生体資産
新札の顔を決める会議は難航した。
というのもキャッシュレス化が進み、現金を持ち歩く人が1人もいなくなったからだ。
原則、現金払い禁止の国もあり、人々は不審がっていた暗号資産を変異させた生体資産へと預金を移していった。
文字どおり生体の中に資産を管理するデータベースを構築し、流出しない・損失を出さない・騙されない資金として市場を独占した。
この事態に国はハイパーメガバンク一強として脅威を抱き、訴訟を起こした。自分の命と一体となった資産は守られるのか、世界の注目を集めた裁判は、最高裁で決着をつけた。
「人間をハッキングしない限り有効な手段」として国の訴えを退ける判決を下した。
時代が進み、人体に害のある電磁波を、ハッキングを目的として浴び続けた脳は創作の世界にない進化を遂げた。
「ねえママ、あれ何?」女の子が言った。
「アブラゼミ科のセミよ」と答える母親。
『エーン、エーン』と鳴き続ける顔面脂ぎった富裕層の中高年が大木にしがみついていた。