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王女殿下たち

ヒロイン視点です

「アルシーア様、ごきげんよう」

「お義姉様、何か困ったことはありませんか?」


 学園から戻られたプルメリア第一王女殿下とアイリス第二王女殿下に声をかけられた。お二人共に現れただけでその場が明るくなるような美貌の持ち主で近隣諸国にも広く知られている。


 プルメリア殿下は双子のお兄様であるオリアンダー第二王子殿下と同じブルーシルバーの髪と瞳の持ち主だけれど、顔立ちはそんなに似ていらっしゃらない。オリアンダー殿下は氷の王子と呼ばれる程に冷たく研ぎ澄まされたような美貌の持ち主。四人のご兄妹の中では最も近寄りがたい雰囲気の持ち主ね。実際はお優しい方なのだけれど。

 対するプルメリア殿下はお母様である故アスター妃殿下と色合いは違うけれど、顔立ちはそっくりな儚げな美少女。色味も相俟ってまるで精霊のようで、目を離した瞬間には消えているのでは、と思ってしまう程。

 でもお話をすると明るくて楽しいお方。礼儀を弁えない相手──私の異母妹のシフィリスが代表格なのが情けない──には厳しい態度で接するけれど、それは上位者として当然のこと。王女殿下にそうさせてしまう方が問題なのよ。本当に恥ずかしい。


 そしてアイリス殿下は王太子殿下と同じく青紫の髪と瞳を持つ美少女。お母様のカルミア王妃殿下によく似た華やかな美貌を備えつつも、どこか親しみやすさを感じさせるお方。

 実際にお話させて戴くと可愛らしい甘え上手で驚かされたわね。人と比べるなんて失礼だけれど、私のお友達のガーベラ様と雰囲気が似ていらっしゃる。外見は全く違うのだけれど。でも流石に私をお姉様と呼ばれるのには驚かされたわ。曾お祖母様たちの世代だと上級生をお姉様、お兄様と呼ばれていたそうだけれど、それに憧れていたのかしら?

 あの習慣は王族の方々が疎外感を覚えてしまわれて廃れていったみたいね。幾ら何でも王族とそう呼び合うのはあり得なかったから仕方が無いわ。


 プルメリア〝様〟は昨年度から名前で呼んで戴ける程に親しくなれて光栄だと思う。心の中では流石に殿下と呼んでいるけれど、口に出してそう言ってしまうと悲しげなお顔をされるので気を付けないといけないのよね。やはり心の中でもプルメリア様とお呼びするべき?

 アイリス殿下とも昨晩にご一緒させて戴いた時に名前で呼び合う、と言うか私は名前でお呼びして、殿下は私をお姉様と呼んで下さることになったのだけれど……少し恥ずかしい。そういう意味ではないのだろうけど、まるで本当に義姉妹に、つまり、その、オリアンダー殿下と正式に何らかのお約束をしたみたいだから。そんなことは無いのに。

 昨晩は想いを吐露してしまったけれど、何と言っても相手は王族。そんな簡単な話ではないもの。それでも少し期待してしまうのは仕方の無いこと。こちらから強引に迫らなければ問題ない筈だし、そもそも期待するようなことを仰るからよ。あれで期待するなと言う方が無理だと思うもの。



「王女殿下方におかれましては」

「そんな他人行儀な挨拶はイヤですって昨日言いましたわよね?」


 人目もあるので普通に挨拶しようとしたら殿下、いいえ、アイリス様に抗議されたわ。確かに昨晩お約束させられ……しましたからね。今までなら第二王女殿下とお呼びしていたので違和感が凄い。


「アイリ、イヤだなんて強い言い方をすると困らせてしまうわ。ごめんなさいね、アルシーア様。ところで今日、この後に何かご予定は?」

「特に何もありません。時間には充分な余裕を持って予定を立てて下さったお陰ですね」


 王太子殿下も親身になって下さって、何を恐れていたのか自分でも不思議だったくらい。でも落ち着いて謁見に臨めたのも、オリアンダー殿下が前もって例の事件について話して下さったお陰ね。

 それだけではなく昼食の席でも幼い頃のご兄妹の話をして下さったお陰で、謁見の際は驚く程にリラックスしていたわ。王太子という公の顔だけではなく、ご自分の弟妹を愛するお兄様としての面を知ることが出来たお陰かしら。本当に殿下には感謝しているわ。



