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第十一話 恋慕の感情 〜アルマーノ編〜

波乱の文化祭もようやく終わり、今は後夜祭。

キャンプファイヤーを囲み踊っている人たちを見つめながら、その側でわたしは体育座りをしていた。

「春…なにしてんの。」

後ろから、聞き覚えのある声が聞こえて振り返る。

「…雲雀先輩、似合わないですよ。こんなところにいるの。」

「…」

返事は返ってこなかったが、コツンと、頭にトンファー(多分)がのった。

わたしはそれをどかせるわけでもなく、ただ炎を見ていた。

「なんでこんな時だけわたしをかまうんですか…」

「別に。」

そう言いながら、先輩がわたしの隣に座る。

「今日、先輩変ですよ。焼きそば食べたい言った時ぶっちゃけこいつ大丈夫か?って思いましたもん。」

そう言っても、今日は何の返事も返ってこない。

脅すわけでもなく、ただ無言で隣に座る先輩。

ちらりと盗み見してみると、ちゃっかり寝っ転がっていた。


らしくないな…先輩も、わたしも。

「せんぱーい、ファンの方々が見てますよー。踊ってほしいみたいですけどー」

「いやだ。」

くすくすと笑いながら先輩を見る。かーっ、この人なんでこんなに顔綺麗なわけ。

心は鬼なのに…。

「一日くらいサービスしてあげたらどーですかー?」

「斬り殺すよ…」

いつもの脅し文句にも慣れたわたし。

燃える炎を見つめながら、そっと先輩の横に寝っ転がってみた。


「はぁ〜…今日は疲れたー…」

腕を頭の下で組み、目を瞑る。騒ぎ声に紛れて、風の音が聞こえる。

気持ちよかった。

「いっつも先輩ってこんな風に寝っ転がって、何考えてんですか?」

「関係の無いことだろ…」

わたしが寝っ転がったからか、雲雀先輩が今度は起き上がる。

髪の毛にくっついた草を取りながら、さっきのわたしみたいに炎を見ている。


「マフィアになったこと、わたし後悔してないですよ。」

言ってみた。

「ふぅん…。」

目を細めながら炎を見続ける先輩。そっか。やっぱり罪悪感は無かったか…。

「…先輩、なんか気にしてることあります?」

起き上がって、先輩の横顔をまじまじと見る。

「別に。」

「絶対なんか気にしてることありますよね?そうだって顔してますよ。」

「へぇ…」

それ以上追求されたくないのか、先輩が立ち上がった。

なに?先輩、いつも暴言吐いてるくせに今更気にしてらんないとか?

やっぱそういう思考になるのか!?


真剣に考えていると、今度はトンファーじゃない何かが頭の上にのった。

「…?」

顔の角度を変えて見てみると、それは間違いなく先輩の手だった。

「…じゃ。」

トントン、と軽く乗せられた手。今までずっとトンファーだったのに、どうしてだろう。

去っていく先輩を見ているわたしの顔は、炎のせいか、それとも別のせいでか、ほんの少しだけ赤くなっていた。


完全に先輩が見えなくなった後、わたしはもう一度地面に寝っ転がった。

今度は寝返りもうって。

ブレザーの中の銃が地面にゴトリと音をたててぶつかる。

「はぁ…」

どうしたんだろう、わたしは。

あの馬鹿鬼なんぞに顔を赤らめているのは、なぜだろう。

わたしは、一体どうしてしまったんだろう。

「―っもう!」

勢いよく起き上がった。

すると、視界の端に居町くんの姿が映る。

わたしはなるべく気配を消してその場から去った。

校舎へ向かう渡り廊下を歩いていると、向こうから誰かが歩いてくる。

段々縮まっていく距離、月明かりが差し込んだ時、その正体が明らかになった。


「…気をつけて。」


すれ違い間際に、わたしはそっとつぶやいた。

その声が聞こえたのか、ニッと笑う、春日。

「あんたも。アルマーノの情報網ナメてたら、いつか後悔すっから。」

春日は止まって、そう言った。

でもわたしは歩き続けた。

その声も、しっかり聞こえていたし、強く頷いた。



今日知った事実は、わたしの運命をこれから大きく左右するのもだと、改めて思った。

そしてこれが、アルマーノVSディアモの闘いの始まりだと、覚悟を決めた。


「さよなら…わたしの青春。」

夜空に向かって手を伸ばして、そっとつぶやいた。

それでも心が軽いのは、きっとわたしのすぐ側に仲間がいてくれたからだと思う。

だってわたし、雲雀先輩も骸六さんも、ボスも、本当に信頼できる初めての仲間だもん。

その人たちがいてくれれば、それでいい。


荷物を取りに教室まで向かう。

電気の点いていない校舎は、不思議なくらいに静かだった。

「はぁ…っ!!」

教室に入ると、そこには二つの陰が。

しかしわたしは、ひっじょうにタイミングが悪かった…

ごめんなさーい!!

心の中だけで叫んで、わたしは全速力でその場から逃げた。


キキキ、キスしてたよあのカップル…!!

どっひゃぁ!見ちゃったよ、見ちゃったよこれ。

っていうかなんでわたしが顔を真っ赤にしなくちゃいけないの!!

もう本当に、今日のわたしはおかしい…


髪の毛をくしゃくしゃと掻きあげながら、わたしはもう一度キャンプファイーヤーのところに戻った。

踊っている人たちを眺めながら、さっきみたいに寝っ転がった。


少し、寝よう…



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