない…さすが幹部が管理してるだけあって、中々情報が漏れない…」
「そうか…」
俺は片方の空いてる手で髪の毛をわしゃわしゃと掻き分けた。
「ハッキング…してみるか?」
「やめてときな。もしバレたら、あんたも狙われるよ。」
それもそうか。
俺は春日の肩から腕を下ろして、深くため息をついた。
「マフィアの情報を集めるのは…何かと覚悟がいるわね…」
「あぁ。でも、もし、アルマーノ戦闘部隊がディアモを襲ったりしたら…」
「作戦ではそうだけど…」
「あいつら、暗殺部隊からも何人か人を集めてるらしい。」
しばらく、気まずい沈黙が流れた。
「なんとかするしかないわね…アルマーノを裏切ってでも…」
「あぁ。」
俺たちは、見事に足並みを揃えてその場を歩きはじめた。
―バン!バンバン!
「―…っち」
飛び交う銃弾。しかしそれは、人を傷つけることは無い。
「―…っふ」
闘っているのは、雲雀先輩とわたし。
これは、ボスがわたしに言った訓練だそうだ。
「僕を相手に…ここまでやるなんてね…」
「ナメないで…ください!」
もうこの闘いは、30分以上前からやっているが、双方とも無傷だ。
「春、もしかしたらただの女じゃないって思ってたけど、まさかここまでやるとは思っていませんでしたね。」
骸六さんとボスが見守る中、わたしたちの戦闘はいっこうに終わりの気配を漂わせない。
「―ぅあ!」
だが、わたしは着地の際に、バランスを崩してその場にしりもちをつく。
「しまっ…―」
立ち上がろうとしたが、雲雀先輩がわたしの顔の目の前にトンファーを突き出した。
「はぁ…こっちの負けです…」
諦めたように両手を上げる。
すると、先輩はトンファーを退けてくれた。
「まさか雲雀相手にここまでやるなんて、春はすごいですね。」
「でも、負けました。」
「いや、勝ってたら雲雀がもっとキレてますから。」
それもそうだ。
ちらりと先輩を見ると、呑気にあくびをしている。
こっ、この人はっ…!
「でも、相当力はついていますよ。これなら、戦闘部隊が来ても大丈夫そうです。」
耳を疑った。
「せ、戦闘部隊!?」
「はい。アルマーノは情報屋だけではなく、暗殺部隊や戦闘部隊が数多くありますからね。」
聞いてねぇよ。おい!
「なんかわたし…段々私生活がデンジャラスになってきましたね…」
ため息。
「それは仕方ないことです。」
骸六さんが一歩こちらに近づく。
「わたしたちには、敵が多いのですね。」
思わずつぶやいた。
だって、そうでしょう?わたしたち、何も悪いことしていないのに、どうしてこんな…
「違うよ、春ちゃん。」
ボスが言った。
「これは、100年前から続いてるディストラクシャンとディアモの闘い…その終幕にするための闘いだよ。」
終わらせるための、闘い?
「そんなのっ、必要ないと思います!」
「必要なんです。春。」
骸六さんの冷たい声。わたしは、思わず彼を凝視した。
「そんなのわかりません!!」
「彼らの目的はチェックメイトガンです!」
珍しく彼が大声を出した。
「彼らは何としてもチェックメイトガンを手にいれようとしてる。それが、何故かはわかっていませんけど。」
「でも…」
「アルマーノはそのために利用されているだけです。」
利用…―?
「そんなっ…」
「はい。それは彼等も気づいています。でも、雇い主の言うことは絶対…ですから、彼等はいつ武装化してもおかしくない。」
知るかぁああ!と、叫んでやりたかった。
っていうか、いますぐ春日と居町に会いたいと思った。
あいつらもアルマーノなら…情報くれるとは思わないけど…
「それは、アルマーノの意志じゃないんですね。」
「はい。ですが…」
「なら、絶対にそれに反対する人もいるはずです!」
「…無駄だよ」
雲雀先輩がつぶやいた。
「なんで無駄なんですか!?」
「あいつら…常に雇い主に脅されてるから…」
脅し!?ひっきょうなやつら!
わたしそういう人一番嫌い!!
「なら、尚更助けないと!!」
「それは無理だ。アルマーノのアジトはわかってない。」
ボスが残念そうに俯いた。
だがわたしは、何かを企んでいるかのように、ニヤァと笑った。
「かーずが!」
学校で、わたしは今までに無いくらいの愛想で春日のところに行った。
「な、ななによ。」
それに驚いているのか、春日の声がうわずる。
「あのね、ちょっと話があるのー。」
ニッコリと笑って、春日を見る。
春日はわたしを睨んでいた。でも、それを無視してわたしは春日の腕を掴んだ。
「行くよ。」
「!?」
がっしりと掴んだ腕は、絶対に放すつもりは無かった。
そして。裏庭。
「さぁて…あらいざらい吐いてもらおうか…」
わたしはブレザーの内ポケットに手を突っ込んだ。
「ちょっと、ここで使わないでよ。」
「わかってるわよ。それよりも、わたしあんたに聞きたいことがたくさんあるの!」
何よ…と、ため息まじりでわたしを見る。
「アルマーノは、雇い主に脅されてるって、本当?」
「えぇ。」
あっさりだった。
え?って思うくらいあっさりだった。
「脅されてるわよ。毎日、幹部の部屋に呼び出されては…」
「本当?」
「えぇ。」
わたしを真剣に見る春日。何かを、決意したような目。
わたしは笑っていた。
「頼みがあるの、宇都宮。」
春日の刺さるような視線が、敵意ではなくなっている。
「あたしたちを、助けて。」
―ザァ…
風が強く吹く。春日の綺麗な黒髪が舞う。
「あたしたちの組織を、壊滅させて。」
何を言っているのだろう、この人は。
「幹部の男を、殺して。」
わたしは大きく目を見開いた。
春日は、自分で何を言っているのかわかっているのだろうか。
自分の所属している組織の幹部を、殺してくれと。
そう言ったの?
「なに言ってるか…わかってるの?」
「うん。」
強い決意。わたしは、それを理解してしまった。
「戦闘部隊と暗殺部隊が動き出す前に、早く。」
風が吹く。わたしたちの間をすり抜けるように、さわやかに。
でもわたしは、そこから一歩も動くことができなかったのだ。