妹たち
「ああ、もう嫌だ。何で俺はアルシーア嬢とあんなに席が離れているの? 教室の端っこ同士じゃ授業中ずっと顔を凝視する訳にもいかないじゃないか!」
「たとえ彼女がお兄様から見えやすい位置に居ようと、ずっと凝視するのはおやめ下さい」
昼休み、王族専用の休憩室で愚痴っていると呆れた顔でプルメリアに注意された。
「お兄様ったら、相変わらず気持ち悪いのですね」
「おい、アイリスよお前もか」
入室して第一声がそれ? いつも可愛く甘えてくれる妹が冷たいなんて、お兄ちゃん泣いちゃうよ!
「お兄様は大好きですし格好良いと思いますが、コンフィデント様が絡むとおかしくなりますもの」
「そうよね。まかり間違って想いが通じても、その本性は隠しておかないとフラれますよ」
「それは肝に銘じておきます。いや、待って。まかり間違ってってどういうこと? 何が何でも彼女に振り向いてもらうから」
その方法が最終的に泣き落としになりそうなのは、うん、流石に自分でもヤバいと思うんだ。でも彼女の安全を確保するまでは下手に近付けないから余計に想いだけが募っていく。
「もう少しの辛抱ですよ、全て片付いたら晴れてアルシーア様を迎えに行けますから」
「そうですわよ、お兄様。私もあの性悪妹を監視しておきますから頑張って下さいね」
「頼んだよ、アイリ」
あの要注意人物たちと同じ学年に信頼できる妹がいるのはありがたい。専門の監視役もいるが、やはり同じ女子生徒だからこそ気付けることもあるだろう。
「でもウンザリです。幸いにして彼女の成績は下から数えた方が早いのでクラスが違いますが、もし同じクラスだったらストレスでやけ食いしている自信しかありませんわね」
「あの女、どうしてああも的確に人を苛立たせるんだろうな」
「天賦の才ですね。アイリ、お菓子のやけ食いはお勧めできないけれど、食後にフルーツフレーバーの紅茶の飲み比べをしましょうね」
悪い意味での天才だな。
「ありがとうございますお姉様。彼女、一部の殿方には人気がありますのよ。似たような知能の方ばかりですけど」
「あの頭の中身が軽そうな外見に馬鹿な男は騙されるのか? 全く理解できない趣味の悪さだが」
「そのようですね。何せその殿方たちの間では陽だまりの天使と呼ばれていますから」
天使? 誰が?
まさかと思うが、堕天使ですら裸足で逃げ出しそうな程に堕落しているあの淫売のことではないだろうな? もしそうなら対象の本質から かけ離れすぎて、もはや言語そのものへの冒涜と言っても過言ではないぞ。
「そんなのは上等すぎる表現だろう。
あの尻軽を言い表すなら、立てば好色 座れば淫婦 歩く姿は肉便k」
「お兄様! 品位に欠ける発言は控えて下さい!!」
ったく、リーアはお堅いヤツだな。誰も聞いていない今ならこの程度の軽口は許してくれよ。
「その油断が命取りになり得るのですよ」
ギロッと睨みながら注意される。何も言ってないのに的確に俺の思考を読み取るのは流石だなと思う反面、とても厄介だ。
でも可愛いからヨシ!
「キモい。あ、これは庶民の言葉で吐き気を催す程に気持ち悪いという意味です」
「酷い! それにその言葉は普通に気持ち悪いって意味だろう?」
「いいえ、私の場合は単に気持ち悪いと言うだけでは生温い時に使いますから間違ってはおりません」
「お姉様ったら正直すぎますわよ、もう少し婉曲に」
そこまで言うか、お兄ちゃん悲しいよ。そしてアイリ、全くフォローになってないからな。でも遠慮なく好きなことを言い合えるのが兄弟姉妹の良い所だと思う。
こんな関係の俺たちだが、実は兄上とアイリスは現王妃のカルミア義母上が産んだ子供で、俺とプルメリアの母上とは違う。だが元々母親同士が親友だったこともあり、俺たちの生後一年で亡くなった母上の代わりに義母上が俺たちを育ててくれた。