「ご予定が無いなら私の部屋に来て下さい! お義姉様とお茶をご一緒したかったの」

「私もご一緒させて下さいな。ガーベラ・デアリング様に説明した内容も伝えたいので」

「喜んで」



 昨夜から王宮に滞在しているけれど、実際に私が継承するまで事情は伏せておかなければならない。でも無断で一週間以上学園を休むのは問題がある上に心配されるので、プルメリア殿下が当たり障りない理由をつけて説明して下さることになった。ありがたいわ。他の人はともかく、ガーベラ様は本気で心配してくれるだろうから。


 ガーベラ様は現子爵の姪にあたる方で、ご両親が駆け落ちして結ばれたそうなの。二年前にお母様を亡くしてデアリング子爵家に引き取られるまでは市井で暮らしていたのだけれど、小さい頃に亡くなったお父様から基本的な所作を指導されていたと本人から聞いたわ。そのお陰か礼儀作法は何の問題も無い。

 ただ、曲がったことが嫌いなので問題のある方々を見たら注意する。そのせいで周囲からは少し変わった人だと思われているけれど、困った人には手を差し伸べる優しい人。彼女の友人であることを心から誇りに思うわ。



「さっ、お掛けになって」

「欲しい物があれば遠慮なく言って下さいね」


 アイリス様のお部屋は最高級の調度品で程よい可愛らしさにまとめられており、お姫様の部屋のイメージにぴったりね。

 お礼を言って座るとすぐにお茶が用意された。好きだと言っていた茶葉を使って下さっているのは流石だわ。


「早速ですが、デアリング様を始めとした学園の皆様には、王家からコンフィデント侯爵家にお願いすることがあり、城に滞在してもらっていると話しておきました。皆様に滞在を〝お願い〟しているのは本当ですからね」


 お願いの内容と城での扱いが私とその他では違うけれど、確かに真実を告げてはいる。私も一応調査される立場だから、ガーベラ様に直接何かを告げることは出来ない。手紙すら書けない──検閲が入っても良いのなら書けるけれど、友人宛の手紙を人に読まれるのは抵抗があるから諦めた──のは仕方ないけれど少し辛いわ。


「デアリング様から手紙を預かりましたわ。それで、申し訳ないのですが中身を確認させてもらいましたの」


 それは前もって伺っているから大丈夫なのに律儀な方ね。恐らく、ガーベラ様にそれを伝えられなかったことを悔しく思っておられるのだろう。


「お気遣い痛み入ります」

「すっごく遠いです! 心の距離が! もっと砕けた態度でお願いしますって言いましたよね? 悲しくなりますわ」


 早速アイリスで……様の抗議が。そう言われましても。


「気を付けてはいるのですが、身に染みついた習慣はなかなかとれなくて」

「アイリ、無理強いは良くないわ。アルシーア様ったら、私と名前呼びになってから半年以上経っても未だに私を『殿下』と呼ぶこともあるのだから」


 ああ、そんなに寂しそうな顔をされては罪悪感が……。そうね、遠慮し過ぎるのも却って失礼だわ。


「プルメリア様、気にかけて下さってありがとうございます。アイリス様も。お二人に早速好みの物を取り揃えたお茶の席に招いていた……もらえて嬉しいですわ」


 戴いたと言いかけたのに気付かれた筈だけれど、それについては一切触れないでいてくれる。


「お義姉様に楽しんでもらえたらそれが何よりのお礼ですわ。お兄様が忙しい時しかご一緒できるチャンスはありませんもの」

「そうね、お兄様とご一緒の時はお邪魔したくないものね。限りある機会を楽しみたいわ」


 頬が熱い。お気持ちは嬉しいけど こういう時にお礼を言ってしまうと、オリアンダー殿下と二人にして下さることにも感謝しているように聞こえる気がするわ。どうしたら良いの?


「まあ、お義姉様ったらお顔が真っ赤。本当にお可愛らしいわ」

「アイリったら、からかうものではなくてよ。でも本当に可愛いわね」


 私、このお茶会が終わるまでに何度俯く羽目になるのかしら?


「ところで、私たちもデアリング様が気に入りましたの。以前から思っておりましたが彼女、真っ直ぐで気持ちの良い方ですわね」

「貴族となってからの時間は短いのに しっかりされているのも素晴らしいと思います。それで彼女に名前で呼び合いたいとお願いしたのですけど、畏れ多いと固辞されてしまって悲しいですわ」


 アイリス様の悲しそうなお顔を見ると、胸が締めつけられて何でも聞いて差し上げたくなってしまう。このお顔を目の当たりにしながら断ったガーベラ様って、もしかして精神面では最強なのではないかしら。

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